六十話 死者の迷宮
マーナから北東に移動すると、死者の迷宮と呼ばれる場所がある。
そこはかつて共同地下墓地だったのだが、一体のスケルトンが紛れ込んでしまったばかりに全ての死体がアンデッド化してしまったのだ。
以来、地下墓地は閉鎖されアンデッド達の巣窟となっている。
「その地下墓地がここか」
儂はゆっくりと地面に着地する。
到着した場所は頑強な金属柵に囲まれ、中央には石造りの建物があった。
建物の入り口は鉄格子で厳重に閉められており、さらに鎖でがっちりと施錠されている。普通に見れば入れないと思うだろう。
建物の裏側に回ると、ぽっかりと穴が空いていた。
大人一人が這う事で、ギリギリ通り抜けられるような穴だ。
子供である儂は余裕で穴を通り抜ける。
死者の迷宮は表向きは閉鎖されているが、闇の魔石の採取場所として冒険者には有名らしい。事前にフレアに聞いていてよかった。
「かび臭いな……」
建物の中へ入ると、薄暗くじっとりとしていた。
床には地下へと続く階段があるだけ。
それだけを確認すると、儂は眷属召喚を行う。
床に出現した光からスケ太郎と十体の銀色のスケルトンが現れた。
【分析結果:ホームレスシルバースケルトン:ホームレススケルトンが聖獣化し、進化したことで誕生した種:レア度S】
【ステータス】
名前:スケルトン1
種族:ホームレスシルバースケルトン
魔法属性:闇・無・聖
習得魔法:シャドウ、シャドウフィールド、シャドウバインド
習得スキル:剣術(上級)、斧術(中級)、槍術(中級)、鎚術(中級)、弓術(中級)、体術A(中級)、体術B(中級)、硬質化(中級)、統率力(中級)、魂喰
支配率:田中真一に100%支配されています
進化:条件を満たしていません
<必要条件:剣王術(初級)、硬質化(特級)、統率力(上級)>
「カタカタ」
十一体が跪いて頭を垂れる。
この十体はセイントウォーターで聖獣化した精鋭である。
それぞれの額には1~10までの番号が書かれており、特別にミスリルの武器を持たせている。
儂はこの十体を軍団長として育てたいと考えているのだ。
一体が千の兵を統率し、最終的に将軍であるスケ太郎がまとめ上げる。
スケ次郎に関しては、副将軍としてスケ太郎を補佐しつつ大型スケルトン部隊をまとめる予定だ。
しかし、興味深いのはスケ太郎だろう。
十体のホームレススケルトンは、ゴールデンにはならなかった。
だとすれば、スケ太郎だけが特別だったと考えるべきだろう。
実際にベゼルの骨はゴールデンになったのだから、スケ太郎の生前は凄腕の騎士か冒険者だった可能性が高い。
「ではスケルトン
「カタカタ」
十体は顎を鳴らすと、順番に階段を降り始めた。
儂とスケ太郎も下へと足を進める。
「……この辺りは敵はいないようだな」
降りた先はレンガ調の通路だった。
直線に奥へと続いており、かすかにだが堅い何かが歩く音が聞こえる。
「では進むぞ」
十体は二列になって進み始めた。
通路の壁は髑髏の彫刻が禍々しく掘られており、地下墓地というよりは地獄の入り口のように感じる。
儂のスキル索敵に複数の反応が見られた。
数は四。いずれもこちらへと急速に近づいている。
「カタカタ」
スケ太郎の指示により、十体はそれぞれが武器を構える。
素手でも勝てる気はするが、ここは閉鎖されて五百年以上は経過しているアンデッドの魔窟だ。何が出るか分からない。
「カタカタカタ」
現れたのは至って普通のスケルトンだった。
スケルトン1が、敵である四体を剣で切り伏せた。
儂はすぐに眷属化を使う。
「カタカタカタ」
四体は眷属となったが、スケルトン1に切られた事で上半身と下半身が分かれたままだった。
「では復元空間を試してみるか」
