百六十九話 仲間の次なる進化
玉座にふんぞり返る女王エヴァ。
だがその姿はスクール水着姿の幼女だ。
「一度はうらぎりだました身だが、ふかーく謝罪し、あらためて歓迎の意をしめす。なんせ其方は主の後継者だからだ。好きなだけいるとよい」
「それは嬉しい話だが、近いうちに地上に戻ろかうと考えている。敵が次にどう動くのか心配だからな」
「それもそうだな。わらわ達にできることがあるのなら遠慮なくいってもらいたい。できる限りのてだすけはしてやるつもりだ」
なんだか妙な感じだな。
子供相手に真剣な話をしているというのは。
しかも格好が完全にプールに遊びに来た幼児だ。
せめて服装だけでもどうにかならないのか。
女王はぴょこんと玉座から飛び降りて走り出す。
儂を通り過ぎて扉へと向かっていた。
「お、おい、話は終わりか!?」
「わらわからはこれ以上特にない。今から主と一緒にオヤツを食べるので、聞きたいことがあるのなら後日時間をもうけよう。さらばだ」
幼女は足早に退室してしまった。
あれだな……大好きなお父さんに会えたので甘えまくっているのだろう。
永く封印されていただけに仕方がない気はする。
儂も退室して仲間のいる部屋へと向かう。
現在借りている部屋は二室。
儂とペロ、エルナとリズとフレアでそれぞれ分かれて過ごしている。
にもかかわらず、暇さえあれば全員が儂の部屋へとやってきてくつろぐのだ。
「ペロ様の毛はまことにふわふわのモフモフですね。一生この身体にしがみついて生きたい。いえ、むしろそうします」
「一生は勘弁して! それと、重いから離れて!」
「ZZZZZZZZ」
「どうこれ! 真一褒めてくれるかな!?」
「ええ、どれも素敵です。ところでそろそろ休憩にいたしませんか?」
ソファーではフレアにしがみつかれて困っているペロ。
漂う闇雲の上で鼻提灯を出して眠るリズ。
姿見の前で何枚もの服を身体に重ねて確認するエルナ。
それに付き合わされ冷や汗を流すアリム。
部屋でゆっくり酒を飲むつもりだったのだが、無理そうだなと早々に諦めた。
テーブルを挟んだペロの対面のソファーに腰を下ろすと、腕輪から酒瓶とグラスを取り出してコトリと置く。
右手に魔力を込めると丸い氷が現れグラスの中へ。
その上から琥珀色の酒を並々注ぐ。
「お父さん、他属性の魔法が使えるようになったんだね」
「いや、厳密には魔法ではない」
これは神気を使って行っていることだ。
神気とは創造の力。あらゆるものを創りだしあらゆることを可能とする。
一級天使であるロキエルは能力向上に使用していたが、あれは正しい使い方とは言えない。
まぁ天使にはあれくらいが限度なのかもしれないがな。
神気は才能に左右される。力それ自体は素晴らしいものなのだが、使用者の生まれ持った資質によってどこまでができて何ができないのかが決まっているのだ。その差が神としての格の違いである。
事実、直樹の時を操る力は神々の中でも最上級であり、他に類を見ない唯一無二の貴重な能力なのだ。創造神が後釜に据えようとしたのは孫だからでもなんでもなく、直樹自身の実力の証なのだ。
――ふう、また頭が痛くなってきたな。
儂はグラスの酒を飲んで頭痛を紛らわせる。
これは俗に言う知恵熱だ。
破壊神になってからどこからともなく神族の膨大な知識が湧き出して、処理するのに苦労しているのである。そのおかげで色々と分かったこともあるが、今はまだそれを考える余裕もない。
「どう真一! 似合う!?」
エルナが今度は儂に服への意見を求める。
アリムはようやく解放されたと言った表情でそそくさと逃げ出した。
「うむ、よく似合っている」
「こっちは!」
「うむ、よく似合っている」
「同じ台詞!?」
どちらもよく似合っているのだからこれ以上言いようがない。
ふと、とあることを思い出して儂はポケットから四つの結晶を取り出した。
「全員聞いてもらいたい」
「「「??」」」「ZZZZZZZ」
ペロとフレアは姿勢を正し、エルナは服を置いてソファーに座る。
リズは寝ているように見えて、話を聞いていることが多々あるのでこのままでいいだろう。
「コレを飲み込めばお前達も神族になることができる」
「ほんと!? じゃあ今すぐ飲むわ!」
「ただし、神族になれば生き返らせることはできなくなる。もしかすれば地上で暮らし続けることもできなくなるかもしれない」
「そんな……じゃあみんなとはもう会えなくなるの?」
神族の掟では神は人とは必要以上に関わってはならないとある。
神と人はあまりにも違い過ぎるのだ。
共に生きることが困難なほどに。
「神になるよ。僕もお父さんや兄さんのように神様になりたい」
「ペロ様がそうおっしゃるのなら私も。もうペロ様のモフモフなしでは生きられない身体となってしまったのです」
「モフモフが理由なの!?」
驚愕するペロを余所に、フレアは結晶を口に入れて飲み込んだ。
するとパタンと倒れるではないか。
「ぐーぐー」
「寝てる……」
「進化と同じだ。結晶が身体を作りかえている」
「そうなんだ」
ペロも結晶を飲み込んで眠る。
「私は……」
「迷っているのなら無理に飲まなくていい。その代わり主力メンバーから外れてもらうことになるぞ」
「!?」
こんなことは言いたくないが、ここから先の戦いで人は足手まといだ。
いや、言い方が悪いな。死ぬ確率があまりにも高過ぎる為に連れてはいけないと判断したのだ。
それにエルナにはここで一度考えてもらいたい。
儂などを追いかけず普通の幸せを享受することを。
