第三章 赤髪騎士とホームレス
四十一話 またもや謎のスキルを手に入れた
「これはなかなか楽しいな」
垂らした釣り糸がぐいぐいと引っ張られる。
できるだけ竿を折らぬように振り上げると、水の中から一匹の魚が飛び出した。
「やったぁ! お父さん大物だよ!」
ペロはぴちぴちと跳ねる魚を見ながらうれしそうだ。儂はそれを見てうれしくなる。
釣り上げた魚は銀色の体色に大きさは四十㎝ほどで、日本で言うところの
儂自身、社長仲間と釣りをしていたこともあってフィッシングは嫌いではない。
というか、魚は好物なのだ。喜ぶべき環境である。
「ねぇ、そろそろ代わってよ。いったい何匹捌かないといけないの?」
エルナが不満顔で魚を手際よく捌く。
彼女は料理は苦手だがこういった作業は得意のようで、あっという間に三枚に下ろしてしまうのは見事な物だ。
すでに十匹目を釣り上げたのだからそろそろ終わりにしてもいいだろう。
「それじゃあ昼食にするか」
儂はリングから油と小麦粉に卵とパン粉を取り出す。
先ほど釣り上げた鯵らしき魚を開きにして、塩と胡椒で下味をつける。
お次に小麦粉につけてから卵に浸して、最後にパン粉をまぶすと油の中へ。
じゅわぁぁああと油が魚を黄金色に揚げると完成だ。
「美味しい! なにこれ!」
「鯵フライだ。鑑定でフライにした方が美味いと書いていたからそうした」
エルナとペロはむしゃむしゃとフライを食べる。
儂もフライをかじると、しっとりとした歯触りのいい身が口の中でとろけるようだった。
ふと、湖の中を覗くと、たくさんの魚が悠然と泳いでいる姿が見える。
実は進化してから見えない物が見えるようになった。
言うなれば透視能力のような物か。湖の中を見ることができるのも、その能力のおかげである。
エルナを見ると、服が透けて下着が丸見えだった。
ピンクの可愛らしい下着が儂の目を楽しませてくれる。むふふ。
「真一?」
エルナはジト目で儂を見ていた。おおっと、危ない危ない。
「な、何でもないぞ」
「怪しいわね。特に額にある目が」
「気のせいだろう」
儂はフライを再び食べ始めた。
ようやく手に入れた
【報告:新しいスキルが追加されました】
視界に文字が表示され、思わず首をかしげてしまう。
新しいスキル? まさかまたスキル拾いのような反則級ではないだろうな。
【ステータス】
名前:田中真一
年齢:17歳(56歳)
種族:ホームレス(王種)
職業:冒険者
魔法属性:無
習得魔法:なし
習得スキル:鑑定(特級)、活殺術(初級)、達人(初級)、隠密(特級)、糸生成(特級)、糸操作(上級)、糸爆弾(特級)、分裂(初級)、危険察知(上級)、味覚力強化(特級)、消化力強化(上級)、視力強化(上級)、聴力強化(特級)、嗅力強化(特級)、限界突破(初級)、超感覚(上級)、衝撃吸収(初級)、水中適応(中級)、硬質化(上級)、自己回復(中級)、植物操作(特級)、統率力(特級)、不屈の精神(中級)、眷属化、スキル拾い、種族拾い、王の器
……眷属化? 種族拾い?
