四十六話 エステント帝国の野望
武器を抜かずそのままエステント兵に近づく。
奴らはすぐに儂に気がつくと、ニヤニヤと笑みを浮かべながら立ち上がった。
「お前達はエステント帝国の兵だと聞いた。どのような事情かは知らないが、ここはローガス王国の土地だ。すぐに出て行くことを要求する」
兵士達は儂の言葉に笑い始める。印象としては相当に侮られているようだ。
奴らの一人が返答する。
「それはできないな。なぜなら俺たちは、ローガス王国を降伏させるために来ているのだからな」
「たった五十人でか? さすがにヒューマンを舐めているだろう」
「もちろん舐めているとも。我らよりも下等なヒューマンの国を落とすなど、五十人のドラゴニュートで十分だ」
今度は儂が笑う。これはフリなどではなく、本当に笑っているのだ。
兵士の言葉は儂の笑いのツボを押さえたと言える。
「なにがおかしい! ドラゴニュートを愚弄しているのか!」
「あー腹が痛い。これだけ笑ったのは久々だ。ヒューマンに支配されていた種族が吐くセリフではないだろうに」
兵士達は顔を真っ赤にして怒り狂う。
儂としては、だからヒューマンに支配されていたのだと言いたい。
すぐに感情的になり、知性ではなく力を上位としているようでは知略に長けたヒューマンにいいように丸め込まれることだろう。
ドラゴニュートが今まで世界の覇者になれなかったのは当然の話だ。
ましてや最大の敵だったヒューマンを侮っている時点で、エステント帝国の程度がしれる。
「静まれ!」
兵士の中でひときわ目立つ男が場を静めた。
紫の長髪に容姿端麗。頭部からは羊のような立派な角が生えており、身にまとう深緑の鎧は兵士よりも騎士に近い物だった。
男は前に進み出ると、口元へ手を当てて一礼する。
どうやらエステント帝国式の挨拶のようだ。
「先に侮辱をしたのは我らだ。その点は謝ろう。しかし、我らは覇国という夢がある。そのためにはローガス王国には消えてもらわねばならない」
「なるほど……覇権を握る第一歩としてローガス王国を落とすつもりなのか」
「そういうことだ。そして、弱小国を落とすのは五十人のドラゴニュートで十分と判断した」
どうやらこの男もヒューマンを侮っているようだ。
ようやくまともな者が出てきたと喜んだのだが、エステント帝国ではヒューマンは下等種族という認識が定着しているらしい。
だが、それこそが最大の隙であり弱点だ。
「なるほど、ではエステント帝国を相手するのは儂一人で十分だと言っておこう」
「たかだかヒューマン一人で五十人を相手すると言うのか? ばかばかしい」
「やってみればわかることだ。もし、儂が勝てばこの国からは手を引いてもらうぞ」
「よかろう。ではその実力を見せてもらう」
兵士の一人が前に出る。
使う武器は剣のようだが、体は大きく身長は三メートル近い。
ドラゴニュートという言葉が存在しなければ、巨人族と呼ばれていたことだろう。
「それじゃあ遊んでやるよ」
兵士はそう言って笑みを浮かべる。
見るからに隙だらけで、とてもじゃないが儂に勝てるような実力者には見えない。
すぐに鑑定を使って調べる。
【鑑定結果:べべス:雑種のドラゴニュート。性格が悪く、仲間の財布から度々金を盗んでいる。賭け事が大好き:レア度E】
【ステータス】
名前:べべス
年齢:36歳
種族:ドラゴニュート
魔法属性:火
習得魔法:ファイヤーボール、ファイヤーアロー
習得スキル:剣術(中級)、盗術(上級)、硬質化(中級)、自己回復(上級)、小竜息(中級)
なかなかのステータスだ。
特に小竜息は要注意だろう。
「今更になって怖くなったかヒューマン?」
兵士は不用意に儂へ近づく。
もちろん奴の言うとおり恐怖心はある。人を殺すという恐怖。
この世界へ来てから多くの生き物を殺したが、人をこの手にかけるというのははじめてだ。
だが、やらねば殺される。
最速で肉薄すると、首へ剣を振るった。
あっけなく宙に頭部が舞い、どさりと地面に転がる。
「おもったよりも気持ちに乱れはないな……」
儂の心は清流のように穏やかだった。
やはりスキルの精神補正が効いているのだろう。スキルとは技術だけにあらず。ということか。
