百八十九話 終わりの戦い2
破壊神の有する三つの神器は合わさることで真の力を発揮する。
否、本来の姿に戻ると言うべきか。
ローブ、腕輪、指輪がそれぞれ共鳴し黒い光が全身を覆った。
出現したのは禍々しい純黒の甲冑。
背中ではマントがたなびき四肢に力が漲る。
顔はフェイスマスクに覆われ、視界では常にゴーマにロックオンされている。
この鎧には自動索敵機能と自動追尾機能が搭載されている。
「美しい。さすがは前創造神が創った最上位神器と言うべきか。我にもあの者を唯一尊敬していた点があった。それはデザイン力。機能を付与するだけならいくらでもできよう、そこに唯一無二の付加価値を与える彼は素晴らしかった」
「御託はいい。続きだ」
「良かろう。存分に相手してやる破壊者よ」
儂は最速の一撃を打ち込む。
大剣とぶつかり衝撃が周囲に駆け抜ける。
視界ではゴーマの位置が表示によって捕捉されており、瞬時に背後に転移しようが、転移直後の空間の揺らぎを感知して知らせてくれる。
振り向きざまに振られた剣が火花を取らした。
「好敵手がいるというのは悪い気分ではないな。存分に道具の性能を試すことができる」
三方に出現した奴の分身。
儂は振り返りもせず破壊の波動で消失させた。
この状態の視界は360度カバーしている。
全方位の景色を確認するだけなら別に基礎能力でできるのだ。
だが、それは無駄に意識を拡散させることにもなる。全方位の自動捕捉はそんな煩わしい状態から解放してくれるのだ。
そして、なによりこの甲冑が素晴らしいのは、破壊神と相性が抜群であること。
破壊の波動が全身を覆った瞬間、ゴーマは危険察して即座に飛び退いた。
「やはり出してきたか」
「使わない方がどうかしている」
破壊の波動を纏うことでほぼ無敵の攻防を実現する。
波動は剣にまで及び仄かな黒光がゴーマの目に映っていた。
「だが、我は創造神……創造によって破壊をも凌駕する」
奴はあからさまに手の甲を見せ、指輪の一つに注目させる。
そう言えば三つの能力は分かったが、残り一つが不明だったな。
指輪がきらめき奴の身体を仄かな白光が覆った。
「これは幾重もの光壁を創り出す対破壊神用の神器だ。あらゆるものを破壊する貴様の力だが、一度に消せる数も範囲も限られている。あえて破壊させてやれば取るに足らない力だ」
「だが、お前も無限に物を作り続けることはできないはずだ。その指輪もお前の力をエネルギー源として作動しているのだろう? だったら儂はそれが尽きるまで戦い続けるまで」
戦闘が再開。今度はさらに激しくめまぐるしく景色が変る。
黒と白の光の尾を引きながら海上を超高速飛行。
近づく度に反発し合う磁石のように剣同士が弾かれた。
ヒュィン。ヒュィン。
空間切断が繰り出され紙一重で躱し続ける。
海に浮かぶ小島は真っ二つになり、空には布をカッターで切り裂いたような透明な斬痕がいくつも残る。惑星を覆う異空間すらも切り刻んでいるようだ。
一方で儂は幾重もの光壁を刹那に切り裂く。
だがしかし、あと一歩と言うところで最後の一枚を破りきれない。
壁は一秒未満で復元してしまう為、責めきれず何度も舌打ちをする。
もちろん壁ごとゴーマを消滅させることも可能だ。しかしその為には最低でも一秒は波動を当てる必要がある。奴がそんな猶予を与えてくれるはずもなく、戦闘の中で打開策を見つけるしか方法はなかった。
「でやっ!」
「ぐっ!?」
不意を突き儂の剣がゴーマを弾き飛ばす。
海面へと斜め直線に落下した奴は一度大きくバウンドし、大陸らしき陸地で着地する。
儂は雷の魔宝珠へ魔力を浸透させ一時的に未知なる属性を創る。
放つは黒色の雷撃。
雷鳴が轟き破壊の閃光が宙を走る。
ゴーマはそれよりも早くその場を離脱、滑るように超低空飛行をしながら木々の間を縫って逃げる。
森からは砲撃のような凝縮した魔法弾が弾幕のごとく放たれる。
いくら無効化できるとは言え、身体に当たれば無駄に波動を消費することとなる。儂は躱しながらゴーマを追いかけた。
ズガガガ。大地を割って巨大な白龍が姿を現わす。
どうやらあらかじめ防衛戦力を用意しておいたらしい。