また謎のスキルが出現したようだ。
眷属化とは文字から察するに仲間を増やすと言うことだろう。どうやって増やすかは不明だがな。
問題は種族拾いだ。
スキル拾いを思い出せば、死体から種族を拾うことだとはなんとなく分かるが、種族を拾うことにいったい何の意味があるのか全く理解できない。
儂はエルナに相談することにした。
「眷属化と種族拾いというスキルを手に入れたが、何なのか分かるか?」
「眷属化は魔物が持っているスキルだからなんとなく分かるけど、種族拾いは聞いたことはないわね」
「やはりそうか」
おそらくスキル拾いも種族拾いも、儂にだけ発現した特殊スキルだと考えた方がいいだろう。
ホームレスという種族自体がまだまだ謎が多い。
ひとまず食事を終えて儂らは出発することにした。
歩き出した道は地平線へ続き、建物のような影が見えていた。
この先に下へと続く階段があるのだろう。
「ねぇ真一、ここの魚を市場で売れば儲かるんじゃないかしら」
そう言ってエルナが水の中をのぞき込む。
儂はその言葉を受けて少し考えた。
「それは名案かもな。マーナの近くには川も海もないから、魚が獲れれば町の人も喜ぶかもしれない」
「うんうん、たくさん儲けて私の服をたくさん買おう」
「いや、服は買わないからな」
「えー! ひどいよ!」
油断も隙もない。エルナは金さえあれば、いくらでも服を買おうとするからな。
まったく親の顔が見てみたい物だ。
「お父さん!」
ペロの声に進行方向を見ると、モヘドトンボが道の上で止まっていた。
儂はチャンスだとばかりに糸を射出する。
「やった! 捕まえたぞ!」
モヘドトンボの体に糸が絡みつき、飛び立とうとしても儂の力で引っ張られる。
地面へ降りてきたところで、すかさずペロが強烈なパンチを頭部に食らわせた。
「仕留めたよ!」
「よーし、よくやったペロ」
トンボは道の上でぴくぴくと動いていた。
頭部はペロの攻撃によってどこかへと飛んでいったが、用があるのはスキルや羽なのでどうでもいい。
儂はすぐにスキル拾いですべてのスキルを取得する。
【ステータス】
名前:田中真一
年齢:17歳(56歳)
種族:ホームレス(王種)
職業:冒険者
魔法属性:無
習得魔法:なし
習得スキル:鑑定(特級)、活殺術(初級)、達人(初級)、隠密(特級)、糸生成(特級)、糸操作(上級)、糸爆弾(特級)、分裂(初級)、危険察知(上級)、索敵(中級)、味覚力強化(特級)、消化力強化(上級)、視力強化(特級)、聴力強化(特級)、嗅力強化(特級)、限界突破(初級)、超感覚(上級)、衝撃吸収(初級)、水中適応(中級)、飛行(中級)、硬質化(上級)、自己回復(中級)、植物操作(特級)、統率力(特級)、不屈の精神(中級)、眷属化、スキル拾い、種族拾い、王の器
儂は喜びで飛び跳ねた。
とうとうスキル飛行を手に入れたのだ。これでもはや怖い物はない。
誰もが一度は考えるはずだ、空を飛んでみたいと。儂はその夢を手に入れた。
さぁ、大空へ羽ばたこう!
スキル飛行を発動させると、ふわりと体が浮き上がる。
「真一の体が浮いてる!?」
「お父さん空を飛べるの?」
二人は驚いているようだが、儂は想像と違ったので少々落ち込んでいる。
どうやらスキル飛行は、羽がないとそれほど速度は出ないようだ。
パー○ンやア○ムのようにはいかないらしい。
それでも飛行できるというのは大きなメリットがあるのだがな。
儂は地面に降りると、トンボの死体をリングに入れた。
羽はいい素材だと鑑定であったので、ここで逃すことはできない。
それから儂らは道を歩きながら、カエルやトンボと幾度も戦った。
四時間ほどかかりようやく最終地点へとたどり着く。
「疲れたー! もう帰りたい!」
「そう言うな、まだ二十二階だぞ」
道の終点である建物を目前にして、エルナはへばっていた。
とは言っても、ここまでにかなりの数の魔獣と戦ったのだから、エルナの精神疲労は軽くはない。
階段を降りる前に一休みしておいた方がいいだろう。
たどり着いた建物は、箱のような形状をしていた。
それでいてコンクリートで造ったかのようにつなぎ目もなく、窓らしき物も見えない。
建物としては異質な感じだ。
「とりあえず入ってみるか……」
ドアがないので、そのまま入り口から内部へ踏みいると、ひんやりとした空気が奥から吹いていることに気がつく。妙に嗅ぎ覚えのある匂いも感じた。
「中は真っ暗ね。すぐに明かりをつけるわ」
エルナが魔法で明かりを創る。
光によって無機質な床や壁が照らされた。何もない部屋だ。
床には燃えかすと思われる炭が落ちていることから、かつてここへ来た者がたき火をしたのだろう。
部屋の中央には下へと続く階段があり、風はそこから吹いているようだ。
