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「手続きはもう済ませてるし、さっそく学園に行ってもらおうかな。加護の使い方は専門家の説明を受けながらの方がいいだろうし、他の神子達や預言官とも――」
「アテナ様、お呼びですか?」
噂をすれば何とやら。その専門家か、神子か、預言官か。
どんな雰囲気の子だろう。ちょうど死角になっている部屋の入口に、俺は身体ごと視線を向ける。
「……」
清楚。その二文字を具現化させた、アテナに劣らない美少女がいた。
純白の法衣を着ているお陰で、第一印象は余計に強くなる。眼差しはこれ以上なく穏やかで、包容力のありそうな少女だった。こう言っちゃなんだがアテナよりも女神らしい。
彼女は俺の方を一瞥すると、微笑みを浮かべながら一礼する。
もしかして気があるんじゃないかと思わせる、男殺しの笑顔だった。
「彼、この前に説明したゼウスの神子な。このまま学園に連れて行ってやってくれ。加護の使い方とかも、きちんとした場所で教えた方がいいだろうしな」
「かしこまりました。……アテナ様はこれから、迷宮の方に?」
「その予定だ、少しぐらいは自分で見ておきたいからな。――ではユキテル、また後で。夕食までには帰ってくるから」
「は、はあ」
気のない返事になったけど、彼女は咎めることもなく廊下へと出ていく。清楚な美少女さんは、その場で女神を見送っていた。
「――」
居間にやってくるしばしの静寂。とはいえ俺の方は、また冷静さを失っていた。法衣を着た彼女の後姿に、時間を忘れて魅入るぐらいに。
「では神子様、自己紹介させていただきますね。私はシビュラ、このオンファロス神殿で預言官を務めています。今年で十七になりますから、神子様とは同い年ですね」
「あ、どうも。ユキテルです」
「ふふ、存じております。神殿の長となるため、遠く東の果てからやってきたと」
「……」
あの女神、そんな説明してたのか。またありがちな設定をぶち込んできたものだ。
否定したところで面倒な予感しかしないので、シビュラには頷きを返しておく。と、彼女はまた極上の笑みで答えてくれた。お金とれるんじゃないか? もう。
「まずは神子様の部屋に向かいましょう。学園へ通う上での必需品など、用意がしてあります。あ、私に敬語は不要ですので」
「分かりまし――分かったよ」
シビュラを先頭に、神殿の中を歩いていく。
途中ですれ違ったのは、彼女と同じ格好をした女性達だった。二十代や三十代ぐらいの人がいれば、十代の少女もいる。預言官なんだろうか?
あと、皆さんお綺麗です。シビュラのような美少女が近くにいるのに、つい視線で追ってしまう。
「? 神子様、気になる方でもおられるんですか?」
「へ? いや、美人さんばっかりだからさ、気になっちゃって」
少し浮かれているのか、ついつい本音を口にしていた。
お陰で直ぐに後悔する。知り合って間もない少女に対して、配慮の欠けてしまった態度だ。女性にはもっと紳士的に接しないと。
出来る限りの誠意を込めて、俺は発言を慌てて修正しようとする。――が、シビュラは成程と頷いていた。
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