五十八話 ペロの成長


 ペロの体が光に包まれ、次第に一回りも二回りも大きくなる。

 身長が170㎝ほどまで来ると光が消えていった。


「お父さん……これ……」


 ペロは自身の姿に驚いているようだ。

 現れたペロはより狼男らしくなり、白き体毛は光を反射するほど美しい。

 腕や足の筋肉は太く強靱に見えた。

 爪と牙もさらに鋭く、刃物のように光沢を帯びている。

 聖獣セイントワーウルフとしてペロは成長したのだ。


 すぐにスキル分析で確認する。



 【分析結果:田中ペロ:聖獣となったワーウルフ。一生懸命に父へ追いつこうとしているが、遠い背中に憧れと悔しさを感じていた:レア度S】


 【ステータス】


 名前:田中ペロ

 年齢:5歳

 種族:セイントワーウルフ

 職業:冒険者

 魔法属性:風・聖

 習得魔法:エアロボール、エアロアロー、ホーリーロア

 習得スキル:烈風撃(上級)、拳王術(初級)、身体強化(特級)、牙強化(初級)、爪強化(特級)、悪魔鼻(初級)、知力(上級)、威圧(上級)、自己再生(初級)

 進化:条件を満たしていません

 <必要条件:拳王術(特級)、身体強化(特級)、牙強化(特級)、知力(特級)>



 まず、ランクアップしたスキルだ。

 烈風撃、身体強化、爪強化、知力、威圧がそれぞれ上がっている。

 次に進化したスキル。

 体術AとBが、統合進化され拳王術となっていた。

 最後に追加されたスキルだ。

 牙強化、悪魔鼻、自己再生だ。

 悪魔鼻に関しては、まだどのようなスキルかは分からないが、予想としては地獄耳などの感覚強化系のスキルだと考えている。

 それと魔法にも追加されたものがあるようだ。

 ホーリーロア。効果は謎だが、おそらくは聖属性だと思われる。


「良い成長ができたみたいだな」


 儂は大きくなったペロの頭を撫でる。

 まだ儂の方が身長は高いが、いつか抜かれてしまうかもしれない。

 寂しいような嬉しいような不思議な気持ちだ。


「ペロ様がさらにモフモフに!」


 フレアはペロへ抱きついてフガフガと顔を押し当てる。

 彼女にとってもペロの成長は喜ばしいことのようだ。

 ケモナーという言葉を聞いたことがあるが、フレアのような者を言うのだろうか?


「服破れちゃった……」


 ペロは破れてしまった服を両手に乗せて少し落ち込んでいる。

 進化とは違い、成長は服までは変化させてくれないようだ。


「気にするな、また新しいのを買ってやる。それまでは儂の服を着ろ」

「うん」


 リングから儂の服を取り出すと、ペロへ渡してやる。

 すぐに着始めると、モフモフを堪能していたフレアが不満そうだ。


 それよりも、儂はベゼルから色々と取得しておかなければならない。

 死体に近づくと、スキル拾いと種族拾いを使用する。



 【ステータス】


 名前:田中真一

 年齢:17歳(56歳)

 種族:ホームレス(王種)

 <ハイドラゴニュート・ヴァンパイア>

 職業:冒険者

 魔法属性:無

 習得魔法:なし

 習得スキル:分析(初級)、活殺術(初級)、達人(中級)、盗術(上級)、隠密(特級)、万能糸(初級)、分裂(初級)、危険察知(特級)、索敵(上級)、味覚力強化(特級)、消化力強化(上級)、視力強化(特級)、聴力強化(特級)、嗅力強化(特級)、限界突破(中級)、超感覚(特級)、衝撃吸収(特級)、水中適応(中級)、飛行(上級)、硬質化(特級)、自己再生(初級)、植物操作(特級)、統率力(特級)、不屈の精神(特級)、小竜息(特級)、麻痺眼(上級)、竜斬波(中級)、眷属化、眷属強化(初級)、眷属召喚、竜化、スキル拾い、種族拾い、王の器



