六十八話 ホームレス人助けをする


 次の国であるナジィ共和国へ向かうために、儂らは険しい山道を黙々と突き進む。この辺りは鉱山が多いのか、途中には採掘所らしき穴やトロッコなどがよく見られた。

 

「うわぁ、よくあんな高い場所で作業が出来るわね」

「ドワーフというのは、肝が据わった種族なのかもしれないな」


 儂らが見ているものは、断崖絶壁の岩肌に設置された木製の足場で作業をするドワーフだ。

 金槌とノミで岩肌を削り、何度も削った石をルーペで確認していた。

 見ているだけならなかなか面白そうな作業だ。


 さらに道を進むと、再び採掘場らしき穴が見える。


「ぎゃぁぁぁあああ! 奴らが大量に出たぞ!」


 採掘場から大勢のドワーフたちが出てくる。

 すぐに何事かとユニコーンの足を止めた。


「そこのご老人、中で何があったのだ?」


 儂は採掘場から逃げ出してきたと思われる、老人ドワーフに声をかけた。


「どうしたもこうしたも、採掘していた壁の向こうから大量のガーゴイルが現れた。あいつらは鉱石を食べる上に、体も岩のように硬い。わしらじゃとても太刀打ちできん」

「それは大変だな。では儂が退治しよう」


 儂はユニコーンから降りると、坑道へと踏み入る。

 情けは人のためならずと言う言葉もある。やはり人助けはしておいて損はないだろう。なにより儂の勘がそうしろと言っている気がするのだ。


「ちょっと真一、私を置いて行かないで」


 エルナが後ろから追いかけてきた。

 ガーゴイル相手なら一人でも十分だが、やはりエルナが居た方が心強い。

 儂は剣を抜いて先を進み始めた。


「グルァアア!」


 薄暗くジメジメした通路を進むと、数匹のガーゴイルが現れて飛びかかってくる。

 儂は慌てるようなこともなく切り捨てた。

 すると、それを皮切りに奥から次々にガーゴイルが出てくる。


「真一、目を閉じて! スタンライト!」


 エルナは光魔法であるスタンライトを使用した。

 この魔法は強烈な光を放つことによって、敵の視界を一時的だが奪ってくれる。

 まばゆい閃光が坑道内にあふれ、ガーゴイル達は両目を押さえて地面に転がった。


「とどめは儂がしよう」


 スキル活殺術を発動すると、ガーゴイル達の死のツボを剣で軽く突いてゆく。

 相変わらず恐ろしいほどの性能を秘めており、ツボを押した魔獣は一瞬にして死んでゆく。

 儂らの通った道には屍だけが転がっていた。


「真一、まだまだ奥から出てくるわ!」

「分かっている」


 先へ進むと、現れたガーゴイル達にエルナは再びスタンライトを放つ。

 トドメは儂の活殺術だ。そんな調子でどんどん奥へ進むと、ガーゴイルの発生源らしき穴へと到着した。


 崩落した壁の向こう側には広い空間があるようで、さらに奥へと続く道があった。

 儂は念のためと考えて、崩落した壁の向こう側へと行くことにする。


「坑道と洞窟が偶然繋がったのかもしれないな」


 壁の向こう側は鍾乳石が生えており、先ほどまで居た坑道とは雰囲気が違っていた。

 それにただでさえジメジメしていた空気が、肌にまとわりつくような濃密な湿度へと変わっている。


「何か声が聞こえるわ」


 エルナが耳をピクピクさせた。

 儂は警戒を強め剣を握りしめる。

 どのような敵が出ようとも油断するつもりはない。


 数分ほど歩くと開けた場所へとたどり着くことが出来た。

 そして儂とエルナは声を上げて感動した。


 部屋とも言うべき空間の壁に、金属が柱となって生えているのだ。

 エルナの魔法の光はそれらを照らし、眩しいほどの乱反射が目に飛び込む。

 どうやらここは、ガーゴイル達がえさ場としている鉱脈だったようだ。


「グルァァアアアアア!!」


 咆哮と共に部屋の隅から一体の魔獣が姿を現す。

 どこかガーゴイルに似ているが、大きさも色も面構えも違っている。

 身長は約四mもあろう巨体に、体の表面は鋼鉄のように光沢を帯びていた。

 大きな口を開くと、口内には鋼色の牙が鋭く生えそろっている。

 悪魔のような姿だったガーゴイルが、さらに凶悪な生き物として成長したように見えた。



 【分析結果:ガーゴイル(変異種):ガーゴイルが変異した姿。その凶暴性と力は一般的なガーゴイルを遙かにしのぎ、空腹になると仲間であるはずのガーゴイルすら食べてしまう:レア度S】


