第2話 ここは異世界らしいです ―― side愛奈

 どうして三次元の顔面偏差値はこうも低いのだろう。

 これじゃあリアルで恋なんてできやしない。


 小学生の頃から少女マンガが大好きで、中学辺りから乙女ゲームにはまった私は、二次元のイケメンに恋する、いわゆる夢女子だ。


 別に三次元に二次元と同等の超イケメンが現れたのなら、ぜひとも付き合いたいし、それが無理でもそんなイケメンなら片思いできるだけできっと幸せに思える。


 なのに、なんで、リアルにはそんな私が恋焦がれられるような超イケメンがいないの!?

 アイドルや俳優、モデルなんかにはたまにすごく素敵なイケメンがいるけれど、所詮それは別の世界の人達だ。

 私は日常生活でよく顔を合わせられるレベルの関係性じゃないと相手の存在に現実感を感じないの!!


 あと、見た目的には十六歳から二十五歳くらいまでのさわやか好青年風じゃないと嫌で、小学生の時にかっこいいと思っていたイケメン俳優が最近は渋いおじさんになっててつらい……。


 歳を重ねて大人の色気がとか、世間的には若いときも良かったけど、今もかっこいい! みたいな評価だけど、私は若い時の彼が好きだったのであって、髭を生やしてダンディーにきめる姿なんて見たくなかった!!


 海外の俳優なんかは特に、若い時は良くても年取ってからあごが二つに割れたり、胸毛が生えたりして受け入れられない。

 なんで私にはイケメンの幼馴染や同級生、先輩や後輩がいないの……。


 受験勉強のストレスで、私はそんな現実逃避をしながら机に身体をたおした。

 壁にはお気に入りの乙女ゲームのポスターが貼ってある。


 ああ、夢小説よろしく本当に二次元に行けたらいいのに。

 好きな作品が多すぎてどの作品世界に行くかは迷うけれど、イケメンがいっぱいの世界ならもうなんでもいい。

 そこまで考えて、私は大きなため息をついた。


 私は今つかれている。

 時計を見たら十二時を指していた。

 今まで休みの日は乙女ゲーか池袋へ買い物かイベントに行くかだったというのに、大学受験が迫っているためにそれらは全て封印されている。


 つらい。


 お腹がすいているからそんな事を考えるのだと思い直して、私はキッチンに向かう事にする。

 お母さんの料理を手伝えば、その分早く食べられるはずだ。

 私は部屋のドアを開けて、廊下に一歩足をふみ出した。


 しかし、ふみ出した私の足の裏には、明らかにフローリングではない、土のような感触があって、さらにおかしなことに、目の前には森が広がっている。

 ひんやりとした風が私の頭をなでて、とっさに後ろを振り向けば、今私が出て来たはずの部屋のドアが消えている。


 軽くパニックになりながら辺りを見わたせば、ポカンとした表情で私を見つめる美少女がいた。

 ピンク色の長い髪を一本の三つ編みでまとめていて、耳は長くとがっている。

 黒いローブを着た、いかにもファンタジーな見た目的みためてきに、アニメか何かのコスプレかな?


