八十七話 三度目の進化


 帝都から戻ってきた儂は、スケルトン軍を適当な場所に隠してから連合軍と合流する事にした。


「いいな、むやみに人に危害を加えるなよ」

「カタカタ」


 スケ太郎は頷く。

 四十万と数は減ったとは言え、それでもスケルトンの大軍は誰にとっても脅威に見えるはずだ。

 ましてや見た目が怖いホームレススケルトンがこれほど集まると、子供だけでなく大人ですら恐ろしさのあまり漏らしてしまう可能性がある。

 そこで儂はスケルトン軍を、帝国の最東端のマルセイ砦に一時的に隠すことにした。

 大きな砦なので、スケルトン達をぎゅうぎゅうに詰めればなんとか収まる感じだ。

 あとは防衛として一万のスケルトンを見張りに立たせることにしている。


 もちろんだが、マルセイ砦をスケルトンの隠し場所にしたのには理由がある。

 帝国が王国へゆくためには必ずこの砦を通らなければならない。

 つまりここを押さえておけば、再度侵略をしようとしても足止めができると言うわけである。まぁ皇帝を失った帝国にそんな気概があるのかは分からないがな。


「ここはあくまでも借りるだけだからな。帝国もすぐには文句は言わないだろうが、戦争が終結すればすぐに引き上げる予定だ。変なものは作るなよ」

「カタカタ」


 儂は何度もスケ太郎やスケ次郎に念を押す。

 こいつらは骨なのに妙に個性があるから心配だ。後ろ髪を引かれつつ儂は連合軍本営へと戻ることにする。




 ◇




「グハハハハ! まだまだ蹴りが甘いな!」

「も、もう勘弁してください! これ以上動けません!」


 本営へ戻ると獣王と数人の兵士が戦っていた。

 さらにその周囲には気絶した兵士の山が築かれている。

 今も戦っている犬系獣人の兵士は、足がガクガクと震えており耳は恐ろしさのあまりぺたんと垂れていた。


「獣王よ。一体何をしているのだ?」

「おお、真一か! やっと帰ってきて我は嬉しいぞ! 今は兵士達の訓練をしているのだが、ちょっと待っていろ!」


 獣王は兵士達を一撃でダウンさせると、スタスタと儂の方へと歩いてきた。

 相変わらず恐ろしいほどの技のキレだ。力試しではなく殺し合いをすれば、もしかすると儂が負けるかもしれない。


「それでどこに行っていたのだ?」

「少し帝国の方へな。それで軍では問題はなかったのか?」

「特にはないな。むしろ暇すぎて兵士達の戦意が落ちてきている」

「ならそれでいい。もうじき戦争は終わるはずだからな」

「?」


 儂の言葉に獣王は首をかしげる。

 一週間の事を教えても良いのだが、そうなるとスケルトン軍を一から説明しなければならなくなる。面倒なことになるのは目に見えていた。

 普通に考えれば、個人が四十万もの戦力を保有しているのは異常な事だ。

 重ねて魔獣を従えている事も問題になるだろう。

 儂が冒険者であることや、王国のマーナに住んでいることなどを考えるとトラブルに巻き込まれることは想像に難くない。

 力がありすぎるというのは摩擦を生じさせるのだ。

 なので儂はスケルトン軍を秘密にしようと思っている。


「連合軍はあと一ヶ月様子を見てから解散と言うことにするつもりだ」

「なんだもう終わりか? あと一年は戦っても良かったのだがな」


 獣王の言葉に儂は苦笑いする。

 長引けばそれくらいになっただろうが、儂もそこまで暇ではない。

 終わらせられるときに終わらせるのがベストだと思うのだ。

 短ければ後世に残る傷跡も小さく済むからな。


 儂は獣王に別れを告げると、ホームレスのメンバーがいるだろうテントへと顔を出しに行くことにした。


「戻ったぞ」


 テント前ではフレアとペロが焚き火で肉を焼いていた。

 フレアは特に変化はないが、ペロの体がかなり大きくなっている。

 もう一人前のワーウルフだな。顔つきが完全に大人の狼だ。


「お父さん!」


 儂が戻ったことに気が付いたペロは、すぐに駆け寄ってきて大きな体で抱きしめる。

 白い毛がふかふかしていて気持ちいい。フレアのようにふがふがしたい気分だ。


「留守にしていてすまなかった。問題はなかったか?」

「うん、体が大きくなった以外は特にないよ」