魔法を使用すると、四体の体が復元してゆく。
分かれた下半身が上半身へとくっつくと、欠損していたあばら骨や指の骨が、植物が成長するようにみるみる現れる。
「カタカタ」
四体は立ち上がると、赤い眼を光らせながら儂に頭を垂れた。
やはり復元空間は儂にはうってつけの魔法のようだ。
「では先へ進むぞ!」
新たに加わった四体を列に加え、ズンズン先へと進む。
程なくすると大量のスケルトンと出会い、儂はスケルトン部隊を壁にしながら眷属化を行う。
気が付けば百体もの兵を支配下に収めていた。
「くはははっ! さぁどんどん進むぞ!」
笑いが止まらない。
現れる骨達が次々に傘下へとくだるのだ。
二列だった眷属の行進が、今や十列となって足並みをそろえている。
だが、まだまだだ。これからさらに数を増やすのだ。
一階層を掌握すると、次は二階層だ。
地下二階はさらに広くなり、通路も迷路のように入り組んでいた。
そして、敵の数が一気に増えた。
「スキル索敵では数え切れないか。まぁいい、このまま直進だ」
視界に映る索敵画面は真っ赤になっていた。
赤く映る全てが敵だ。
フレアに聞いた話だが、この迷宮へ入る者は魔退香と呼ばれる特殊な薬草を燃やしてスケルトンを避けるそうだ。その隙に闇の魔石をいただくと言うのが、冒険者の流れらしいが今回は無視する。
儂の目的は魔石ではなくスケルトンその物だからだ。
通路を埋め尽くすほどの骨達が押し寄せてくる。
儂はスケルトン部隊を壁にすると、すぐに眷属化を連発した。
◇
一日が経過した。
儂はずっと眷属化を行い。現在の数は十万を超えている。
今の儂なら一体のスケルトンを眷属化するのに一秒ほどだ。
六十秒で六十体とするなら、現在は二十八時間経過したぐらいだろう。
「墓場で食べる食事とは複雑な気分だな」
スケルトン達に周囲を守らせて、儂はひとまず休憩中だ。
炊きあげた白米を木器に盛ると、ナイトチキンの卵を割ってその上に乗せる。
ミネラル豊富な岩塩を振りかけると完成だ。
ご飯の上に乗った卵は艶々と光り、橙色の卵黄は白身から盛り上がって新鮮さを伝える。
ただの卵かけご飯。されどTKG。
「念願のTKG……いただきます!」
自作の箸でご飯を掻き込むと、ご飯の甘みに濃密な卵黄が絡み付いてハーモニーを奏でる。やはり醤油が欲しいと思うが、これはこれで悪くはない。
次にナイトチキンの野菜炒めを頬張る。
ナイトチキンは骨まで黒い鳥なので肉も真っ黒だ。
プリプリとした歯ごたえと、迸る脂の旨味がシャキシャキの野菜と一緒に美味だ。
さらにナイトチキンの鶏ガラスープを啜ると、心から暖まる気がする。
食べ終えると、至福の溜息を吐いた。
「カタカタ」
周囲にいたスケルトン達が道を開く。
その先からは、捕獲したスケルトンが連れてこられていた。
儂が命令しなくとも、彼らは何をすれば良いのか把握しているのだ。
すぐに眷属化をすると、新たな仲間が儂へ一礼する。
「よし、休憩は終わりだ。すぐに下へ行くぞ」
儂は立ち上がって出発の準備をする。
十万いるスケルトン軍だが、これから約五万を一階層へ移動させ、もう五万を二階層で待機させる予定だ。
先に進むには十一体と儂で十分と判断した。
「では移動開始」
五万が足並みをそろえて移動してゆく。
残り五万はこの場にて整列した状態で待機させる。
彼らは思考能力はあるようだが、人間とは時間の感覚が根本的に違うようだ。
スケ太郎に聞いた話では、儂らの一年はスケルトンにとっては一時間程度にしか感じていないそうだ。
つまり、ここで五年放置したとしても、彼らは特に苦痛などは感じないと言うこと。
ますますスケルトンとは最高の労働者と思えてしまう。
儂は十一体を引き連れて三階層へと足を踏み入れた。
