第26話 女騎士さん、引っ越せない

 魔王のたっての希望で寝室を一緒にすることになったロイン。

 お茶の時間を返上し、マイセンと引越し作業をしていた。


「お嬢様、なんでもかんでもカゴに詰め込むのはおやめ下さい。あとで分類するのが大変なんですよ?」

「だって分けるの苦手だし……」

「も~手間が増えるだけですから、大人しく座っていてくださいまし」

「ふええ……おこられた……」


 ATMの晶を引き連れ、ストレス解消とばかりに度々城下でショッピングをしていたロイン、荷物だけがやたらと増えてしまっていた。

 さらに、実家から引き上げた荷物も加わり、いくらマイセンが整理しても、部屋のカオス化をちっとも食い止め切れていなかった。


「いくら城内は部屋が余っているからといって、際限なく物を増やしていいわけではありません。だいたい、一週間前に何を買ったか覚えていらっしゃいますか?」

「……わかりません」

「置場を作っても、ちゃんと戻さなかったり違うものを置いたり、そんなことばかりしているから、以前ご自分が何を買われたか分からなくなるんです」

「……ごもっともです」


 マイセンは知っていた。

 ロインの部屋を片付ける方法を。

 それは、「物を増やさせないこと」。


 しかしそのためには、ATMである魔王の財布を取り上げるほかない。


(まったく……。思いつきで引越などしようなどと言い出すから。

 ですが、よい機会です。ここは陛下に現実を知って頂きましょう)


                  ☆


 バーン!

 勢いよくドアを開けて、魔王・晶が入ってきた。


「おーい、手伝いに来たぞ」

「ぎゃーっ! だ、誰が呼んだの!?」

「フィアンセ様にその言いぐさはねーじゃんよ?」


 お茶の間で暇を持てあましていたところを、召使いに呼び出されてきたのだ。

 魔王もお求めやすくなったものである。


「で、出てけーっ(泣)」


 慌てて駆け寄り、晶を廊下に押しだそうとするロイン。


「ちょ、ちょっと待てって。俺、呼ばれたから来たんだよ?」

「やだやだやだ出てけ出てけ出てけええええ!」

「どーしたんだよロインちゃん。膝上介護がそんなにイヤだったのか?」

「そーでもそーじゃなくてもどっちでもいいから、とにかく今はダメダメダメダメ」

「おま、なに訳わかんねえこと言ってんだよ、中入れさせろよ」

「だめえええ~~~~」

「ダメとか言ってんじゃねえですー。どきやがれですー」

「いやあああ」


 晶はロインを軽々肩に担ぐと、無慈悲に部屋の中へ侵入した。


「ありゃー……」

「これは陛下、お手間を取らせまして」


 汚部屋っぷりに呆れる晶に、マイセンが声をかけた。


「お、おう……」

「うわあん、だからイヤだったのにいいい~~~~」

「私が片付けても片付けても、一向に片付く気配がございません。何故だと思われますか、陛下」

「こいつがだらしないからか?」


 ビシッ!!

 マイセンが晶の鼻先を指さした。


「陛下がなんでもかんでもお嬢様に買い与えてしまうからでございます!!」

「……お、俺のせいなの?」

「はい、陛下」

「ありゃまー…………」

「お二人とも、そこにお座りください!」

「「はーい……」」


 その後一時間にわたって、晶とロインはマイセンから説教をされた。


                  ☆


「ふう、えらい目に遭ったな……」

「もう疲れたよう……」


 片付けの途中、マイセンの目を盗み、晶とロインは部屋を抜け出し、中庭へと逃げ込んだ。


「お前さあ、もうちょっと計画的に物買ったり、実家の荷物を引き上げたり出来なかったのかよ」

「ごめん……そういうの苦手」

「俺の方こそ、なんかごめん。お前の都合も知らずに、思いつきで引っ越しさせようとしてさ」

「……引っ越すのは構わないけど、部屋見られたくなかった」

「ごめんごめん」


 晶はロインを抱き寄せると、額にキスをした。


「心配すんな。俺は別にその程度で引いたりしねえよ」

「ホント?」

「ああ。でも……」

「でも?」

「無駄遣いはしばらく御法度な」

「ええ~~?」

「えーじゃありません。買っても積んでるだけなんだから、ショッピング禁止な」

「でも要るものだってあるし~……」

「マイセンに買い物に行かせなさい。じゃないとお前、余計なものばっか買っちまうんだから」

「でも~……」

「いいね?」


 晶はジロリとロインを睨んだ。


 ロインは唇を尖らせて、ぽつりと言った。

「…………わかった」


 晶は破顔すると、腰掛けていたブロンズ製のベンチから立ち上がり、ロインに手を差し伸べた。


「そろそろ行こう。マイセンがキレちゃうぞ。彼女だってお前のために働いてんだからな。ちったあ感謝しねえと」


 ロインは微笑むと、晶の手を取り立ち上がった。


「ホント、魔王らしくないな、アキラは」

「魔王じゃなかったりしてな」

「アキラが魔王じゃなくても、結婚してあげるよ」

「ホントに?」

「ただし、貧乏だったらやめるけど」

「お前、マジ生活レベル下げられない女だなあ」

「アキラが頑張ればいいだけのことでしょ」

「そりゃそうだ」


 ――そりゃそうなんだけど……。

 ホントに大丈夫だろうか。

 ルーテちゃんみたいなたくましさ、こいつにはねえからなあ……。

 

 魔王、やめるわけにはいかない。

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