第73話 揺らいで…

 お金があれば幸せか…。

 お金だけじゃ幸せにはなれない…それは僕もそうだと思う。

 だけど、お金が無いより悩みは少ないはずだ。


 僕の両親は貧乏だ。

 サラリーマンとしての途を踏み外した僕も、低所得者と成り下がった。

 今は、給料だけでは食べていけない。

 貯金を切り崩しながら生活をしている。

 僕の所得をしらない両親は今日も10万貸してくれと出勤前に言ってきた…。

 僕は会社を休んだ。


「どうすればいいのだろう…」

 雪の降りしきる冬の海を車中から眺めている。

 深緑の日本海、飛び込めば楽になれるだろうか…。

 死にたい…正確には生きていたくないなのだろう。

 死ぬ理由はいくらでもあるのに、生きる理由が見つからない。


 なんで生きているんだろう…なぜ死ぬことが許されないのだろう…。

 哲学・宗教、精神論の極致は『死』に至る。

『死』を選ぶということは、きっと辿るべき途をショートカットするということだと思う。

 万人が『生』を全うすることはできない。

 でも、『死』は誰にでも選べる。


 つまり『生』は苦しいということだ…。


 なぜ生きるのか?

 誰かのためだ…家族、恋人、友人、自分が死んだら悲しむ人がいる…。

 嘘だ。

 これがカードゲームなら、僕は「Doubtダウト」を突きつける。

 自分が消えて喜ぶ人間がいるからだ、だから私は生きている…このほうが人間らしい。


 貧乏人は心が綺麗だ。

 僕の友人はそんなことを言う。

 彼は、現実を嘆かない…貧乏を清いものだと勘違いしている…いや境遇を変えることを諦めているから、自分を肯定したがるのだ。

 僕が彼に会うのは、彼のようにならないため…。

 自分が底辺だと忘れないため…。

 虫唾が走る様な時間を耐える…そして憎悪を忘れないために笑う…笑う…。


 10万を出せないわけじゃない…。

 出す理由が解らない…。

 所得に見合った生活をしていないからなのか…癌で入院中の叔父のためか…理由は絶対に言わない…。

 軽く痴呆が始まりながらも、借金を増やすだけのバイク屋を営む父。

 サラリーマンを馬鹿にし続け…サラリーマン並にも稼げない…。

 父は友人に似ている…。

 自分が正しいと言い聞かせ続け家族を巻き込んで貧乏になる。

 クズだ…。


 母親は、若くして実の母親を失った、実の父親も再婚後、すぐに他界。

 義理の母に育てられた。

 長女という立場からか、弟達に金を無心されると断らない…。

 見栄だ。

 僕の口座から数百万の金を勝手に出し入れして、叔父の会社の補てんに当てていた。

 そうしなければ、従業員が生活できない…だから息子の金をばら撒く…。

 カスだ…。


 両親が早くに他界してくれれば…母の親族と付き合いが無くなれば…僕は普通に生活できていたのに…。

 失職も、母の妹のせいだ…。


 こんな両親でなければ…僕は大学にも入れた…高卒の底辺。


 死ぬ理由なら今日もある…。

 もし…生きる理由があるのだとしたら…こんな底辺で這いつくばる僕に微笑む彼女だけなのかもしれない…。

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