ゴルゴちゃん13才、築地に行く。4

「オ~、オーケーオーケー! サンクスネ!」



 元長官も理解が早い。


 ゴルゴちゃんの意図を察して、笑顔で離れた。


 向かうのは築地場内の方だった。


 ターレットと呼ばれる、ドラム缶にハンドルがついたような、小型の車輌が荷物を載せて行き交う場所だ。


 築地で働く者たちの作業場となっているが、その奥にはなんと、たくさんの小さな店がひしめき合っている。


 特に飲食店が多く、当然のように築地で扱う新鮮な魚介類を売りにする店が多かった。


 そこは一般客にも開放されており、今では観光客が当たり前のように通い詰めるところもある。


 ──ゴルゴちゃんが示したのは、その中でも常に長い行列が絶えない有名店『寿司大』だった。


 元長官も、それくらいのことはきちんと下調べしていたようだ。


 ゴルゴちゃんと落ち合う前に、場内の方からやってきたことからもわかる。


 観光客を装うためだろうが、場内市場の様子をちゃんと把握してきたのだ。


 ならば、寿司大の行列は間違いなく見ており、「そこに混ざって尾行をまけ」とまで説明する必要はなかった。



「…………」



 それはそうとゴルゴちゃんは、ある香りに気付いていた。


 元長官から漂っていた、かすかな香辛料の匂い──。


 これは、カレーだ。


 下調べのついでに、場内で軽く食べてきた、ということなのだろう。


 おそらく、印度カレー『中栄なかえい』か。



「…………フ」



 最近アメリカにも日本のカレーの店が増えてきたが、なかなか食べられる機会が少ない。


 だからつい足を向けてしまったのだろうな、とゴルゴちゃんは推測した。


 そして、中栄は「当たり」の店だ。


 キャベツの千切りと一緒に食べるのが、なかなかにうまい。


 ──基本的にチェーン店ばかり通うゴルゴちゃんも、依頼人と落ち合う場所の下調べはきちんとしてある。


 そのときには「合がけ」を注文し、辛口インドカレーと甘口ビーフカレーの両方を堪能した。


 二つのルーがまとめて楽しめるのも、中栄のいいところである。

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