第65話 メガネを選ぶ
彼女に何かを選んでもらえる。
怖くもあり…嬉しくもある。
そんなに種類もないので、選ぶのも早い。
コレ、コレ、と手渡してくる。
そして、じっと僕を見て、違う、違うを連呼する。
そもそも…メガネが似合わないのだ、と自分では思っている。
ふと、彼女を見ると自分のメガネを選んでいる。
飽きたか…。
メガネを掛けては、僕の方を見る。
(美人だ…)
可愛いというより、美人だと思う。
ちょっとドキッとしてしまう。
「コレがいいよ! 色はね~こっちは青が強いから…こっちがいいかな…コレが似合う」
自分では本当によく解らない…。
ひとつ解ったことがある。
自分で、アレコレと選んでいると、レンズの色が濃くなり…フレームが大きくなっていく…。
そう…顔を隠す面積が大きくなっていくということだ…。
イケメンとは言わない…せめて人を不快にさせない容姿に産まれたかった…改めて、そう思う。
少し離れて彼女と歩く、いつぞやのように掲示板に書かれるのを嫌がっているだろうと思って、あまり近づかないように気を使った。
彼女の出勤時間ギリギリまで、近くの公園に車を停めて話す。
今日のどんぶりは不味かったとか…ストーカー困ったとか…。
ストーカーに付きまとわれているせいか、やたらと周囲を気にする彼女。
「後ろの車…付いてきてる?」
「なんであの車、ライト付けたままなの?こっち見てない?」
客として、まだ指名してくるようで嫌だけど、金を落とすから無下にもできない…困った客。
彼女が店を辞めたら結婚するつもりで、一人で準備中らしい。
彼の中では、今年、彼女は彼と結婚することになっているようだ。
両親にも話はしてあるというから、彼女の風俗卒業待ちなのだろう。
僕とて、お金があれば彼女に…。
そう思うと…抱きしめたくなる。
「このまま…ホテルに行きたい…」
思わず、そう呟いて抱きしめた。
「ホテルって…ハッキリ言うね…」
「なんて言えばいい?」
「コテージとか…」
「そんなもの、この辺にないだろ…」
「フフフ…そうだね…」
幾度か唇を重ねて、彼女を抱きしめる。
「ホテルでゆっくりしたいよ…映画借りて、食べ物買ってさ」
「うん…またね…」
いつになるか解らない約束…。
「良かったよ…メガネ選べて、とりあえず、これで約束全部果たせたね…」
ドキリとした。
もう…逢わない…。
そんなことを言われそうで…。
「また…次の約束を考えようか…」
僕のなかでは、勇気を振り絞る様な言葉だった…。
「うん、じゃあ、今度はオムライスにポテトを食べにくる」
「そうだね…」
次がある…それだけで少し安心できる。
バカだから…それだけでいいと思ってしまう。
なにもない…のに、それだけで…。
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