三十七話 スキルが変化した!
【条件を満たしました。スキルを統合したのち進化させます】
視界に表示された言葉に戸惑う。
統合ということは何種類かのスキルが一つになると言う事だろう。
エルナが以前に言っていたが、スキルは条件を満たすと変化するらしい。だが、ただの統合ならいいが別物になってしまうと非常に困る。
なので今回はNOを選ぼうと思ったのだが、そもそも選択肢すら出ていないことにやっと気が付いた。
【統合進化:剣術+斧術+槍術+鎚術+弓術=達人】
【統合進化:ツボ押し+体術A+体術B=活殺術】
完成したスキルは“達人”と“活殺術”だった。
恐らく統合されたスキルを内包していると思われるが、進化と呼んでいいのかはまだ分からない。
ひとまずステータスを見ることにする。
【ステータス】
名前:田中真一
年齢:17歳(56歳)
種族:ホームレス(変異種)
職業:冒険者
魔法属性:無
習得魔法:なし
習得スキル:鑑定(特級)、活殺術(初級)、達人(初級)、隠密(特級)、糸生成(特級)、糸操作(上級)、糸爆弾(特級)、分裂(初級)、危険察知(上級)、消化力強化(中級)、視力強化(上級)、聴力強化(特級)、腕力強化(中級)、脚力強化(上級)、身体強化(特級)、超感覚(中級)、衝撃吸収(初級)、硬質化(上級)、自己回復(中級)、植物操作(上級)、統率力(特級)、スキル拾い、王の器
新しく追加された二つのスキルには、どちらも階級が表示されている。
とするならここからさらに強くなれると言うことなのだろう。
「1UPをもう一回取るか……」
あの空飛ぶウサギさえ居れば、何度でもスキルは上昇するのだ。
すぐにでも達人と活殺術をランクアップさせたい。
「さっきから変だよ? どうしたの?」
エルナが顔を覗き込む。ペロも心配しているようだ。
ここは説明をしておいた方がいいだろう。
「フライラビットのスキルを取得すると、スキルのランクが上がったのだ。そこからスキルが統合され進化した」
「ちょっとまって! スキルを拾うとランクアップってどういうことなの!?」
予想通りランクアップに食いついた。
儂は先ほどの出来事を事細かに説明する。
「――羨ましい! 私もスキルアップして進化させたい!」
「そ、そうはいってもスキル拾いがないとな……」
エルナは悔しそうな表情だ。
傍にいるペロは話の内容が良くわからないのか首をかしげている。
「もう一度フライラビットを狩ろうと思っている」
「残念ね。フライラビットは仲間がやられると、遠くへ逃げ出すわ。この辺りにはしばらくは戻ってこないわよ」
周りを見ると、沢山居た筈のウサギ達は姿を消していた。
幸運は何度も続かないと言う事だろう。
1UPは諦めることにする。
「隠れ家に戻るか」
儂らは転移の神殿から箱庭へと帰還した。
◇
「だいぶ大きくなったな」
畑で丸々と大きくなったモノを叩く。
それは濃緑に黒い縦じまが特徴的な野菜だ。フルーツと言っていいかもしれない。
中は赤く水気が多い夏の風物詩として有名なアレだ。
そう、スイカである。
儂は二つ目の畑を作っていた訳だが、なにを植えるか悩んでいた。
そこで見つけたのがスイカと言う訳だ。
スイカを見つけた場所は王都の市場だった。
王都でもスイカは親しまれているらしく、出来のいいスイカは貴族が購入してゆくほど身近な存在だ。
まぁ儂はスイカスイカと言っているが、この世界ではスイークと呼ばれている。
地球の物とはどこが違うかというと、種が非常に大きいことだろう。
ビー玉サイズなので、食べる時には見つけやすい。
他にも野菜やフルーツの種を市場で買ったが、どれを植えるか悩んでいる最中だ。
「さて、そろそろ冷えた頃だろうな」
儂は箱庭の中にある小川へ足を運ぶ。
そこでは一個のスイカが水によって冷やされていた。
他にもいくつかの野菜が水に浸され、光を反射するほどの新鮮さを感じた。
「真一! 草抜きが終わったよ!」
エルナとペロが小川へやって来る。
そろそろ小腹が減った頃だろう。儂は小川から野菜やスイカを引き上げて二人に渡した。
「うーん! 美味しい!」
ばりっとキュウリに似た野菜を齧る。
よほど美味しいのかエルナの耳はピクピクと動いていた。
「おとうさんのつくったやさいおいしい」
ペロもトマトに似た野菜をかじりながら満足気だ。
のんびりとしたこの時間が今の儂には幸せだ。
自分が育てた野菜を食べて生きて行ける。贅沢のようにすら感じる。
「ねぇ、早くそのスイークを食べてみましょ!」
「ん? そうだな、切ってみるか」
スイカにナイフを入れると、半分になった中から真っ赤な色が目に飛び込む。
すぐに切り分けて二人へ渡すと、エルナとペロはスイカに噛り付いた。
「美味しい! しゃくしゃくしてて美味しいよ!」
「なんだ、スイークを食べたことないのか?」
「そりゃあそうよ。スイークは故郷では作ってないし、作れるのも王都の辺りだけなんだよ?」
スイカはローガス王国の特産品なのか。知らなかった。
地球ではどこでも作られるようなものだが、この世界のスイカはやはり特殊なのだろうな。
だが、儂はこのスイカに満足できなかった。
確かに美味しいのだが、日本の物と比べると甘みが劣っている。
もっと甘いスイカを食べたいのだ。
そこで一つのスキルが脳裏によぎる。直感と言えばいいだろうか。
もしかしたらと思い、スイカ畑へ駆け出した。
「これが成功すれば、儂の農作は新たな境地へ至る筈だ」
