シンデレラの涙


女の子も男の子も全然興味なんてない。

なんであの子が好きとか、嫌いなんて感情が揺れ動くのか理解ができなかった、好き嫌いなんて本当にそうなのかなんて本人でも誰にも確実にこれと言った根拠などないし証明だってできない。

ましてや「一目惚れ」なんて一番理解に苦しむ。

なんで、皆そんなに確信的な理由もないのに素直にわかるのか本当に理解不能だ。

なにもかもが鬱陶しい言葉でしかない、アホらしい。

好きじゃないのに一方的に言われて丁寧に断ろうがなかろうがどうせ結果は皆同じなかなかしぶとい。

まだ、そう思うような人に出会っていないから、こんな考えなのだろうか。

いや、自分が変というわけではなく周りが簡単に見つけすぎなのだ。

本当に好きなら、すぐに見つかる訳がない。

そう言うものではないのだろうか。



ねぇ、母さん……

オレらが変じゃなくて周りが変なんだよね。

父という存在であるあの男やあいつらのせいで母さんは可笑しくなったんだ。

散々好きだのなんだの言って簡単に裏切ったんだよね。

だから母さんがオレにこんな事するのも、それが原因なんだって思い込んでいた。

もう、誰も裏切らないように自分から離れていかないように……

家の中にある柱に縄で縛り付けられある程度の短い距離しか動けない、いやもう動く必要なんてないんだ。

母さんの思うがままになっていればそれでいい、今はそれでいい、オレは絶対失敗なんてしない、今辛いのは全部あいつや周りのせいでオレや母さんは悪くない、いつか本当にオレを母さんを助けに来てくれる人が現れるはずだから、それが本当の愛する人で好きな人なんだって信じ続け今日も明日も明後日もオレは来るまでずっと待ち続ける。


いつかなんて来るわけないのに


ある日の部屋の中で蝉の鳴き声がやけに騒がしく噎せ返るような蒸し暑さが込み上げる中母さんは、オレに言った全部全部お前のせいだと母さんは運がなかったんだ、本当に好きな人と勘違いして勝手に結婚して勝手に生んで勝手に後悔した、勝手にやったことなのに……

自分の運の無さなのにどうして全てオレなんだ。

なんで……

なんで……ねぇ、

母さんのために……貴女のために………ずっとずっと一緒に待っていたのにどうしてオレなの。

オレが悪いの、オレがいたから失ってそんで大切な人が迎えに来てくれないっていうの。

まだあの父親って存在のやつを信じているのか。

母さんは無抵抗なオレに長い間罵声や暴力を浴びせ続け顔を中心とした暴力はまず平手打ちから始まり殴られた時に残るあの嫌な音が頭の中で鳴り響き頬も痛みよりもじんわりと熱を帯びてしまいなにも感じない、その他にも腕やお腹辺りにも地味に痛みがあった、よく見ると青色から赤紫かかった色に変色しその色の痣がちらほらと目立つ、それと同様に未だに外されない片足と家の柱に繋がれたオレの足首から太腿はきつく縛りつけられているせいかいつもより酷く内出血を起こしていた。


嗚呼なんて馬鹿らしい。


結局誰も来やしない……

いつまで待ってもオレも母さんと一緒……

いや母さんはいつまでも父親ってやつの帰りを待ち望んでいる、オレとは違う。

オレは迎えに来て欲しい、帰りではなく今すぐ迎えに来てここから連れて行って欲しい……

意味なんてなかった。

こんなの無い、ずっと……ずっと待ってたのに……

どうしてオレだけがこんな思いしなちゃいけないんだ。

この物語にヒーローも王子様なんていやしない。

何もかも人のせい、始めから意味なんてなにもない。

馬鹿らしい。

ホントにつくづく自分は馬鹿らしい。

少し考えればわかることなのに……母さんやあいつらではなく、自分がこの中で一番愚かで馬鹿だったんだ。

好きな人なんてこの世にいるわけがない。

ただこの辛い現実から目を背けたかったんだ、だから

だからずっと待ってるフリをしていたんだ。

「なんで……全部オレのせいだったの……」

母さんは、目障りで全ての汚点であるオレを蔑んだ目で見下し、手近にあった物をオレに投げつけその後尽かさずに首を絞めてきた、徐々に苦しくなり呼吸がしずらくやめるように必死に訴えたが今の母に聞こえるはずもなくうっすらと目を開けるとそこには涙を流しながら怯えた姿の母がおりオレはそんな母の手に自分の手を重ね、なんて可哀想な人なんだろうかと思い、今この瞬間殺されそうになっているはずなのにオレは母さんに笑いかけた。