 取得したのは竜斬波、拳王術、小竜息、竜化だ。

 剣王術は何度試しても取得できなかった。

 ほぼ同じスキルである達人があるからだろう。


 そのほかにもいくつかのスキルがランクアップしていた。

 達人が中級になり、限界突破も中級に達した。

 さらに不屈の精神と超感覚が特級となり、衝撃吸収と硬質化も特級となったのだ。



 【一定の条件を満たしましたので、スキルを進化させます】


 【スキル進化:危険察知→危険予測】


 【スキル進化:統率力→独裁力】



 【報告:スキル拳王術はスキル達人に吸収されました】


 【報告:ドラゴニュートはハイドラゴニュートに吸収されました】



 めまぐるしく視界に文字が表示される。

 危険予測というのは今までとどう違うのだろうか。

 言葉通り危険を予測してくれる事を期待しよう。

 独裁力には恐怖のような物を感じずには居られない。

 スキルは儂をどこへ導こうとしているのだ。


 しかし、ベゼルが帝国最強とは考えにくいだろう。

 おそらくまだ上が居る。


「今回の戦いで、帝国はマーナへ目を付けたことだろう。次は万の兵を率いてくる可能性が高い」

「帝国の主力が来るって事?」

「うむ、このままではそうなるだろう。正直に言えば、帝国は王国を後回しにするだろうと考えていた。だが、あのカールという男がそうはさせなかったようだ」

「じゃあどうするの? さすがに私でも万の軍勢を相手にはできないわよ?」


 エルナの言うとおりだ。

 いくら儂らが強いと言っても、万のドラゴニュートを相手に勝てる自信はない。

 それにベゼル以上の敵が居るとすれば、例え万の兵を倒したとしても疲労困憊ひろうこんぱいしたところで討ち取られることは想像に難くない。


 エルナは名案が浮かんだとばかりに、手のひらへ拳を打ち付ける。


「眷属を召喚して対抗するのは?」

「だめだ。ホームレススケルトンはドラゴニュートほど強くはない。勝てるとすれば、数が揃っている場合だが……」


 そこまで言って一つの考えが閃光のように現れた。

 しかし、可能かどうかは不明だ。

 不明だが、やってみる価値はある。


 そもそもスケルトンとは人の死体だ。

 そこから変化したのがホームレススケルトン。

 実力で言えば、三体でドラゴニュートへ勝てるぐらいだ。

 もし、ホームレススケルトンが敵の三倍居たとするならどうなるだろうか?

 さらに上位のスケルトンが居たとすれば?


「勝利が見えたな」

「勝てる方法が分かったの?」

「まだ確実ではないが希望はある」

「すごいじゃない! さすが真一ね!」


 エルナが儂へ飛びついて頬へキスをする。

 儂だって気に入っている町を破壊されたくはない。

 それにここは第二の故郷のようなものだ。

 帝国が来ると言うのなら、堂々と迎え撃ってやろうではないか。



 ◇



「肉の削ぎ落としは、これくらいでいいだろう」


 ここは二十階層の廃棄場。


 儂は現在、回収したドラゴニュートの死体を処理している。

 数にすると三百五十体。


 土の肥やしにするのはもったいないと考えた儂は、ドラゴニュートの死体を回収してスケルトンにすることにしたのだ。

 さすがに巨人とも言えるドラゴニュートの解体は手間取った。

 スケ太郎をはじめとするスケルトン部隊が居なければ、さらに時間がかかったことだろう。

 その代わりだが、ドラゴニュートのスケルトンは戦力として期待できる。

 肉を削ぎ落とした骨は、ヒューマンのものと比べるとずいぶんと大きくて太い。


「では、五体ずつアンデッド化だ」


 スケ太郎達へ指示を出すと、彼らはスキル魂喰を使用して骨を魔獣へと変化させる。ガタガタと骨が動き出し、五体の骨が動き出した。


「シャドウバインドで拘束せよ!」


 さらに指示を出すと、スケルトン達は魔法を使って大きなスケルトンを縛り上げる。その隙に儂は眷属化を使って支配を奪っていった。



 【分析結果:ホームレススケルトン(大型):ドラゴニュートがスケルトン化し、さらに田中真一によって眷属化されたことで新たな種へと変わった:レア度B】


 【ステータス】


 名前:ホームレススケルトン(大型)

 種族:ホームレススケルトン(大型)

