第66話 独りを感じる

 翌日、メガネを買いに行く。

 ショッピングセンターは混雑しており、駐車場は満車。

 店内も、初売りで、どこも混雑している。


 人ごみを独りで歩いていると、改めて自分が一人なのだと思いしる。

 恋人・家族で歩く人達…腕を組んだり、服を選んだり、幸せなのだろうと思う。

 一人で歩いているのは、僕だけじゃないだろうか…。

 メガネが出来るまで1時間ほど、店内を1周するには十分な時間。

 服を見ながら、時間を潰す。

 彼女に服を選んでもらっている男性が多い、羨ましいと思う。

 結局、趣味にあうものがなく、何も買わなかった。

 少し遅い、昼飯を食べたいのだが…一人で入れる店は限られているようだ。

 ラーメン屋に入ると、「おひとり様ですか?」

 声を掛けられる…独りなの?と確認されているようで、居心地が悪い。

 店内の視線が僕に集まっているような感じがする。

 カウンターで、ラーメンを食べていると空しくなる。

 慣れているはずだろ?

 なぜ…今日に限って…こんなにも寂しくなるのだろう…。


 人ごみで銃を乱射する海外の映像…あれをやる気持ちが解る。

 自分と、他人との差を埋めるには、『0』にするしかないのだ。

 自分がソコに上がれないから…他人を自分の位置に引きずり下ろすしかないのだ…。

 そう…今の僕も、キッカケがあれば…ソレができそうな気分。

「誰だっていい…目に映る全てが対象でも…構わない」

 そんな気持ちを抱えて、ただ人ごみに紛れる。


 メガネを受け取り、なんの予定も無いことに嫌気が差す…。

 誰かに連絡をしてみようか…いや、やめよう…。

 別の店で服を買い、本屋に立ち寄り、別の店で香水を買う。

 香水は何でも良かった…。

 見た目で2本買った。


 家に帰って、服をハンガーに掛け、香水の箱を空ける。

 香水の箱を空ける瞬間が好きだ。

 ブランドの香水は、箱にもこだわりがあって好きだ。

 香りは…まだ嗅いでいない…ガラステーブルに並べる。


 家路の途中で、彼女に自撮りの写メを送る。

「似合うよ…悪人顔」

 彼女の感想である。


 悪人顔…悪いのは顔じゃない…きっと心。

 歪んでいるのは顔の輪郭じゃない…心の枠。


 メガネのフレームのように、簡単に矯正できれば、どんなにいいだろう。

 孤独は、一人にならないと解らない…嘘だ…。

 孤独は…2人になって初めて知るものだ。


 一人と独りでは意味が違う…。


 僕の心は、独りを知っている…。


 香水や服を買わなければ、彼女に逢える。

 僕は…何を求めているのだろう…。


 やはり…僕のいる場所は、少しズレている…。

 彼女を求めるには…僕は、どこに手を伸ばせばいいのだろう…どこに向かって足を進めればいいのだろう…。


「思い出だね」

 そう…コレは思い出…彼女にとっての…。


 そう…いつか思い出す…想い。

 そのとき…アナタは何処にいますか?

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