森の至る所でレールガン砲台のような物が地面から現われ砲撃を開始する。
本格的に弾幕の嵐となった。
白龍は身体をくねらせながら大口を開けて儂を飲み込もうとする。
「邪魔だ!」
竜斬閃で真っ二つに両断、破壊の雷撃で砲台を全て破壊した。
ヒュヒュュィン。
次の瞬間、儂の左腕を何かが切り飛ばした。
痛覚は鈍くしてある為にほとんど痛みはない。だが、それよりも問題はどうやって波動を越えて攻撃を当てたかだ。
未だ宙を舞う腕に向けて糸状の細胞を伸ばし瞬時に接着する。
ヒュヒュィン。
またこの音。
空間を斬る斬撃だ。
今度は余裕を持って回避したことで斬られた謎が判明する。
奴は斬撃を二重にして放ったのだ。
一撃目は波動で消されるが二撃目は確実に当たる。感心しつつ奴の潜んでいる場所へ破壊の雷撃を放った。
白龍の死体の陰。ゴーマは雷撃を難なく躱して見せ、再び見えない二重斬撃を放つ。
対する儂も破壊の雷撃でそれを消して見せた。
「こうも勝負が付かないとはな。成り上がりの若造と思えないほどだ」
「戦いに年など関係ない。あるのはやるかやられるかだけだ」
「言うではないか。ならば創造神としての真の力で貴様を討ち果たして見せよう」
ゴーマから神気が大量に放出される。
虹色のオーラは人型となって顕現した。
機械仕掛けの六枚の純白の翼、顔のないのっぺりとした頭部、右手に握るのはゴーマと同じ大剣、機械的な純白の肉体の表面は金属のように光を反射していた。
その総数は千。
そのどれもがステータスを確認することができず正体不明だ。
「これらを構成する全ての部品には能力が付与されている。それでいて基本性能は神と同等。空間を斬る武器も備えたこれらに貴様はどう抗うか見物だ」
「全ての部品に能力を付与だと……くっ」
だとすれば使える能力は桁が違う。
それが千体ともなればさすがの儂でも厳しい。
「やれ」
機械天使は残像を残して光速で動き出した。
儂はその場から転移、真上に現われて破壊の雷撃を放つ。
ばぢぢ。雷撃を光の壁が消滅しながら阻んだ。
驚くべきことに天使共は光壁までも備えていた。
なんて厄介な存在。低位の物量が効かないなら高位の物量で攻めればいいという、単純にして最も強力な戦術だ。
ヒュィン。ヒュィン。ヒュィン。
空間斬りが無数に飛ぶ。
実際には飛んでいるわけではないが、感覚的にはその方が適切だ。
「波動砲!」
破壊の波動をビーム状にして放つ。
しかし、天使共は危険を察知して光速移動と転移でその場から消える。
「がっ!?」
真上から空間斬りで肩を斬られる。
傷は浅い。すぐに離脱を。
だがしかし、間髪入れず次々に二重空間斬りが儂の身体を切り刻んだ。
いつの間にか天使共に包囲されている状態だ。
腕が飛び、足が切られ、耳、指、脇腹、頭部の一部、最後には胴体までも真っ二つにされた。
このままでは死ぬ。
「はぁぁぁあああっ!!」
破壊の波動を球状に押し広げ天使共を追い払う。
言うなればシールドのようなものだ。
肉体は瞬時に再生し元通りとなった。
けれども精神は疲労している。
ここまで追い詰められるのは初めてかもしれない。
全くもって勝機が見えないのだ。
どうする。どうすれば勝てる。
その時、周囲が闇に覆われた。
「なんだ!?」
聞こえるのは破壊音。だが儂の目ではまったく見通せない。
何が起きているのか分からなかった。
唐突に闇が晴れる。
目の前には見知った四人の背中があった。
「手こずっているなんて珍しいわね」
「同意。おかげで可愛い妻がピンチを救うシチュエーションができた」
「田中殿も意地が悪い。こんな面白そうな敵と戦っていたとは」
「お父さんは殺させやしない。四魔神の僕らがいる限り」
儂は密かに歓喜に震えた。
四人は四支神を倒し駆けつけてくれたのだ。
生きていてくれたことと危機を救ってくれたことに感謝する。
「妾達もいるのじゃ!」
「ご主人様の為に間に合わせました」
振り返ればそこには黒姫とスケ太郎がいた。
それにボロボロだがあの五人も。
「リベルト! 生きていたか!」
「なんとか、回復するのに少し時間がかかってしまいましたが」
