ゴルゴちゃん13才、餃子の王将に行く。3


 大阪の地下鉄は、やはり東京のそれとは雰囲気が違う。


 都内より過密スケジュールでないせいか、運転が丁寧だ。


 いい仕事をしている、などと思っているうちに、ゴルゴちゃんを運ぶ列車が「動物園前駅」に着いた。


 その名の通り、近くに「天王寺動物園」があり、地下鉄構内には動物の絵があちこちに描かれてあった。


 動物園目当てに、ここで多くの家族連れが降りるのだろう。


 だが華やかさに隠された、この地のもう一つの印象があった。



「…………」



 ゴルゴちゃんは地下鉄の出口から地上へと出る。


 そのとき感じ取ったのは、わずかに残るすえた匂いだ。


 酒と、吐瀉物の香りである。


 ──ここはあの「西成区」のすぐ側なのだ。


 大阪の中でも有名な、少々治安のよろしくない土地である。


 すぐ向こうに賑やかな繁華街の入り口があったが、そこを出入りする者たちの大半は、昼間から酒を呑んでいるようだ。


 中には、身なりにまったく気を遣わない連中も混ざっている。


 浮浪者というほどではないが、髪はぼざぼさで無精髭もそのままだ。


 そんな彼らが当たり前のように溶け込んでいるのが、この場所だった。


 少なくとも普通の女子中学生が、一人でうろつくには似つかわしくない土地か。



「…………フ」



 けれども、ゴルゴちゃんは気にも留めない。


 もとよりゴルゴちゃんは「あちら側」の人間なのだ。


 もっとひどい環境で過ごし、自力で這い出してきたのである。


 そのことをもしかしたら、ある種の「同類」だからこそ──向こうも感じ取れるのだろうか?



「……っ!?」



 ゴルゴちゃんが真っ直ぐ繁華街を通っていけば、すれ違う男たちが、目が合ったとたん身をすくめた。


 誰もがゴルゴちゃんを避けて、離れる。


 まったく、いちいち大げさだ。


 ゴルゴちゃんは殺気を漏らすような、下手な真似はしていないというのに。

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