第27話 お父さん、女騎士さんを嫁に下さい

「――というわけで、急に話が変わって申し訳ないのですが……」


 魔王城・謁見の間にて、城主・魔王アキラと、女騎士・ロインの父、テンダー卿が会見を行っていた。魔王の傍らには、ロインが。


「というわけで~パパ~、話変わっちゃったんで~」


「ああ……。なんとなく、こうなるんじゃないかと思っていたのですが……」


 テンダー卿が頭を抱えている。

 先日までは、縁談の話題を極力封じ込めるよう依頼されたので、それなりに尽力してきたつもりだったのだが――。


「その件につきましては、当方も誠意を表したく存じますので……」

「そこまでアキラが謝ることもないでしょ」

「ロインちゃんは黙ってなさい。これは俺とパパ上とのお話しなの」

「はーい」


「いや……陛下にそこまで仰っていただくようなことは何もしておりません。あの件に関してはお気にされることではないのですが……」

「……はい。そうですよねえ、やっぱ魔族と親戚とか困りますよねえ……」

「それもそうなんですが、実は、娘の友達のルーテさんのご実家のことで困っておりまして……」

「「あー」」

「あの、大量のヒットマンを送り込んだら全員返り討ちに遭って、生首の詰め合わせを送りつけられた事件の、あのルーテちゃんのご実家ですか」

「よくご存じで」

「だって最近うちにルーテとハーさん来たもん」

「なのですよ」

「なるほど……」

「で、結局あちらのご実家の要求って、娘さん? それとも金? 金なら素直に黒騎士卿から受け取ればよかっただけなのになあ」

「お金の用意が出来なくて、結局破産したみたいです。今はもう、私怨しか……」

「どういうことよ、パパ?」

「……あのご一家、もうおかしくなっちゃっててね。ルーテちゃんと彼氏の首を揃えて持ってこい、ぐらいのこと言いかねない勢いだよ」

「はじめは黒騎士卿の首だけで済んだのだろうが、とうとうそこまでか。しかし、己の娘を売り飛ばそうとしたのだから、既に魂も地に堕ちているだろうさ」

「同感です、陛下。私の所にも、彼等の居場所を教えろと使者が何度も来ているのですが、さすがに教えるわけにもいかず、追い返し続けている状況です」

「だが、時間の問題だろう。バウンティハンター協会の支部が店を開ければ、いずれは伝わることだ」

「なんとかしてよ、アキラ」

「ん~……。とりあえず、モギナス」


 脇で聞いていたモギナスが一歩前に出た。


「は、陛下。万事お任せ下さい」


「モギナスに任せて平気なの?」

「失敬な、ロイン嬢。私が何年この城でお仕事しているとお思いで」

「だって~」

「とにかく、あの二人が逃げ隠れする必要のないよう、取り計らってくれ」

「御意」

「それって丸投げ?」

「うん、丸投げ。だって細かいこと俺わかんないもん」

「部下に丸ごと任せる方が、いい結果になることもあるんだよ、ロイン」

「ふうん……」

「何でもかんでも自分でやりたがる人間は、人の上に立つ資格がない。任せるべき人間を見極め、責任を己で負う覚悟を持つ。それが、人の上に立つ者だよ」

「覚悟かあ~」

「……あ、話が逸れてしまい、申し訳ございません陛下」

「いや、構わない。ルーテ嬢はロインの友人であるし、黒騎士卿はかつての部下だ。私とて無関係ではないのですよ。それで……話を一番最初に戻したいと思いますが」

「はい、陛下」


 アキラは玉座から立ち上がり、テンダー卿の元へ歩み寄ると頭を下げた。


「お父さん!! お嬢さんを僕の嫁に下さい!!」


 頭を深々と下げたまま、沈黙が流れる。

 魔王、テンダー卿のいずれもが、困惑する中、先に口を開いたのは、テンダー卿だった。


「あの……こ、こういう場合、魔族の風習ではどう対応すればよろしいので?」

「ふつーに返事すればいいでしょ、パパ」

「そ、そうなの? わかんなくてパパすごく困ってるんだけど、ロインちゃん……」

「はーやーく! いーから!」

「あうう……」

「パパ!!!!」

「わ、わかった」


 テンダー卿も、深々と頭を下げて言った。


「はい!! 娘をよろしくお願いします!!」

「やったーパパ! さいこー!」


                  ☆


 あきれがちに見ていたモギナスがぽつり。


「なんなんですか、この茶番は」

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