 魔法属性:闇・無

 習得魔法:シャドウ、シャドウバインド

 習得スキル:剣術(中級)、斧術(中級)、槍術(中級)、鎚術(中級)、弓術(中級)、体術A(中級)、体術B(中級)、硬質化(中級)、魂喰

 支配率:田中真一に100%支配されています

 進化:条件を満たしていません

 <必要条件:体術A(上級)、硬質化(特級)、自己回復(上級)>



 悪くないステータスだ。

 機動性は標準型には劣るが、力は圧倒的に大型が上。

 防御力もどうやら大型の方が勝っているように見える。


 儂は次々に眷属を作り、最後の一体になって眷属化を止めた。


「ベゼルの骨か……」


 最後の一体は強敵だったベゼルの骨。

 奴の骨はひときわ太く、普通のドラゴニュートの骨と比べても一回り大きい。

 さすがハイドラゴニュートの骨と言ったところか。


「スケ太郎、頼む」

「カタカタ」


 スケ太郎が魂喰を行うと、ベゼルの骨が動き出す。

 すかさず大型のホームレススケルトン達が押さえつけた。


「カタカタカタ」


 四体の大型ホームレススケルトンでも、完全には動きを封じれないようだ。

 儂はすぐに眷属化を始めた。


「むっ、思ったよりも抵抗するな」


 予想よりも緑のゲージの進みが遅い。

 五分くらいはかかるかもしれない。


「カタカタ」


 ベゼルの骨が一体を振り払い、もう一体も体から引きはがした。

 残り二体が頑張ってくれているが、このままでは不味いかもしれない。


「十体で押さえろ!」


 指示を出すと、大型のホームレススケルトンがベゼルの骨へ掴みかかる。

 しかし、奴は向かってきた一体を躱して、そのまま残り九体へ殴りかかった。

 体には二体の大型ホームレススケルトンが、しがみついているにもかかわらずだ

 骨になっても実力は衰えを知らないようだ。


「来た! あと10%!」


 緑のゲージは90%まで進んでいた。

 あと10%で奴を支配できる。


「カタカタカタ」


 ベゼルの骨は、九体を殴り倒すと儂へと突進を始めた。

 すぐに他のホームレススケルトンが、儂を守るために動こうとするが、奴の足の方がわずかに速かった。


「カタカタ」


 儂の前にスケ太郎がすっと出てくる。

 そして、ベゼルの骨の腕とアバラ骨をつかむと一気に投げた。

 見事な背負い投げだ。


 ベゼルが地面へたたきつけられると同時に眷属化は完了した。


「カタカタ」

「うむ、助かったぞスケ太郎」


 ベゼルの骨は立ち上がると、儂へ片膝を突いて頭を垂れた。



 【分析結果:ホームレススケルトン(大型):ハイドラゴニュートの骨をスケルトン化し、田中真一が眷属化したことで新たな種へと変化させた:レア度A】


 【ステータス】


 名前:ホームレススケルトン(大型)

 種族:ホームレススケルトン(大型)

 魔法属性:闇・無

 習得魔法:シャドウ、シャドウフィールド、シャドウバインド

 習得スキル:剣王術(中級)、槍術(中級)、斧術(中級)、鎚術(中級)、弓術(中級)、牙強化(中級)、身体強化(上級)、衝撃吸収(中級)、硬質化(中級)、自己回復(中級)、統率力(中級)、魂喰

 支配率:田中真一に100%支配されています

 進化:条件を満たしていません

 <必要条件:剣王術(初級)、硬質化(特級)、統率力(中級)>



 生前に持っていた、いくつかのスキルは残っているようだ。

 まぁ、めぼしいものは儂がいただいてしまったので仕方ないとして、ホームレススケルトンにしてはずいぶんな能力だ。


「仕上げはこれだ」


 未だ頭を垂れるベゼルの骨へ、儂は水筒に入れてきたセイントウォーターを振りかけてやる。


「カタカタカタカタ」


 水をかけられた骨は、床に倒れもだえ苦しむ。

 スケ太郎の時とよく似た光景だ。


 黒かった体は次第に黄金色へと変わり、体はさらに一回り大きくなった。

 骨はさらに太く、光に照らされてキラキラと反射していた。


「お前は今日から”スケ次郎”だ。存分に働くのだぞ」

「カタカタ」



 【分析結果:スケ次郎:ホームレススケルトン(大型)を聖獣化し、さらに進化したことで誕生した種族:レア度SS】


 【ステータス】


 名前:スケ次郎

 種族:ホームレスゴールデンスケルトン(大型)

 魔法属性:闇・無・聖

 習得魔法:シャドウ、シャドウフィールド、シャドウバインド

 習得スキル:剣王術(中級)、槍術(中級)、斧術(中級)、鎚術(中級)、弓術(中級)、牙強化(中級)、身体強化(上級)、衝撃吸収(中級)、硬質化(中級)、自己回復(中級)、統率力(中級)、魂喰

支配率:田中真一に100%支配されています 

進化:条件を満たしていません

 <必要条件:剣王術(特級)、硬質化(特級)、統率力(特級)、自己再生(初級)>



「これを渡しておく」


 スケ次郎へ飛龍の骨剣を手渡す。

 儂でも扱えないわけではないが、少々大きすぎるのだ。

 元々の所有者であったスケ次郎へ使わせるのが無難だろう。


「そうだ、スケ太郎にはこれをやる」


 儂は腰に付けていたミスリルの剣をスケ太郎へ渡す。

 実力ある者には相応の武器を与えるべきなのだ。

 それに今後の戦いを考えると、安物の武器で戦わせるのは不安だ。


「「カタカタ」」


 二体は片膝を突いて頭を垂れた。

 ステータスを見る限りでは、スケ太郎は知能にスケ次郎は力にそれぞれ秀でている。

 だとすれば、帝国との戦いではスケ太郎を指揮官にして、副指揮官をスケ次郎にするべきだろう。


 だが、準備はこれで終わりではない。

 儂にはこれから大仕事が待っているのだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る