「なんだ今のは……見えなかったぞ……」
敵に驚きが広がったようだ。
今のはスキルを使用せずの最速の攻撃。儂からすれば、よけられて当然のものだった。
とするなら、身体能力だけですでに儂が上回っていると考えるべきだろう。
「おっと、スキルを拾っておくか」
向こうが戸惑っている間に、殺した敵のスキルをいただく。
が、それと一緒に別のものも取得していた。
【ステータス】
名前:田中真一
年齢:17歳(56歳)
種族:ホームレス(王種)
<ドラゴニュート>
職業:冒険者
魔法属性:無
習得魔法:なし
習得スキル:鑑定(特級)、活殺術(初級)、達人(初級)、盗術(上級)、隠密(特級)、糸生成(特級)、糸操作(上級)、糸爆弾(特級)、分裂(初級)、危険察知(上級)、索敵(中級)、味覚力強化(特級)、消化力強化(上級)、視力強化(特級)、聴力強化(特級)、嗅力強化(特級)、限界突破(初級)、超感覚(上級)、衝撃吸収(初級)、水中適応(中級)、飛行(中級)、硬質化(上級)、自己回復(上級)、植物操作(特級)、統率力(特級)、不屈の精神(中級)、小竜息(中級)、眷属化、スキル拾い、種族拾い、王の器
種族の下にドラゴニュートが表示されているのだ。
考えられる原因としてはスキル種族拾いだろう。無意識に使って種族を取得したようだ。
しかし、種族拾いの利点がいまいちよく分からないので、なんとも言えない感じだ。
「ただのヒューマンではなかったようだな! ならば、数で押し殺す!」
指揮官らしき男の指示で、四十八人の兵士が一斉に押し寄せる。
まとまって来てくれるなら、こちらとしても好都合だ。
スキル糸爆弾を空に向かって放つと、炸裂した白い球から大量の糸が敵に降り注ぐ。
べたべたとした粘着質の糸が兵士達に絡み付き、四十八人はもがきながら次々に地面に転ぶ。
「さて、お次は小竜息だ」
取得したばかりのスキルだが、試すには絶好の機会だ。
息を深く吸い込むと、敵に向けて一気にはき出す。
ごぉおおおおおおおっと、炎のブレスが吐き出された。
ドラゴンブレスと言うには規模が小さく、火炎放射に近い感じの攻撃。
それでも兵士達を炙るにはちょうど良い火力だった。
「ぎゃぁぁああああ!」
「あちぃいい! 助けてくれ!」
「どうしてヒューマンが小竜息を!? くそったれ!」
兵士達は皮膚にやけどを負いながらも、焼け切れた糸から次々に抜け出した。
かなりの火力だったので火傷だけではすまないはずなのだが、どうやら種族的な何かで炎には耐性があるようだ。
そう考えると、ドラゴニュートを取得した儂にも炎への耐性があるのかもしれない。
種族拾い、もしかすればすごいスキルなのかもしれないな。
「ぶっ殺してやる!」
兵士達は怒り狂い、儂へと突撃してくる。
先ほどの経験が生かされておらず、無謀にも真正面から攻めてきているのだ。
ならば、ここからは少し本気を見せた方が良いかもしれない。
剣の柄にある魔方陣を触ると、バチバチと放電する。準備は万端だ。
「ふっ!」
敵へ駆けると、スキル達人を使ってすれ違いざまに刃を走らせる。
脇腹、太もも、肩、胸。どこでも良い。剣が触れると、兵士達は全身を震わせて地面に倒れた。
「あぐぅううう……」
幾人ものうめき声が響き、四十八人はものの数秒で戦闘不能となった。
さすがは儂が作った魔法剣だ。良い性能をしている。
「私の兵が……」
指揮官は無様に尻餅をついていた。
儂は剣を抜いたまま声をかける。
「帰るがいい。この国には儂が居ることを忘れるな」
「……名をなんという?」
指揮官は質問する。その表情は苦虫を潰したような苦痛を感じさせる。
「田中真一だ」
「覚えておこう……私はカール・ドラグニルだ!」
カールは隙を突いて儂に小竜息を吐いた。
とっさに腕で炎を防ぐと、次の瞬間にはカールの姿は消え失せていた。
「しばらくは王国には来ないだろうな」
これだけこっぴどくやられると、さすがに帝国も王国を攻めることは容易ではなくなるだろう。
そうなると帝国は本格的な戦力を投入する事になる。
本気で潰しにかかると言うことだ。
その前に王国の守りを固める必要がある。
「仕方がない、手紙で公爵殿に相談をしてみるか」
