ゴルゴちゃん13才、ゴディバに行く。3




『GODIVA Belgium 1926』




 たくさんのテナントが並ぶフロアの一画に、シックなダークチョコレート色の看板が掲げられていた。


 1926年にベルギーで生まれた世界一のチョコレート専門店、それがゴディバなのである。


 ここもやはりこの時期、バレンタイン一色だ。


 L字型に折れ曲がったショーケースの中には、二段に渡ってチョコレートが並べられ、ピンクに飾り立てられている。


 その中で一際目立つところに置かれていたのは、ハート型の金属ケースに入ったチョコだ。


 どうやらこれがバレンタイン限定のアイテムらしい。



「…………」



 だがゴルゴちゃんにとって、そんなことよりも大切なのは客が並んでいないことだった。


 さすがはゴディバだ。値段が高いせいで、自然と客層が絞られているのだ。


 ゴルゴちゃんのような女子学生がショーケースを覗きに来るものの、さすがに小遣いが足りないのか、羨望の眼差しで去っていく。


 かわりに社会人の女性が何人か、じっくりケース内を見て品定めしていた。


 本命チョコをどれにするかで悩んでいるのだろう。


 よし、と腹を決めた者から順に、注文しに店員へと声をかける。


 ここでは列を成す者はいない。


 そんな時間があればケースに張り付いて、たくさんのチョコを見ている方が楽しいのだから。


 だが、ゴルゴちゃんは誰かのためにチョコを選びに来たわけではない。


 ちらりとショーケースを一瞥しただけで、自分のために買うチョコを即決した。


 バレンタイン限定は気になったが、やはりゴディバといえば「トリュフチョコレート」だろう。


 その6粒入りが、たぶんオーソドックスだ。



「……トリュフの、6個のを一つだ」



 ゴルゴちゃんはレジに向かうと、簡潔にそう注文した。


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