人魚姫の憂鬱
ー人魚姫の憂鬱ー
生まれた頃から体が弱かった僕はよく病院のベットに寝たきりの日々だった……
そんな日常に僕の兄はいろんな話をしてくれた。
日本の昔話や童話などをいつも優しい声で読んでくれていた。
きっと兄だって疲れているはずなのにそれでも仕事でいない両親の変わりをしてくれていた兄は毎日読んでくれていた、時々兄の鞄から教科書を取り出しては読んでとせがんだこともあった。
意味がわからずともどの国についても歴史も文化も好きだったからだ。
僕たちはハーフで日本人の母にも日本について聞いていたこともあった、日本に住んでいても病院で寝ている日々でなにも知らない僕にとってはどの物語もとにかく好きで好きでたまらなかった、父から聞く国の話よりも特に日本の話が一番好きだった。
八歳が終わる日、まだ僕は寝たきりだ
病院から家に帰れるようになってもまだ寝たきりだ。
最近違和感がある。
なんで自分の足はこんな形なのだろうかと思っていた。いやきっとこれが正常なのだろう。
お兄ちゃんだって僕と一緒の形だ。
でも、なにか違和感があった……
こんな感じじゃない……
他の人と同じ形で同じように2本あって同じように歩けるはずだ、そう、歩けるはずなのに、なんで僕は今もベットの上にいるんだ。
歩けないわけではないはずだ。
でも、ベットから出れない。何処にも行けない。
毎日息が詰まりそうな思いで過ごしていた。
大好きな兄の話を聞いてもいても足に気を取られなかなか気分が晴れる事はなく、毎日が憂鬱だった。
まるで小さな水槽に閉じ込められたような気分だ。
息苦しくて、何処か冷たくて、寂しい……
何処にも行けない。
なにもできないなら、
こんないらない一部捨ててしまおう。
だってなにもできない、何処にも行けない、役に立たない、こんな脚いらない。
いらない
いらない
いらないよ。
こんな醜い僕の一部なんて。
ー いらない ー
僕は無我夢中で、隣の机から使えそうなものを探し床に転げ落ちても気に止めず引き出しを抜き入っていた物を全てひっくり返しその中から黒いハサミを見つけた。
そして、僕は自ら自分の足をハサミで刺した。
刺した傷口から、赤い何かが漏れだした。
別に痛くない、そんなものどうでもよかった。
僕は何度も繰り返し繰り返し自分の足を傷つけどんなに赤く染まろうと構わない、いらないんだ。
こんなもの、早く取っ払ってしまいたい。
無心にやり続けていると物音に気づいたのか兄が部屋にやって来てしまい、僕は手を止めた。
この時僕は初めてその時いつも変わらない表情の兄の酷く驚きを隠せずに真っ青になった顔を見た。
兄は慌てて僕に駆け寄り珍しく大きな声で僕の両肩を掴み揺すりながら問いかける。
僕は自分の握っていた、ハサミを兄に見せると兄は自分からやったのかとまた問いかける。
その答えに僕は、兄の強張る顔から視線を逸らさず大きく頷く。
「だって僕にはこんなもの必要ないもん。」
そう笑って言うと、兄はなにも言わず握っていたハサミを取り上げ部屋の隅っこに投げ飛ばし、僕を抱え病院へと向かった。
着いてから医者から何度も折り返し兄と同じ質問を問いかけられた。
両足とも爪先から太ももの半分まで包帯を丁寧に巻かれ所々の包帯から赤い血が滲んでいた、その血の滲む自分のいらない足を見ながからさっきの質問に対し兄と全く同じ言葉で返えし、そう答えると医者は考える仕草をしてから、また何度か質問を繰り返した。
それに答えに続け終わった頃に僕は医者の胸ポケットからペンを奪い自分の脚に突き刺そうとした、だが隣にいた兄に邪魔をされ、ペンを取り上げられ頬を叩かれた。
初めてだった……あの兄が僕に手をあげたのだ。バランスを崩し床に倒れ頭を軽く打ち僕はそのまま気を失った。
…………
目を覚ましたときには、僕はベットの上にいた。
見慣れない天井の色にすぐ自分の部屋ではないと確信した。
この嗅ぎ慣れた消毒液の匂い……、きっとまた病院だ。
また入院かな……
僕はどこも悪くない。
ただいらないと思った自分の脚を取ろうとしただけなのにどうして、また入院なのだろうか。ふと横を見るとそこには腕を組み寝ている兄の姿があった、あれからずっと側に居てくれたのだろう。
よく眠っていた、兄へと手を伸ばし服の裾を掴み引っ張り起こすか試してみるとゆっくりと目を開き僕の手を見て椅子から立ち上がり僕の手を握った。
体調などを聞かれ、大丈夫と頷くと安心したのか溜息を出し床に膝を立てしゃがむ、父や母の姿はなくここには、来れないと聞いたでもなぜ兄がいるかと聞くと
兄は僕から視線を逸らし口を濁した。
その後ろから、突然知らない人の声がした兄はとっさ後ろを向き僕もその方角へ目線を向けると全身黒い服を着用した人物がそこにいた。
その人物は包帯だらけの手を僕に差し出し挨拶をした、声も低く男性であることがわかる、しかし顔も帽子や包帯で覆われよくは見えなかった。
包帯から覗く白や黒い髪がその姿を一層不気味にした。
その後、彼は僕たちがいるこの病棟について説明をし
僕が正常に戻るまでの入院を余儀なくされた。
しばらく両親に会えないとも、その代わり兄にここの看護師として雇ったと聞いた。
確かに介護の学校に通ってはいたが……まだそんな年ではなかったはずだ。
経験や才能があるなら、いくらでも平気だと言っていたがそんなものがあってもあり得なすぎる……なんで兄がここで雇われるのかこの当時はあまり考えてはいなかったが今思うと不思議でしょうがない。
まぁ、一人ぼっちで、病棟施設に隔離させるよりは、ずっとましだったが何も返さなかったが本当にこれで正解なのだろうか……
黒服の男性が僕にある程度の説明をしまだ大事な仕事が残っていると言い僕らを後に何処かへ行ってしまった。
上半身で起き上がると両足が何かにくっついている感覚がありベットの中を覗くと脚を傷つけないようにするためか爪先から太もものあたりまで黒い布にくるまれ大袈裟に拘束され足首には枷がついており、そこから布の余りが飛び出していた。
どう見ても一人では外せず、この先兄の手を借りるしかないと悟った。兄に迷惑をかけるしかないと感じた僕は思わず、目から涙が溢れ落ちた。
こんなはずではなかった。
ただ、邪魔な脚を外したかっただけなのに……
誰かに迷惑をかけるつもりなんてなかった、自分のせいで兄までもがこの病棟にいなければならなくなったと自分をせめ、ただただ謝ることしかできなかった。
その時でも兄は僕の頭を撫で、いつものあの優しい声で僕に言った。
「大丈夫、焦らなくていい
ゆっくり治して一緒に家に帰ろう……」
僕は、泣きながら小さく頷いた。
それから、五年たってもまだこの病棟にいる、でも確かに僕の容体は良くなっている気がした、まだいつ帰れるかわからないけど、きっともうすぐだろう。
そうして今日も僕は狭い水槽の中で泳ぎ続ける……
いつかの夢を見ながら……
泡になるのを知らずに待ち続ける。
~END~
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