今の彼女ならもっと良い相手を見つけることができるはずだ。
むしろ儂はその方がいいとさえ思っている。
彼女が死ぬよりも何百倍もマシだ。
「……そういうこと。私がどれだけ真一を愛しているか試しているんでしょ。だったら見せてやるわよ! フレデリア家の女の強さを!」
エルナは結晶を飲み込む。
直後に倒れるので儂は慌てて抱き留めた。
まったく、本当に変な女だ。
こんな儂なんかを好きになるとは。
儂はエルナを抱きしめる。
「ん」
声にハッとする。
いつの間にかリズが両手を広げて真横にいるではないか。
それは自分も抱きしめろというサインらしい。
やっぱりしっかり話を聞いていたのか。
エルナをベッドに寝かせて、リズも抱きしめてやる。
満足した彼女は結晶を手に取って飲み込む。
「いいのか?」
「お兄ちゃんにどこまでも付いていくと決めてる。それにライバルには負けられない」
彼女は自分でベッドに上がって横になる。
これで四人とも選択をしてしまったわけだ。
「やはり彼女達が新しい四魔王か」
「ゼファ」
部屋に入ってきたゼファは興味深そうに仲間を見ていた。
ただし、その手には皿にのったプリンが握られ、身体には元四魔王達がしがみついていた。
「おれちゃまの力を受け継いだにょはそこの赤髪か。見た目も似てるし悪くにぇな」
「拙者の後継者は青髪のおんなだケロ」
「ぼくの力はおおかみみたいだね」
「わらわはあのエルフか」
ふむふむ、どうやら神格の結晶はそれぞれに特色があるようだ。
ただ単純に神になると言うわけではないらしい。
「どう変化するのか楽しみだな。ではまたあとで」
「おい! ゼファ!」
「なんだ?」
「お前はこれからどうするのだ?」
「ようやく役目から解放されたのだ、ここでのんびり暮らすことにする。天界でのもめ事は後継者である君に任せるよ」
彼は爽やかな笑みで去って行く。
すでにゴーマの件は把握しているようだが、積極的に介入するつもりはないらしい。そもそも彼は神々と対立していた身だ、今さら関わる気にもなれないのだろう。
儂は仲間の進化が終わるまでのんびり待つことにした。
◇
あれから二十四時間が経過した。
儂は神気の限界を探る為に力を使い続けている。
最初に創ったのはきつねうどんだ。
〇亀製麺で出されるものを記憶を頼りに創造した。
キレのある出汁と塩味がほどよく麺にはコシがある。
想像通りの出来だった。
次は様々な物質の創造だ。
ダイヤモンド、金、ルビー、サファイヤ、プラチナ、エメラルド、パール、銅、鉄、タングステン。
そこからさらに構造が複雑なものを創る。
スマートフォン、デスクトップPC、ノートPC、スマートウォッチ。
そして儂は、デジタルフィットを創り出す。
このデジタルフィットは儂が社長を務めていた時に開発した次世代型端末機だ。
空間投影型のタッチ画面を実現し、インターネットに繋げることであらゆることが可能となった。これの素晴らしいところは脳波を検知し、持ち主の求めている情報を即座に検索できることだ。処理速度も速く発売後は爆発的に売れたヒット商品である。
これが世に登場したことで世界の携帯市場が様変わりしたほどだ。
今となってはただの遺物だがな。
儂は次に生物を創り出す。
アメーバ、苔、キノコ、竹、カブトムシ、リス、鳥。
いずれもきちんと生命活動を行っている。
ここまでは想像通りの物ができた。
ならばここから先が確認するべき領域だ。
想像だけでこの世にないものを創れるかどうか。
イメージするのは食べても食べてもなくならないウニ丼。
虹色のオーラが渦を巻いて一つのどんぶりを出現させた。
中には炊きたてのご飯と山盛りのウニ。
儂は懐から箸を取り出してかき込んでみる。
味は普通に美味い。すぐにでも完食してしまいそうだ。
だが、半分ほど食べたところで米とウニが分裂して元通りとなってしまった。
儂は興奮して再びかき込む。
するとまた分裂して元に戻る。
それを十回ほど繰り返したところで味に飽きてしまった。
破壊の波動で消滅させると跡形もなく消える。
ならばと今度は金の卵を産む鶏だ。
出現した鶏は「コケーッ!」と一鳴きしてからコロンと金の卵を産んだ。
卵を持ち上げてみると重く固い。テーブルの角にあてて割ろうとするが、真まで金なのか一向に割れる気配はなかった。
ここまでは成功だ。恐ろしく神気が有能であることが証明された。
ならばと儂はアダマンタイトを超える金属を創造する。
形は剣。宇宙創造並の力を秘めた物だ。
神気が渦を巻いて形を成そうとするが、すぐに霧散してしまう。
証の能力を超えた物体は創れないようだ。
だったらとアダマンタイトを超えた金属という条件だけで創ろうとするが、やはり力は霧散して形とはならなかった。
うーむ、では神器ならどうだろう。
今ある腕輪のコピーを創ってみる。
すると視界に文字が表示された。
【注意:神器作成は創造神にのみ許された行為です。これ以上続けると重大なペナルティが課されますがそれでも続けますか? YES/NO】
慌てて中断する。
神器とは創造神にだけ創れる特殊なものなのか。
神や天使が特別視する理由が分かった気がするな。
ぱち。
前触れもなくペロが目を開けた。
次の瞬間、部屋を埋め尽くすような光が彼から発せられる。
光が収まるとそこには生まれ変わった我が息子が立っていた。
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