 【ステータス】


 名前:ガーゴイル(変異種)

 種族:ガーゴイル(変異種)

 魔法属性:土

 習得魔法:ロックバレット

 取得スキル:牙強化(特級)、爪強化(上級)、腕力強化(上級)、触覚強化(特級)、視覚強化(特級)、硬質化(特級)、分離(特級)、金属操作(中級)、威圧(特級)

 進化:条件を満たしていません

 <必要条件:牙王(初級)、腕力強化(特級)、硬質化(特級)、金属操作(特級)>



 ガーゴイルの変異種だったのか。

 しかも相当な強さだと判断できる。

 特にスキルの金属操作は厄介な臭いしかしない。


「グルガァアアア!」


 変異種は壁に生えている金属の柱を掴むと、いともたやすく引き抜いた。

 そして金属の柱は変異種の手の中でぐにゃりと形を変えると、長さが二m近くもある太く大きな杭になった。


「エルナ、避けろ! 投げるつもりだぞ!」

「分かってるわ!」


 変異種は杭を投擲する。

 儂らは軌道を予測して回避する。

 杭が着弾した壁は粉砕され、生えていた金属の柱も砕けた。

 まるで大砲だ。


 すぐに動き出した儂は、変異種に向かって走り出す。

 あんな攻撃を何度も出されては、この地下空洞が崩壊してしまう。


「グルァァ!」


 変異種が鳴くと、奴の目の前に岩の塊が生成された。

 今度は土魔法のロックバレットをぶつけてくるようだ。


「ロックウォール!」


 エルナの土魔法により、地面から岩の壁が何枚も現れる。

 儂はすかさず壁の影へ身を潜めた。

 ドゴンッと岩弾が壁に当たると、両方が同時に粉砕する。

 スキルで強化されているエルナの魔法なら、初級魔法でもギリギリ中級魔法を防げるようだ。

 儂は次の壁の影へ移動して、奴の攻撃に備える。


「グルァァアア!」


 次の岩弾が放たれる。

 儂はタイミングを見計らって壁から飛び出す。

 後ろでは射出された岩と壁がぶつかる音が聞こえた。

 変異種は儂が至近距離まで来ている事に気が付くと、その大きな腕を爪を伸ばして振るう。

 だがその攻撃は悪手だ。


 儂は跳躍すると、奴の腕を肘から切断する。

 鮮血をまき散らし悲鳴を上げる変異種。儂の一撃は大打撃だったようだ。


「シャドウバインド!」


 エルナの魔法が変異種を縛る。

 こうなってしまえば奴にはどうすることも出来ない。

 動けなくなったところで、儂が活殺術を使用してとどめをする。


「グ……ガァ……?」


 剣で眉間を一突きすると、変異種は大きな音を立てて倒れた。

 心臓は停止し両目は瞳孔が開いている。

 すぐにスキル拾いで触覚強化、分離、金属操作、威圧を取得する。



 【ステータス】


 名前:田中真一

 年齢:17歳(56歳)

 種族:ホームレス(王種)

 <ハイドラゴニュート・ヴァンパイア>

 職業:冒険者

 魔法属性:無

 習得魔法:復元空間、隔離空間

 習得スキル:分析(中級)、活殺術(中級)、達人(中級)、盗術(上級)、隠密(特級)、万能糸(初級)、分裂(初級)、危険予測(初級)、索敵(上級)、触覚強化(特級)、味覚力強化(特級)、消化力強化(上級)、視力強化(特級)、聴力強化(特級)、嗅力強化(特級)、限界突破(中級)、超感覚(特級)、衝撃吸収(特級)、水中適応(中級)、飛行(上級)、硬質化(特級)、自己再生(初級)、植物操作(特級)、金属操作(中級)、分離(特級)、威圧(特級)、独裁力(初級)、不屈の精神(特級)、小竜息(特級)、麻痺眼(上級)、竜斬波(中級)、眷属化、眷属強化(初級)、眷属召喚、竜化、スキル拾い、種族拾い、王の器