「……二階と同じか」
三階層は二階層と同じ感じだった。
同様に膨大な敵影が感知できる。
「ではさっそく仲間を作るぞ!」
儂と十一体は走り出した。
◇
あれから一週間が経過した。
たどり着いた場所は八階層。
すでに七十万ものスケルトンが傘下に入っている。
予定よりずいぶんと多い兵数だ。やりすぎた気もしないでもない。
八階層まで来ると、妙なスケルトンを見るようになった。
一般的なスケルトンよりも、力も素早さも比べものにならないスケルトンだ。
分析した結果、奴らはハイヒューマンのスケルトンだと言うことが判明した。
死者の迷宮は下に行くほど時代が古くなる。
つまり、昔は今よりもハイヒューマンが多かったと言うことだろう。
儂はそいつらを軒並み眷属化し、配下に収めることに成功した。
そして、死者の迷宮の最下層へと至ったのだ。
「ここが最下層か……」
がらんとした大きな部屋に、中心部には石の棺が置かれている。
壁には天国を表したかのような絵が彫られており、最下層に眠る人物が格の高い者だと暗に伝えているようだった。
儂は迷うことなく棺を開ける。
ここまで来て棺を見ないわけにはいかない。
むしろ楽しみですらある。
昔から墓とは、財宝が眠る場所として知られている。
儂だって財宝は嫌いではない。
ただ、気になるのは床に空いたいくつもの穴だろうか。
剣で切ったかのような斬撃の後も見られ、棺の蓋には魔方陣が刻まれていた。
何かを棺に封じたようにも見えるが、やはり開けてみなくては分からない。
ガコンと棺を開けると、まず目に飛び込んだのは白い全身鎧だった。
骨で作られたかのような禍々しいデザインに、黒いぼろ切れのようなマントが備えられている。
これが地獄の王の物だと、誰かが言ったのなら納得してしまうだろう。
次に目を引くのは横にある剣と盾だ。
黄金の装飾が施され、ミスリルだろう刀身が銀色に輝いている。
同様に盾もミスリル製のようだった。
他には何もない。
儂が剣に触れようとすると、鎧が動き出して剣を振る。
「っ!?」
とっさのことで驚いたが、反射的に避けたことで切られることはなかった。
鎧は起き上がると、棺からゆっくりと出てくる。
儂はすぐにスキル分析を使った。
【分析結果:デュラハン:アンデッド系の上位種族だとされている。防御力に非常に優れており、倒すには本体である鎧を粉々にする必要がある:レア度A】
【ステータス】
名前:デュラハン
種族:アンデッド
魔法属性:土・闇
習得魔法:ロックバレット、ロックアーマー、シャドウ、シャドウフィールド、シャドウバインド
習得スキル:剣王術(上級)、盾王術(初級)、体術A(中級)、索敵(上級)、身体強化(中級)、硬質化(特級)、自己回復(中級)、魂喰
進化:条件を満たしていません
<必要条件:剣王術(特級)、索敵(特級)、身体強化(特級)、自己再生(初級)>
なるほどと納得した。
過去の者達は倒しきれずに、デュラハンを封じることで事なきを得たようだ。
ステータスを見る限りではかなり強い事も分かる。
「全員で奴を押さえつけろ!」
指示を出すと、スケ太郎と十体が武器を構えて走り出す。
最初にぶつかったのはスケルトン1だ。
剣と剣がぶつかり合い、暗闇で火花を散らした。
力はスケルトン1が強いようだが、剣の技術ではデュラハンの方が上手だ。
するりとスケルトン1の剣を別方向へ流すと、体勢が崩れたところに蹴りを入れる。
「カタカタ」
スケルトン1が蹴り飛ばされると、今度は斧を持ったスケルトン5が攻撃した。
デュラハンは盾を使って攻撃を防ぐと、隙だからけとなったスケルトン5へ体当たりする。奴は次々にスケルトン達をたたき伏せていった。
「カタカタ」