良かった。誰一人欠けることなく生きていてくれて儂は嬉しい。
目元が緩みそうなって慌てて顔を引き締めた。
敵は未だ九百以上。ゴーマも無傷だ。
「仲間が増えたか……先ほどの攻撃、非常に危険だ」
ゴーマは天使を連れて真上に急上昇する。
奴はそのまま空間の裂け目から惑星外へと逃走を図る。
リズのダークマターから逃れるにはここは狭すぎると判断したようだ。
儂としても好都合。破壊神の力は惑星で使うには向いていない。
「追いかけるぞ!」
儂らも空間の裂け目から惑星を飛び出す。
惑星上では無数のスペースデブリが漂っていた。
「妾達が邪魔な物を全て排除しておいたぞ」
「ではあの球体共もいないのか」
「あんなものちょちょいのちょいじゃ」
自慢気に語る黒姫に頷き、儂らはゴーマの向かった先を予測する。
視界にゴーマの捕捉反応が現われ、この星系の恒星の上で待ち構えていることが判明した。
「覚悟はいいか」
全員が黙ったまま頷いた。
誰一人として怖じ気づく者はいない。
多くのものを捨ててここにいるのだ。今さら死ぬことなど恐れるはずもない。
儂は全員を連れて転移した。
真っ赤に輝く恒星の上で、ゴーマと機械天使は待っていた。
近くでは巨大なフレアが舞い上がる。
「くはははっ、最終決戦といこうではないか」
「降伏するつもりはないようだな」
「無論。ここから新たに歴史が始まるのだ」
戦いは合図もなく始まる。
天使共の空間斬りを躱しつつ一体の至近距離に迫る。
斬撃は転移で躱され背後に出現した。
「ガビ、ガガガッ!?」
「油断禁物。闇はすぐそばにある」
背後の影から現われたリズが、天使の頭部に刃を突き立てた。
天使はキュゥウン、作動音が鳴り止み全ての機能を停止させる。
「こいつ光速で動くのか!」
飛び続けるペロを数体の天使が追随する。
だが、急停止したペロがアビスゲートを開いた途端、そこから溢れる奇怪な蟲が天使を飲み込み跡形もなく喰らう。
「ここを戦場にしたのは間違いだったな!」
恒星から巨大な炎が吹き上がり天使をまとめて飲み込む。それは女性の形をしていた。
中央部分には髪を逆立てるフレアが、アトミックエナジーで阿修羅のごとく六本の腕を広げ二本の槍を掲げる。
天使は超超高温にさらされどろりと溶けた。
「来い! スケ太郎!」
「御意!」
スケ太郎の放つ極大エネルギー波を、黒姫はEXカウンターで反射させる。
倍増した極大閃光は天使を飲み込み跡形もなく消滅させてしまう。
「レイラ!」
「分かってる!」
マーガレットが三体の天使に追われていた。
しかし、レイラが『速度低下』『攻撃力低下』『防御力低下』『思考低下』のスキルを使用する。
彼らの種族は弱体化のスキルが豊富だ。
そこへスキルブーストで強化されたリベルト、ティナ、ドミニクが技スキルをたたき込み、天使はバラバラに砕けた。
「あーもう! 多過ぎでしょ!」
エルナは逃げながら魔法を放ち続けていた。
輝く矢はホーミングレーザーのように無数に射出され、たとえ転移してもその先すらも即時捕捉して確実に仕留めていた。
いける。確実に押している。
天使の数もすでに半分をきっているのだ。
そうなればあとはゴーマだけ――。
ゴーマに目を向けた時、違和感に気が付いた。
奴の身体が輝いているのだ。
あれは……まさか……。
「くっくっくっ、ようやく進化できる。なにせ嫌と言うほどこの身体で神を殺してきたからな。すでに経験値は満たしている」
ばかな! このタイミングで進化だと!?
待て、それだけはダメだ!!
眩い閃光が周囲を照らした。
儂は腕で目を覆い隠す。
「……?」
そこにはゴーマはいなかった。
どこに行った? まさか進化に時間を要すると踏んで逃げたか?
「ごぶっ……」
不穏な声に振り返る。
そこには背後から胸を貫かれたエルナがいた。
口からは大量の血が溢れ、球となって空間を漂う。
「我は……創造神を越えた創造神となったのだ」
彼女の背後から姿を現わしたのは、異様な姿となったゴーマだった。
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