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「神子様も男性ですからね。とても健全で良いことだと思います」


「……まあ、そういう捉え方もあるよね、うん」


「もし良ければ、紹介しますよ? 今後、その方に神子様の補佐を代わって頂くことも可能です。むしろ喜んで引き受けてくれるかと」


「そ、そういうもんなの!?」


「当然です。神子様の子を宿すことは、私たち預言官にとって名誉ですから。アテナ様から聞いていませんか? 出来れば子供はたくさん作ってほしい、と」


「聞いてない……」


 話が跳躍しすぎてる。もしあの場で言われても、今と同じ反応しか返せなかったろう。


 シビュラの方は、やっぱり小首を傾げていた。きっと子供の頃から、神子という地位を徹底的に叩き込まれているんだろう。一種の洗脳じゃないかと疑いたくなるが、異世界人が地球を見れば同じように思う筈だ。


 とどのつまりは文化の違い。こっちで活動していくなら、少しでも早く馴染んだ方がいい。


「現在、神子の数は減り続けていますので。オリジナルに近い刻印を持っている神子様は、とても貴重な存在なんです。種馬的な」


「もう迷うことなく言ってきたね」


「隠してどうするのですか? で、神子様、気になる方はいます? 私、全力でお手伝いしますよ!」


「……」


 貴女です。

 なんて口を開けて言えるほど、豪胆にはなれない。適当に答えて、お茶を濁すのだけで精一杯だ。


 使命感があるようで、返答を聞いたシビュラはがっくりと肩を落としている。周囲にいる女性預言官たちも、非難がましい視線を向けてきた。なんで。


「――つまり、私にもチャンスがあるってことですね」


 よし、とまったく隠れていないガッツポーズを作るシビュラ。予期せぬ展開に俺の混乱は深まっていくばかり。


 いやまあ、どんな形でも好意であれば嬉しいものだ。彼女は個人的に好みの女性だし、せまってきたら断ることなんて出来ないだろう。……冷静なうちは、常識ぶって止めるかもしれないけど。


「ふふ、神子様? きっと、貴方好みの女性を紹介しますからね」


 小悪魔みたいな笑顔は、やっぱり効果抜群だ。

 顔が熱くなるのを自覚しながら、鼻歌混じりに進むシビュラを追い掛ける。俺の部屋らしき場所はまだ見えず、神殿の広さを実感するばかりだった。


「これから、ここで暮らすのか……」


「はい。私を含め、数名の預言官も一緒です。朝から夜まで、しっかり神子様の面倒を見させていただきますね」


「一つ屋根の下ってこと?」


「もちろんです。あ、部屋も一緒にしましょうか? その方が私も、神子様のお世話が出来て嬉しいですし。いえ、むしろ同じ部屋にするべきですっ! 宜しいですね!?」


「は、はいっ」


 さっきの独り言通り、シビュラは積極的な提案を重ねてくる。

 俺が頷いたのを確認した途端、彼女は両手を使って喜んでいた。……頷いて良かったのか? 会ってから一時間も経ってないのに、攻略進みすぎだろう。


 しかしそんな心配を余所に、小躍りしながらシビュラは道案内を続けていく。


 異世界召喚は初日から大変なことになりそうだ。未来が明るい点については、本心から喜んだっていいんだろうけど。


 ていうか、いつまでこの世界で活動すればいいんだ? 骨が埋まるまで? 故郷への未練についてはアテナのお陰で希薄だけど、やっぱり抵抗感は残ってしまう。


 でもまあ。

 可愛い女の子と寝食を共にするのは、抗い難い魅力があった。


「神子様のお部屋、こちらになります」


 居間から歩くこと数分。シビュラは扉を開けて、中に入るよう身振りで示す。

 誘われるままに部屋を見れば、案外と普通の光景が待っていた。ベッドがあって本棚があって、机がある。東の窓から差し込んでいる陽光が眩しい。


 壁には学校の制服らしき物が一着。薄い紫色の、少し派手目な制服だった。

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