「そうか、しかしペロもずいぶんと大人になってしまったな」


 儂がそう言うと、ペロは大きく首を横に振る。


「僕はまだまだ子供だよ。お父さんみたいにもっと強くなりたいんだ」

「だったらまた一緒に鍛えないといけないな」


 ワシワシとペロの頭を撫でる。

 拾ったコボルトの子供が、ここまで成長したことに嬉しさを感じた。

 きっといつか独り立ちする日が来るのだろうが、そのときは父親として盛大に送り出してやりたい。父として生きる人生を再び与えてくれたのはペロなのだからな。


 一応だがペロのステータスを見ておこう。



 【分析結果:田中ペロ:ワーウルフの聖獣。戦争という人の殺し合いに悲しみを抱きながらも、更なる成長を望んでいる。お父さん大好き:レア度S:総合能力S】


 【ステータス】


 名前:田中ペロ

 年齢:5歳

 種族:セイントワーウルフ

 職業:冒険者

 魔法属性:風・聖

 習得魔法:エアロボール、エアロアロー、ホーリーロア

 習得スキル:加速(初級)、疾風乱撃(初級)、拳王術(特級)、身体強化Z(初級)、牙王(初級)、爪王(中級)、悪魔鼻(上級)、秀才(初級)、威圧(上級)、自己再生(上級)

 進化:条件を満たしています

 <必要条件:拳王術(特級)、身体強化(特級)、牙強化(特級)、知力(特級)>



 ランクアップしたのは、拳王術、悪魔鼻、自己再生のようだ。

 スキル進化で得たのは、疾風乱撃、身体強化Z、牙王、爪王、秀才である。

 一ヶ月ほど儂と修行をしていたこともあり、成長度合いはかなりのものだ。

 ふと、見慣れないスキルを発見して儂はペロに質問した。


「加速というスキルはなんだ?」

「多分だけど、僕の時間を加速させるスキルじゃないかな。お父さんが言っていた超感覚とは違って、周りがゆっくりに見えても僕だけ素早く動けるんだ」


 凄まじいスキルだ。

 いずれ儂はペロに勝てなくなるだろうな。

 そんなことを考えていると、儂の視界に文字が表示される。



 【田中ペロを進化させますか? YES/NO】


 【進化先選択】

 ・セイントワーウルフ→セイントシルバーワーウルフ

 ・セイントワーウルフ→聖氷人狼



 よく見ればペロの進化の条件が達成されている。

 成長して間もないと言うのに早くも進化とは。儂は進化の選択肢をペロに伝えた。


「僕は聖氷人狼がいいかな」

「ふむ、本人がそう言うのならそうしよう」


 ペロの言うとおり進化先を聖氷人狼に選択した。

 彼はすぐにテントの中に入ると、犬のように丸まって眠り始める。

 いかなる進化になるのか楽しみだ。


「ふぁ? あれ? 真一帰ってきたの?」


 テントの中で眠っていたエルナが起き上がる。

 寝ぼけまなこでぼんやりとしており、すぐに寝てしまいそうな雰囲気だ。


「先ほど戻った。問題はなかったか?」

「うん、特にはないかな。それよりも私のステータスを見て欲しいの」

「ステータス?」


 儂はエルナのステータスを確認する。



 【分析結果:エルナ・フレデリア:フレデリア家の次女。本人は魔法こそが最も得意としていると考えているが、彼女の戦いぶりを知る兵達からは魔導格闘家などと噂されている:レア度S:総合能力B】


 【ステータス】


 名前:エルナ・フレデリア

 年齢:19歳

 種族:始祖エルフ

 職業:冒険者

 魔法属性:火・水・土・風・光・闇・雷

 習得魔法:ファイヤーボール、ファイヤーアロー、フレイムボム、フレイムチェーン、フレイムウォール、フレイムバースト、フレアゾーン、アクアボール、アクアアロー、アクアウォール、アクアキュア、スピアーレイン、アクエリアスリカバリー、ロックアロー、ロックウォール、ロックバレット、ロックアーマー、メタルウォール、グラウンドハンマー、エアロボール、エアロアロー、エアロカッター、エアロウォール、ライトニングサンダー、ブレイクトルネード、ライト、スタンライト、カモフラージュ、レーザー、シャドウ、シャドウフィールド、シャドウバインド、ブレイクマインド

 習得スキル:槍術(特級)、弓王術(上級)、拳王術(上級)、地獄耳Z(中級)、覚醒(初級)、攻撃予知(初級)、高潔なる精神、魔の真髄(特級)