大丈夫、オレは絶対に裏切らないよ

どんなに酷い仕打ちを受けようと、オレは裏切ったりしないよ、こんな哀れな姿の人を簡単に見捨てたり裏切ったりなんてしない。



だって裏切るのはオレじゃなくて……



いつも相手のほう……信じていても好きだと言っても

どうせ……相手なんだ、そうつまり……

……あなた自身なんだから。


オレがそう言うと母はオレの首から手を離す。

うまく呼吸ができずに噎せ返りつつも母を呼んだだがその声に答えてはくれず、部屋の隅へ身を縮めてしまった。


その日以来母さんはオレに何もしなくなった。

未だに柱と繋がれたままの脚……

それと最近母の姿を見ていない一体何日母の声や姿を見ていないのだろうか……

理由はわからない、余程オレを視界にいれたくないのだろう……あと元々オレは目はあまり良くないほうだがそれが更に悪化し視力が明らかに低下した気がしただって今、目の前にあるものが一体なんなのかぼやけてよく見えないのだから。

静かになった部屋も暗く何かが滴り落ちる音と果物か何かが腐ったような臭いが充満していた。

上を見上げてもぶら下がっている物を把握してもそれが何かは特定できなかった。

視界は鏡のように曇り全体がぼやけ絵の具が水で薄く滲んでいるそんな風に視界が歪んだ。


オレがそう思いたかっただけなのだから、

誰が来ることなんて勿論なかった。

蝉の音がいつしか日暮に変わる頃扉が開く音が聞こえた。

白くなったり暗くなったりしてその声は徐々に近づいた、その声は男性二人の程の声だと思った、よく喋る方とあまり発言せず声的に若く感じる人物であった。

目の前でぼやけてわからないものから白く服の部分であろうか布のようなものをオレに被せきつく縛られていた縄をほどき優しく落ち着くような声で喋りかけてくれた。

その声に安心し胸をそっと撫で下ろすと体に力が入らなくなりその人へと凭れ掛かってしまう。身長もそこそこある男のオレを簡単に軽々と持ち上げよく喋る方と言い合いを繰り返していた。

耳によく通り響く声がオレの顔を荒く掴み左右に動かし目のことを指摘された、まるで医者のように淡々とオレの症状を述べ扉の軋む音がし外へ連れ出された。

部屋とあまり変わらない温度に部屋にいた頃よりもずっと耳障りな蝉の音が喋り続ける男の声と重なりノイズのように周りの自動車や風で物が揺れる音をかき消した。

何年かぶりの外に朦朧とする意識の中何もかもかき消す声と共にオレはいつしか意識を手放した。

この物語にヒーローや王子様なんていやしない……そう思ってた……でも今日救ってくれた、今日来てくれた。

あの部屋から連れ出してくれた。

優しい声の人……あの人が自分がずっと待ち続けていた人なんだと確信した。

性別など何でも関係ない、やっと見つけた……

やっと出会えたのだから。


意識を取り戻したとき、そこは真っ白な空間であの部屋に居たときとは全然雰囲気が違い変な違和感があった。

服も変わっていて手や足が隠れるくらいの大きめ服だった。

感覚的にまた片方の脚の付け根から足首まで何かで固定され何処かで繋がれている気がした。

金属の擦れる音と足音が聞こえた、それは確かに聞いたことがあり、酷く耳に通る声がしあの男性だとすぐに気づいた、そしてその男性はこの部屋の事病棟についての話をし始め全てを理解するのはなかなかできなかったが、なんとなくならできた、どうせ戻ったところでなにも変わってなんかいないだろうそう思いオレは躊躇せずに男性の話を承諾した。

男性が部屋から出ていく前にもう一人はどうしたのかと訪ねると男性は彼はここの看護師なのですぐに会えるとあの部屋に居たときとは別に人が変わったように冷静で丁寧な口調で言い残し部屋を出ていった、男性の言葉通り少ししてからあの優しい声がしここの看護師であるという彼にもここの話を聞かされ毎週目の検査をすると言い僕の目に黒い布を巻き付けた。

その時微かに震えたような悲しそうな声でまた来ると一言言い残し頭を撫で部屋を後にした、彼に喋りかけると彼は微笑んだ声で大丈夫と言って行ってしまった。

お礼の一つくらい言いたかったのに……

何か様子が可笑しかった、でも「また」と言ってくれた、それにここにいるならいつでも会えるそれがとにかく嬉しくてしょうがなかった。

絶対、母さんのようなならない、オレはちゃんと見つけたんだ、本当に好きな人をここから、信じられる人を、

ただの幻覚でも妄想でも何でもない。

全部現実なんだ。



今頃遅いよ、王子様……


~END~

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