スケ太郎の斬撃をデュラハンは剣で受ける。
互いに剣を押し合い、一歩も退く様子はなかった。
その間に儂は眷属化を急ぐ。
予想通りだが緑のゲージはなかなか進まない。
十分はかかる事だろう。
「カタカタカタ」
復帰した十体のスケルトン達がデュラハンへと走り出す。
危険を察知した奴は、すぐに逃げだそうとするがスケ太郎がすかさず足払いした。
そのままデュラハンはあっけなくスケルトン達に捕まってしまう。
「これで完了だ」
十分が経過し、ようやくデュラハンを眷属にする事ができた。
白かった鎧は漆黒に変わり、ステータスも変化する。
【分析結果:ホームレスデュラハン:田中真一の眷属化によって誕生した新たな種族。デュラハンの上位種族であり、頑強な鎧は並の魔獣では傷つけることができない:レア度S】
【ステータス】
名前:ホームレスデュラハン
種族:ホームレスデュラハン
魔法属性:土・闇・無
習得魔法:ロックバレット、ロックアーマー、シャドウ、シャドウフィールド、シャドウバインド
習得スキル:剣王術(上級)、盾王術(初級)、槍術(中級)、斧術(中級)、鎚術(中級)、弓術(中級)、体術A(中級)、体術B(中級)、索敵(上級)、身体強化(中級)、硬質化(特級)、衝撃吸収(中級)、自己回復(中級)、魂喰
支配率:田中真一が100%支配しています
進化:条件を満たしていません
<必要条件:剣王術(特級)、索敵(特級)、身体強化(特級)、自己再生(初級)>
儂はさらにセイントウォーターをかける。
デュラハンは苦しみ出すと、黄金色へと変わっていった。
【分析結果:ホームレスゴールデンデュラハン:聖獣化によって誕生した新たな種族。頑強な鎧は並の魔獣では傷つけることができない:レア度SS】
【ステータス】
名前:ホームレスゴールデンデュラハン
種族:ホームレスゴールデンデュラハン
魔法属性:土・闇・聖・無
習得魔法:ロックバレット、ロックアーマー、シャドウ、シャドウフィールド、シャドウバインド
習得スキル:剣王術(上級)、盾王術(初級)、槍術(中級)、斧術(中級)、鎚術(中級)、弓術(中級)、体術A(中級)、体術B(中級)、索敵(上級)、身体強化(中級)、硬質化(特級)、衝撃吸収(中級)、自己回復(中級)、魂喰
支配率:田中真一が100%支配しています
進化:条件を満たしていません
<必要条件:剣王術(特級)、索敵(特級)、身体強化(特級)、自己再生(初級)>
「よし、スケ太郎が着てみろ」
儂が命令すると、スケ太郎はビクッと動いた。
恐らく驚いたのだろう。
表情は分からないが、魔獣だって感情はあると言うことだ。
スケ太郎は恐る恐るデュラハンを身に纏うと、儂ですら平伏してしまいそうなほどの威厳があふれていた。
黄金のスケルトンが黄金の鎧を身につけ、黒いぼろ切れマントが荒々しさと威厳を高めている。まさに、儂が考えた最強のスケ太郎が完成したのだ。
「素晴らしいぞスケ太郎! デュラハンを一目見たときから、スケ太郎に着せるべきだと考えたのは正解だった!」
「カタカタ」
スケ太郎は少し照れくさそうに顎を鳴らした。
ただ残念なのは兜がないことだ。
全身鎧と言うが、デュラハンには頭部が存在していない。
なので、スケ太郎に兜を着けさせることはできなかった。
まぁ、十分にカッコイイのでこれで我慢するべきだろう。
儂は眷属となったデュラハンに”デュラ之助”と名付けることにした。
普段はデュラハンとして生活してもらうが、戦闘時にはスケ太郎の防具として活躍してもらう予定である。
こうして儂は死者の迷宮を掌握する事に成功した。
第三章 <完>
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