儂は地面に転がった兵士達に、スキル活殺術の死のツボを押してゆく。
ツボを押された兵士達は声も上げることなく絶命していった。
強力すぎるスキルに使用者である儂もぞっとする。
ついでにスキル拾いで、めぼしいスキルを取得するとステータスは大きく変化した。
【ステータス】
名前:田中真一
年齢:17歳(56歳)
種族:ホームレス(王種)
<ドラゴニュート>
職業:冒険者
魔法属性:無
習得魔法:なし
習得スキル:鑑定(特級)、活殺術(初級)、達人(初級)、盗術(上級)、隠密(特級)、糸生成(特級)、糸操作(特級)、糸爆弾(特級)、分裂(初級)、危険察知(上級)、索敵(中級)、味覚力強化(特級)、消化力強化(上級)、視力強化(特級)、聴力強化(特級)、嗅力強化(特級)、限界突破(初級)、超感覚(上級)、衝撃吸収(初級)、水中適応(中級)、飛行(中級)、硬質化(上級)、自己回復(特級)、植物操作(特級)、統率力(特級)、不屈の精神(上級)、小竜息(上級)、眷属化、スキル拾い、種族拾い、王の器
まず、糸操作が特級に達したことだ。
ずいぶんと時間がかかった印象だが、ランクアップに必要な経験値のような物が膨大だったのではないかと推測する。
次に自己回復が特級になったこと。
これは特級を持っていた奴がいたので、スキル拾いで取得させてもらった。
同様に小竜息も上級を取得した。
あとは不屈の精神だろう。
精神的な負荷がかかったことで、スキルの精神補正の他に不屈の精神も発動していたようだ。
そうでなければさすがに動揺していたことだろう。
視界に文字が現れる。
【条件を満たしました。スキルを統合したのち進化させます】
【統合進化:糸生成+糸操作+糸爆弾=万能糸】
また新たなスキルがもたらされた。
糸を出すと予想通り、伸縮性のものが粘着性へと変化する。
どうやら糸を出した後でも好きな糸へ変えられるようだ。
しかも恐ろしいのは、まるで触手のように糸が自由自在に動き回ること。
切り離しても操作可能だったので、これからは離れた場所でも糸を使うことができそうだ。
ちなみに糸爆弾も以前と変わらず使うことができる。まさに万能だ。
「おーい! 田中殿!」
ペロを抱えたフレアが走ってくる。
「どうした?」
「まさかとは思うが全員は殺していないだろうな」
「ああ、それなら二人ほど残している」
フレアはほっとした様子だ。
生き残った者から情報を聞き出すつもりなのだろう。
儂とて馬鹿ではない。そのくらいの想像力は持ち合わせている。
すると、街の方から兵士がゾロゾロとやってきて、全員が儂に敬礼した。
「度重なる街への貢献感謝いたします! 先ほどの戦い、我らは感動いたしました! ドラゴニュートがあんなにも簡単に倒される光景は、伝説に聞く英雄の再来だと確信したほどです!」
兵士達は「英雄! 英雄!」と連呼する。
恥ずかしいのでやめてほしいが、純粋な好意は心地が良かった。
今の儂でも何かを守ることはできるのだと沸々と自信と喜びがわき上がる。
「おっと、今日は街で買い物をするつもりだったのだ」
後始末は兵士がしてくれるそうなので、儂らは街の中へ移動する。
街ではすでに戒厳令が解かれ、多くの人が外へと出ていた。
「お父さん、ギルドには行かないの?」
フレアに抱えられたペロが質問する。
そうだな、手紙も来ていたわけだから依頼を受けておいた方が良いのかもしれない。
「ペロ様は賢いですね。もうおしゃべりになられるのですか」
「うん、エルナお姉ちゃんに教えてもらったんだ」
フレアはペロが人語を放せることに違和感を感じている様子はない。
聖獣は言葉を話せるのは常識なのだろうか。
それにしても……むふふ。
儂は第三の目でフレアの体を眺める。
透視能力によって鎧は透かされ、赤いブラジャーやパンツが丸見えなのだ。
それにフレアの胸は、エルナと比べても劣らないほど形も良く大きい。絶景だ。
「田中殿?」
フレアが視線に気がつき、儂は慌てて第三の目を閉じる。
こんなところで
「ではギルドへ行くか」
儂らはひとまずギルドへ行くことにした。
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