ゴルゴちゃん13才、新幹線のぞみ号に乗る。1


 ゴルゴちゃんは東京在住だが、秘密の仕事の都合上、地方に出向くこともある。


 その際よく利用するのは電車だ。


 なにせゴルゴちゃんは、表向きは普通の女子中学生である。


 もちろん正式な運転免許の一つも持っておらず、遠出には公共の交通機関を利用するのが常なのだ。


 そして電車での移動は、手荷物を預けなければならない飛行機よりも、格段にセキュリティが甘いのが好都合だった。


 ──かくして今日、いつもの制服姿にコートを羽織り、ガンケースを担いで東京駅へとやってきていた。


 ゴルゴちゃんは私服で出歩くことがない。


 女子中学生が一人でうろつくには、制服姿の方がなにかと都合がいいからだ。


 今回も表向きは「親戚の法事」という設定になっていた。


 もっとも、特に誰かに訊かれることもないのだけれど。



「…………」



 人波を少し避けるため、八重洲側の改札口の横でゴルゴちゃんは足を止めると、手配していたチケットを見るふりをする。


 が、本当は確認するまでもない。


 予約した新幹線の車両番号も、座席番号も、完璧に記憶していた。


 そして今回の行き先は、関西方面だ。


 博多行きの「新幹線のぞみ号」に乗り、新大阪駅で降りる手はずになっていた。


 だが少し早く来すぎたらしい。


 予定している新幹線の時間には、まだ十分余裕があった。


 しかしプロとは、何パターンも計画を練るものだ。


 時刻はちょうど昼前だ。


 ゆっくり食事を取る時間はさすがにないが、どこかで昼食を調達すればいい──。


 そしてここから地下に降りれば、すぐ「大丸東京店」の食品フロアと繋がっていた。


 通称「ほっぺタウン」である。

 

 そこなら、あらゆる弁当が選び放題なのだ。



「…………」



 けれども階段を降りたゴルゴちゃんは、ほっぺタウンをあえて避けた。


 そこはあまりに人が多すぎる。


 それよりも、すぐ横に繋がった通路へと入る。


 雰囲気が一変したそこは、もう大丸百貨店のエリアではない。


 別の商業施設「グランルーフ」の地下に設けられた、飲食店の連なる空間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る