第11話 地下三階(1)魔王一行、熊を探す

『パラララリヒッヒ~フヒャヒャイェイ~♪』

「こいつクソうるさいんですけどー(怒)」


 ダンジョン攻略を再開した一行は、地下三階へ向かうため移動していた。

 ラミハの頭の上で、絶賛浮かれ中のカエル氏、益々ヘイトを高めていた。


「たしかにうるさい」

 ウサギ耳をだらりと下げてゲンナリしている薬師・ラパナは、懐から例の桃色の物体を取り出した。

「親衛隊の人、これ。カエルに」

「喰らわせてやれと」

 ラパナは力強くうなずいた。

「やい、カエル! いいもの喰わせてやる」


『オゥイェイ!ウェルカーム!』


 もぎゅっ!!

 ドラスは、カエルの口に、ピンクのすあま的なものをねじこんだ。


「ハッハッハー。どーだ。これでちったあ静かになるってもんだぜ」


『んーっ、んーっ』


「おいおい、あまりそいつに手荒なことはせんでくれよ。なぜなら、そいつがいないと、下に行けなくて宝探しに支障が出るからじゃ」

「支障? ですか、師匠」

「だれが上手いこと言えっつった、マイセン」

「いえそういう意味ではないのですが、陛下……」

「ん、どうかした?」

「私、迷宮に入る前に申し上げましたとおり、偵察で、見取り図を持って地下三階層目まで降りたのです」

「それが……どうしたんだ」

「私、このカエルとお会いしたのは、先ほどが初めてでございます」

「……というと」

「私は一体、どこの地下三階に行ったのでしょう……」


 PTの空気が凍り付いた。


「あー……。それは、保守用の階段じゃの」


「「「「「保守用?」」」」」


「誰でも使うことが出来るが、その階段では地下三階までしか行かれない。

 おめえさん、わりと雑な偵察をされたようじゃの」

「恥ずかしい限りでございます。迷宮内部に生息しているものや、見取り図に書かれた保守順路をささっと見て回っていただけでして……」

「俺はダンジョンに不慣れだからって、遺跡の周囲とか、地上階の調査をさせてもらっていたんだ。単独でこの下まで行くって、それだけでも大変ですよ」


 マイセンは、口には出さなかったが、貴様にフォローされるなど屈辱、という顔をしている。


「コツがあるんじゃよ。ワシは素材目当てじゃから行く所が決まっておる。もう数百年も足を踏み入れていない区画や階層もあるしの」

「それで、カエルがいないと下に行かれないってのは?」

「今回の陛下たちの探索は、財宝目当てと聞いております。その目的のために行く場所は、ワシの行く先とズレておるんですじゃ」

「というと、ヒウチさんが行く場所ってのは、いわゆるショートカットして入れる区画ってことで合ってる?」

「左様でございます、陛下」

「それで、こいつがいなくても師匠は支障が出なかったっつーことか……。

 おいカエル」

 晶はカエルの口にねじ込まれたピンクの物体を取り除いた。


『ナンだ、このエラソウな男は』


「「「「「魔王様」」」」」


『オ、オウ……家主か。ならば致し方ナイ』


「俺ら、このずっと下に行って、金目のものをたくさん持ち帰らなきゃなんねえんだよ。だから、大人しく協力してくれねえか。ヒウチの知り合いのよしみで」


『家主の頼みであれば、断わる理由もナイ。協力しヨウ』


「そんじゃ、手始めに――」


 もぎゅっ!


「もっかいこれで口ふさいでてくれな。ラミハにめーわくだからよう」


 晶は再びカエルの口を、異世界すあまで塞いだ。


「これはな、彼女の帽子の上にいたいっていうお前の希望と、静かに冒険したいっていう俺等の要望を摺り合わせた結果なんだ。受け入れてくれ。いいな?」


 カエルはこくこくとうなづいた。


「やれやれ……。それはともかくじゃ。このカエルよりもさらに大事な奴がおるんじゃが、どうも住処から出かけてしまっておるようじゃの」

「まさかそれも、こいつみたいな……」

「からくり人形です、陛下。そやつがおらんと、通れない場所がございましての」

「うう~ん」


 晶はのけぞった。


「元はただの置物だったんじゃが、こいつがどうしても友達が欲しいと言いましての。からくり人形に改造してやったんですじゃ」

「そのお友達が行方不明と……。なんてこった」


 カエルは帽子の上で泣きマネをしている。

 口を塞がれてもなお、自己主張したいのだろう。


「よしよし、私らがお前の友達を探してあげるから」

 ロインがカエルの頭を指先でちょんちょんと撫でてやった。


「それにしても……アテはあるんですか、ヒウチさん。この中じゃあ、あんただけが頼りだ」

「ないことも、ないかの、剣士殿。

 ちょっと失礼するぞ、お嬢ちゃん」

 そう言うとヒウチは、ラミハの腰につけた魔導具を手に取った。

「うってつけの道具があったのを、今思い出した。これじゃよ」

 万能ナイフのように細かく折りたたまれた、製図用具のコンパスに似たものを、細工師は器用に一本一本広げていった。

 すると、てのひらサイズの測量具のようなものが組み上がった。


「これは、何ですか師匠」

 ラミハが尋ねた。


「失せ物を探す道具じゃ。手に乗せたら、無くしたモノを強くイメージするのじゃ。すると、ぶら下がった石が、方向を指し示してくれる」

「ペンデュラムか……」

「陛下、ご存じで」

「近いものが、地球、いや原初の星にもある。だが、精度が恐ろしく違うと思う。俺のいた世界では、魔法は絵空事だから……」

「原初の星は、なんとも不自由な所になってしまいましたの」


 不自由――。

 その言葉が晶の胸に刺さった。


 ヒウチは何気なく言葉にしたのだと思う。

 本当ははるかに人類の文明は進み、宇宙を飛ぶ機械や、太陽を模したエネルギー炉まで所有している。

 しかし、こちら側から見れば確かにそうなんだ。

 魔法もろくに使えないなんて、不自由で不便なことなんだと。


 地球のテクノロジーや知恵をこの世界で切り売りする。

 短期的には国庫が潤ったり、身近な人が幸せになったりもする。

 でもそれは、やっていいことなのか。

 自分ごときが、この世界に干渉していいのか。


 しかし、別の自分はこう言う。


 この星の支配者は魔王である己だ。

 どう扱おうと、主なのだから好きにすればいい。

 ここを第二の地球にしてしまってもいいじゃないか。

 面白おかしい世界にすればいいじゃないか。


 その言葉にも利がある気はする。

 しかし、そんなことをすれば、モギナスが体を張って止めるだろう。

 いや、止めて欲しい。



 自分はこの世界を壊すために来たんじゃない。

 幸せになるために来たのだから。

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