儂はスキル植物操作(上級)を持っている。
操作と言えば単純に操ることを考えるが、どこまで操れるかは不明だ。
もし、植物の質を操れるのだとすれば、スキルというものを見直す必要が出て来る。
スイカ畑に到着すると、すぐに実っているスイカに手を当てる。
願うはスイカの甘みを増大させること。
【植物操作:大きさ2・甘味2・成長速度3】
目の前にウィンドウが開いたのだ。
予想通りだった。儂の勘は正しかったのだ。
思わず小躍りしてしまう。
「では、甘味を5にしてみるか」
ウィンドウを操作すると、スイカの表面の色が一際濃くなった気がした。
心なしか甘い匂いも感じる。
すぐにスイカを収穫すると、抱えて小川へ戻る。
「またスイークを取ってきたの? もうお腹がいっぱいよ」
「まぁそう言うな。食べてみれば分かる」
収穫したスイカにナイフを入れると、先ほどとは違い甘い匂いが漂う。
中は紅色に近いほど鮮やかで瑞々しく果汁が滴った。
儂は迷うことなくスイカを食べる。
凝縮された甘味が舌の上で広がった。
美味いとしか言葉が見つからないほど無我夢中で食べる。これほどの物は日本でも食べたことがない。
「ちょ、ちょっと、私にも食べさせてよ!」
「ぼくもたべたい」
二人は切り分けたスイカを勝手に食べ始めた。
それからは無言が続く。しゃべることが面倒なほどに美味いのだ。
ようやく食べ終えると、儂は寝転がって溜息を吐いた。
「満足だ……」
二人も食べ終えて横になっている。
「もうお腹いっぱいだよ……」
「うごけない……」
しかし、これで儂の農作はさらに発展することだろう。
欲を言えば植物を魔改造してみたい気もするが、さすがにそんなスキルは存在しないだろう。
あったらいいなという儂の希望だ。
ふとステータスを開くと、植物操作が上級から特級へと変っていた。
何が変わるのかは分からないが、ランクアップはありがたい。
それにしてもたった一回スキルを使ったくらいで階級が上がるとは不自然だ。
「以前の持ち主の練度も引き継いでいるのか?」
スキルは使わなければ強化されない。
初級から中級までは比較的早く上がるが、中級から上級になると長くかかる。
上級から特級にもなればさらに時間を要する訳だ。
以前から儂の成長度合いは異常なほど早かったわけだが、今回はさらに異常のように思えた。
思い当たることとして、一つは以前の持ち主の練度が引き継がれている事。
もう一つはセイントウォーター以外の別の要因にて、今まで以上に成長が加速していることだ。
二つ目に関しては要因が特定できないので確証は薄い。
となると練度を引き継いでいるという仮説が有力になる。
「しょうがない、面倒だが確かめてみるか」
儂はのそりと起き上がると、二人を置いて二つ目の箱庭へ移動する。
◇
「スイカもいいが、やっぱりミカンも美味い」
儂はバームの樹へやって来ていた。
目的は超感覚のランクアップだ。
バームの果実を食べて、どれくらいで階級が上がるか調べてみる。
「これで四個目か……」
ステータスを確認しながら、バームをむしゃむしゃと咀嚼する。
そして、変化が現れた。
【ステータス】
名前:田中真一
年齢:17歳(56歳)
種族:ホームレス(変異種)
職業:冒険者
魔法属性:無
習得魔法:なし
習得スキル:鑑定(特級)、活殺術(初級)、達人(初級)、隠密(特級)、糸生成(特級)、糸操作(上級)、糸爆弾(特級)、分裂(初級)、危険察知(上級)、消化力強化(中級)、視力強化(上級)、聴力強化(特級)、腕力強化(中級)、脚力強化(上級)、身体強化(特級)、超感覚(上級)、衝撃吸収(初級)、硬質化(上級)、自己回復(中級)、植物操作(特級)、統率力(特級)、スキル拾い、王の器
とうとう超感覚が上級になったのだ。
使ってみると、感覚の広がりが凄まじい。
一番目の箱庭に居るエルナやペロの心臓の鼓動までもが聞こえる。
あくまで予想だが、初級のおそよ二倍の性能だろう。
「もうエルナの地獄耳も必要ないかもな」
そう呟くと、エルナの声が耳に届く。
「どこかで真一が悪口を言っている……私の地獄耳を舐めているわね……」
思わずギョッとした。
隣の箱庭で呟いたことがエルナの耳に届くとは思っていなかった。
もしかすると、地獄耳というのはただ耳が良くなるだけではないのかもしれない。
今後は変な事を言わないように気を付けよう……。
「これで練度が引き継がれるという仮説は消えたと言う事か」
超感覚は儂が地道に取得したスキルだ。
スキル拾いでモンスターから取得したわけではない。
だとすると、別の要因で儂の成長速度が上がっているという仮説が有力になる。
「別の要因……」
王都に行く前と、帰って来てから何か違いはあっただろうか?
色々と新しいスキルは取得したが、これと言っておかしなものは……。
「まさか王の器か?」
あったのだ。使い道が分からないスキルが。
ブルキングから取得して放置していたが、もし王の器が成長を促進しているのなら異常なランクアップも納得が出来る。名前通り王に相応しい者へ成長させるスキルという事か。
「ならば、いずれは王になるのかもしれないな」
笑いながら呟く。
馬鹿馬鹿しい話だ。儂が王などあるはずがない。
ひとまず二人の元へ戻ることにした。
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