 ステータスを見ると、分析と活殺術がランクアップしていた。

 まずまずの収穫だ。



 【条件を満たしました。スキルを統合したのち進化させます】


 【統合進化:触覚力強化+味覚力強化+視力強化+聴力強化+嗅力強化=神経強化】



 感覚系スキルはいつか統合進化するだろうと思っていたが、どうやら本当にそうなったようだ。

 ただ、似たようなスキルで超感覚があるのが引っかかる。

 もしかすれば神経強化と超感覚はいずれ統合進化するかもしれない。

 そう考えると少し楽しみだ。


 儂はガーゴイル変異種をリングに収納すると、洞窟内にある金属を拾う。

 報酬としていくつかの金属をいただいても罰は当たらないだろう。


「真一、何をしているの?」

「いや、報酬としていくつかいただこうと思ってな」

「ふーん、じゃあコレなんかいいんじゃない?」


 エルナがどこからか持ってきたのは緑色の金属柱だった。


「これは?」

「エアロニウムよ。風の属性を持った金属ね。他にもフレイニウムやアクアニウムなんてものもあるらしいけど、ここじゃあエアロニウムしかないみたい」


 フレイニウムは確かペロが装備している手甲に使われていた金属だ。

 と言うことは、エアロニウムという金属も魔力を込めれば風が出ると言うことなのだろうか。

 やはりこの世界は儂を飽きさせない。


 他にも色々とみていると、ちらほらと緑や青の魔石を見かけた。

 大きな物は拳ほどもあり、国宝級クラスの魔石がゴロゴロとしている。

 さすがに魔宝珠はないようで、すぐに魔石探しは諦める。


「真一! コレ見て!」


 エルナが鏡餅ほどの大きさの何かを持って走ってきた。

 それは表面がホログラム柄になっており、光が眩しいほど反射する。


「金属か?」

「これはアダマンタイトよ! 幻の金属! ミスリルよりも堅くて魔導率も高いし、希少価値は超がつくほどよ! かの五大宝具にはアダマンタイトの武器があるっていうくらいなんだから!」


 よく分からないが儂はエルナの抱えている塊を分析する。



 【分析結果:アダマンタイト:最高クラスの堅さを誇る金属。その希少さゆえに武器ではなく装飾品として加工されることが多い:レア度S】



 確かに彼女の言うとおりアダマンタイトのようだ。

 しかし、儂らにはもてあましそうな代物にも見える。

 が、エルナは何かを察したのか、アダマンタイトを守るように抱きしめた。


「これは私が見つけたから私のものよ! これを売って沢山服を買うの!」

「別に取り上げたりはしない。エルナが見つけたのだから好きにすれば良いさ」


 とは言ったが、アダマンタイトをまともに買い取ってくれる場所があるかは謎だ。

 希少な金属と言うことは、法外な値段がつけられるのは想像できる。

 そうなると、下手なところでは買い取り拒否される可能性だってあるのだ。

 王国に帰って公爵に売った方が賢いだろう。


 欲しい金属をリング内に収納すると、儂らは来た道を戻って外へと出ることにした。

 坑道を出たところで大勢のドワーフたちに出迎えられる。


「ヒューマンの兄ちゃん、中はどうだった!? ガーゴイル達はまだ居るのか!?」


 一人の男性ドワーフに声をかけられ儂は返答する。


「ほとんどのガーゴイルは儂らが始末した。ついでにガーゴイルの親玉も始末しておいたので、これで一安心だと思うぞ」


 儂の言葉にドワーフたちは喜んだ。

 彼らはすぐに感謝の言葉を述べると、謝礼として金貨を渡そうとしてきた。


「それは受け取れない。儂らはガーゴイルの住処から相応の物を頂戴した。これ以上は過分だ。先を急ぐのでこれにて」


 儂らはユニコーンに飛び乗ると、颯爽と走り出す。


 後ろからドワーフたちの感謝の声が聞こえた。






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