「お父さん、上に行けるみたいだよ?」
ペロが指さした部屋の隅には上へと続く階段が設置されていた。
建物の大きさからして二階があるとは思っていたので、ここで一休みをするには最適ではないだろうか。
「それじゃあここで休憩をするか」
「えー、野営をしましょうよ。もう疲れたわ」
エルナは床に大の字になって倒れる。
む、そうか。確かに体内時計ではすでに夕方の時間だ。
そろそろきちんと休んでおかないと、次の階層で失敗をするかもしれない。
何事も焦りは禁物だ。
ひとまず二階へ上がってみると、大きなテーブルが置かれた簡素な部屋があった。
テーブルの上には魚の鱗が数枚残っており、誰かがここで魚を捌いたことが分かった。
「ここはムーアが利用していたのかもしれないな」
「じゃあ大魔道士が魚を獲ってたってこと?」
「それは十分にあり得る。書き残された地図では、二十二階層も詳細に書かれているからな。度々ここへ来ては、魚を獲っていたとしても不思議じゃない」
地図を開くと、確かにこの場所への記載がされている。
ムーアの文字で”魚の加工場”と書かれているのだから疑いようがないのだ。
「それじゃあ儂らもここで魚を調理するか」
「お父さん、僕がたくさん釣るね!」
ペロは釣り竿を持って外へと飛び出した。
しかし、エルナが作った釣り竿は脆い。できればもっと強い竿を用意したいところだ。
なぜなら、この湖では信じられないほどの大物が泳いでいるからだ。
是非、あれらを釣り上げて食べてみたい。
「エルナはペロを手伝ってくれ」
「真一は何をするの?」
「儂は竿を探しに行ってくる」
エルナは首をかしげた。
分からなくて当然だ。あの香りは慣れ親しんだ日本人にしか理解できない。
儂は一人で下へ続く階段を降りると、二十三階層の景色に満足した。
一面が黄緑色に染められ、ざぁざぁと風に揺れて葉がこすれ合う。
しなやかな幹は発光する天井まで届こうかと言うほど延びていた。
そう、竹である。
儂が嗅いだ匂いとは竹の香り。
匂いから直感で、二十三階層には竹が生えていると分かっていた。
「釣り竿を作るには最適だ」
適当な竹を切ると、先に糸をくくりつけて釣り竿の完成だ。
そのほかにも地面にはタケノコが生えており、リングからクワを取り出すとタケノコを掘り出して笑みを浮かべた。
「米があれば炊き込みご飯が作れるが、今はあきらめるしかないな」
収穫したタケノコをリングに入れると、二十二階層へと戻ることにする。
「また釣れた!」
「ペロ君上手ね! もう三匹目よ!」
建物から外へ出ると、すでにペロが三匹の魚を釣り上げていた。
さすが我が息子だ。フィッシングの腕前は悪くないようだ。
「さぁ大物を釣り上げるぞ!」
適当な肉の切れ端を針に刺して、大きな竹の竿で釣りを開始する。
三秒ほどで、強い引きを感じた。
「これは大きいぞ!」
儂の目には針に食らいついている大魚が映る。目測で一m以上はあるだろう。
しかし、進化した身体能力にかかればたいした敵ではない。
一気に竿を振り上げると、水中から大魚が姿を現し地面へたたきつけられた。
「お父さんすごいよ!」
「真一、やるじゃない!」
二人とも釣り上げられた魚に驚いている。
儂としては見えている魚を釣り上げるだけの簡単な作業だがな。
魚は体長約二mほどで、銀色の鱗がまぶしく輝いている。
口はくちばしのようにとんがっており、どことなく鮭に似ているような気がする。
すぐにナイフで血抜きをした後に捌き始めると、オレンジ色の身が儂の目に飛び込む。
どうやら本当に鮭に近い魚のようだ。
さっそく建物の二階へ移動すると、調理道具を出して料理を始める。
じゅうじゅうと焼かれるサーモンの切り身を見ながら興奮が抑えきれない。
「できたぞ! さぁ食べるぞ!」
サーモンのムニエルを木器へ乗せると、一階へ移動して食べ始める。
口の中にサーモンの独特の旨味が広がってなんともいえない幸福感が訪れた。
「もしかして真一ってこの魚が好きなの?」
エルナが興奮する儂を見ながら苦笑いしている。
まぁ涎を垂らしながら調理していたからな、そう思われても仕方がない。
「うむ、儂はサーモンが大好物なのだ。まさかこんなところにサーモンがいるとは思っていなかったがな」
「へぇ、真一の好物ってこの魚なんだぁ」
エルナは笑みを浮かべてサーモンを食べる。
ペロも話を聞いていたのか、改めて魚の切り身を見つめていた。
よく考えれば儂の事を二人は何も知らないのだ。
もう少し色々と話した方がいいのかもしれない。
こうして儂らは野営を行い、次の日を迎えた。
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