 進化:条件を満たしています

 <必要条件:攻撃予知(初級)、高潔なる精神、魔の真髄(特級)>



 ランクアップしているのは槍術、弓王術、拳王術、地獄耳Z、魔の真髄である。

 スキル進化で得たのは、覚醒、攻撃予知。

 エルナも一ヶ月の間は儂と修行をしていたので、成長度合いはかなりのものだ。

 あとは魔法にレーザーとブレイクマインドが追加されていた。


「ステータスは悪くないぞ?」

「進化を見て欲しいの」

「進化? どれどれ」


 もう一度確認すると、条件が達成されているようだった。

 ペロに続いてエルナも進化ができるらしい。すぐに視界に選択肢が現れる。



 【エルナ・フレデリアを進化させますか? YES/NO】


 【進化先選択】

 ・始祖エルフ→エンシェントエルフ

 ・始祖エルフ→原初人

 ・始祖エルフ→スペリオルエルフ



「原初人とはなんだ?」

「原初人? さすがに私も分からないわ。進化先はそれだけなの?」

「いや、エンシェントエルフと原初人にスペリオルエルフがあるが、なんとなく予想できるのはエンシェントエルフくらいだな」

「うーん、無難なのはエンシェントエルフよね……」


 エルナは悩み始める。

 原初人というのは気になるが、儂としてはスペリオルエルフが最も興味を引いていた。

 スペリオルというのは高次や上位という意味だ。

 だとすれば今よりも更なる飛躍が待っているかもしれない。


「ねぇ真一はどれがいい?」

「儂が決めるのか?」

「変な進化をしても真一が責任を取ってくれるじゃない」

「責任ねぇ……」


 どういう意味での責任なのかは判断しかねるが、儂はエルナがどのような姿になろうと見捨てるつもりはない。

 そう考えると別にどれを選んでも困ることはないかもしれない。

 だいたい今までの傾向からするに、人の姿から外れる事はなかったのだ。

 ここは冒険するべきだろう。儂の勘もそうするべきだと言っている。


「ではスペリオルエルフに決定だ」

「うん、悪くないわね。原初人よりは十倍位マシよ」


 なんだ、結局自分で選んでいるではないか。

 やはり女性の言動というのは儂には理解できないな。

 スペリオルエルフを選択すると、エルナの体がぼんやりと光り始めた。

 彼女は再び横になるとペロの横で毛布に包まった。


 テントを出ると、儂は念のためにフレアのステータスも確認する。

 この流れだと彼女も進化する可能性がある。



 【分析結果:フレア・レーベル:元公爵家近衛騎士。マーナだけでなく連合軍の間でも有名なケモナー。もはやペロのモフモフなしには生きてゆけない:レア度S:総合能力A】


 【ステータス】


 名前:フレア・レーベル

 年齢:18歳

 種族:ネオヒューマン

 職業:冒険者

 魔法属性:火

 習得魔法:ファイヤーボール、ファイヤーアロー

 習得スキル:念動力(上級)、流星突き(中級)、剣術(上級)、槍王術(中級)、盾術(中級)、拳王術(初級)、腕力強化(特級)、身体強化(中級)、超感覚(中級)、調理術(上級)

 進化:条件を満たしていません

 <必要条件:念動力(特級)、槍王術(初級)、身体強化(初級)>



 スキルアップをしたのは念動力、流星突き、腕力強化、身体強化、超感覚だ。

 スキル進化で得たのは槍王術、拳王術。

 フレアも一ヶ月の修行を経てかなり成長しており、今回の戦いを経験したことでさらに力を付けたようだ。ただ、進化するには至っていない。


「私の顔に何か付いているのか?」


 焚き火の前で肉を食べているフレアが不思議そうな表情を見せる。

 儂は彼女の近くに座ると、いまだに焼いている串肉を手に取った。


「もうすぐ戦争は終わる。苦しい戦いを強いる事になって悪かった」

「なにを言うか。私は今やホームレスの一員ではないか。リーダーが指示を出して、メンバーがそれに従うのは当然。それに私は王国を守ることができて誇らしいぞ」


 フレアは口元に肉の欠片を付けたまま嬉しそうに笑う。

 彼女は騎士として生きてきた。だからこそ戦うことに迷いも罪悪感も抱かないのだろう。儂としてはありがたい話だ。そして、死なずに戻ってきてくれたことを嬉しく思う。


 そのとき、視界に文字が現れた。



 【まもなく進化が始まります。進化が完了すると、以前に戻ることはできません。進化いたしますか? YES/NO】



「え??」


 ギョッとするが、よくよく考えてみれば儂だって進化の条件を満たしているのだ。まさか四人中三人が進化する事になるとは驚きである。


「フレア、儂は進化するようなのでテントで休ませてもらう。重要なことは獣王に報告してくれ」

「分かった。良い進化を」

「うむ」


 儂はテントに入ると、ペロの横で寝ることにする。

 すぐに意識は遠くなり、まどろみの中に沈んでいった。




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