 たしかにこの辺りはいかにも童話に出てきそうな森の中で、撮影にはもってこいだ。

 とにかく私はここがどこなのか知りたくて、彼女に話しかけた。


「あの、ここは……」

「すいませんでしたっっっ!!!!!」

 だけど、私の声をさえぎって、その子はものすごい勢いで謝ってきた。


「私マノンっていうんですけど、別の場所と別の場所を繋げる魔法の実験をさっきしてて、でもさっき急に展開した門が不安定になって! それで……!」

 私の両肩をつかみながら、マノンはすごい勢いでまくし立ててくる。


「お、落ち着いて、私はあいな、竹原たけはら愛奈あいな。愛奈でいいから……」

 私も突然の出来事に軽くパニックになりかけてたけど、あわてるマノンを見たら逆に落ち着いた。

 マノンをなだめながら自己紹介すれば、マノンも少しおとなしくなった。


 それから私はとりあえず事情説明のために、マノンの家に案内された。

 案内された家は、一言で言うと御伽噺おとぎばなしに出てきそうな三角屋根のちょっとこけむしたり、つたが壁についてるメルヘンな小屋だった。


 中は白雪姫に出てくる小人の家みたいだったけど、整理整頓がされててキレイだった。

 しかも、一見質素だけど所々に可愛い小物があったり、窓辺に花が生けてあったりする。

 マノン……女子力高い。


 話によると、マノンは魔法を研究しているらしくて、ちょうどさっきは別々の空間を繋げる魔法の実験をしてたんだけど、転移用の門が開いた直後不安定になって、門が消える瞬間に私がそこから出てきたみたい。


「本当にすいません、アレはまだ不安定な技術で、多分私の想定した所とは違うところに勝手に繋がっちゃったんだと思います」

 本当に申し訳無さそうにマノンが私に謝る。

 それと一緒に長い耳がしゅん、と下がる。


 私はこの時点でまさか、とは思ったけど、大人しくマノンの話を聞いて、ここはどこなのか教えて欲しいと頼んだ。

 マノンはすぐに地図を持ってきてくれて、机の上にそれを広げた。


「これがこの、アイネス地方の地図です。私たちが今いるのが、このラルカンジュ領西のナルナの森で、大体この辺です……わかりますか?」

 透き通った水色の瞳が不安そうに私を見上げてくる。


「……ええっと、世界地図とか、あるかな?」

「は、はいっ……!」

 私がマノンにそう問いかければ、顔を青ざめさせながらもさっきよりも少し大きな地図を持ってきてくれた。


「あの、この中央にあるのが王都のガルデオルムで、私たちのいるアイネス地方というのがここから北西にあるここです」

 マノンが地図の左端辺りを指差しながら言う。


 思った通りさっぱりわからない。


 でも、目の前の精巧な地図を見ると、ドッキリではなさそうだ。

 有名人でもない一般人にここまでお金をかけたドッキリをしかける意味がわからない。

 だから考えられる可能性は、これは机の上で寝落ちした私の夢か、本当に異世界に来てしまったかだ。


 個人的には受験勉強にうんざりしてたので後者であって欲しい。

 まだマノンしか見てないからなんともいえないけど、この世界は美形が多そうな気がする。


「……この世界って、いくつ国があるの?」

「一つです。二百年前にランカルデ帝国が世界統一を果たしました」

 国による色分けがないなと思って尋ねてみれば、マノンが不思議そうに答えた。


 世界政府できてる。

 だから結構精密な世界地図とかあるのかな?

 まあいいや。

 それはそれとして、一つマノンにたしかめなきゃ。


「……ちょっと話かわるんだけど、異世界に行く魔法とかってある?」

「異世界? さあ……昔から御伽噺で語られるロマンではありますが、同じ世界の違う場所へ空間を繋げる魔法さえ一部の貴族がその方法を独占してままなりませんし、そんな魔法……無いとは言い切れませんが……」


 私が訪ねてみれば、マノンは眉間に皺を寄せて首をかしげた。

 言葉を選んでるようだけど、マノン的には無いって認識みたい。

 ついさっき私をこの世界に呼び出したのは間違いなくその異世界とこの世界を繋げる魔法だとは思うんだけど。


「あの、もしかして、アイナさんが元いた場所って、ものすごく遠くだったりします……?」

「うん。ちょっと自力じゃ帰れそうもないかも。あ、あと、さんはいらないよ?」

 ソワソワした様子で、マノンがきいてくるから、私は素直に答えた。


「うわあああ! ごめんなさい! 戻れる手はずが整うまではうちにいていただいて大丈夫ですから! ホントすいません!!」

 涙目でそう言ってくるマノン。


 どっちにしろ帰る方法もないし、マノンはなんかいい子そうだし可愛いので、私はしばらくマノンの家にお世話になる事にした。

 この世界の事も色々マノンに教わればいいよね!

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