第67話 食事付タクシー

「明日、残業だよね」

 彼女からメールが届いた。

「残業だと思うよ」

 きっと送ってほしいということだと思っていた。

 逢えば、彼女は一切、金は使わなくていいし、行きたい所まで時間内に送迎してもらえるのだ、この上なく便利だろう。

 別に、彼女に奢ってほしいわけでもないし、奢るのが嫌なわけではない。

 というか、女性に奢らせるのは好きじゃない…割り勘も嫌いだが…。


 ただ、関係がどうしても…そんな風に思わせるのだ。

 風俗嬢と客から…今は、どういう関係なのだろう…。


 僕は…どう思えばいいのだろう…。

 先輩の言葉が思い出される。

「いつまで使われてるつもりだ」

 その通りなのかもしれない。

 それが正しい考え方だと僕も思う。


 実際…僕は何を得るのだろう。


 損得でしか動かない。

 それが、若いころの僕。

 だから…今の僕を見て、変わったと言われるのは仕方ない。

 金も、時間も有り余ってるのなら…気にならないのだろうか…。

 彼女を愛人のように扱うのなら、気にならないのだろう。

 でも、恋人として隣に居て欲しいのならば…。

 結局、僕は今でも、金で彼女を買っている、そんな気持ちになる。


 きっと…何人もこんな風に扱われて、そして離れて行ったのだろう。


 じゃあ…どんな風にすれば、僕は満足するのか…僕にも解らない。

 いや…彼女を恋人に、それは思い上がりだ。

 歳の差もある…なにより、僕には家庭を持つ資格も甲斐性もない。


 週に一度でも彼女を抱ければ満足なのか…それも違うと思う。

 僕は今までに、数回、彼女を抱いた。

 でも…遠慮して抱いていた。

 それは、彼女が僕に抱かれたいと思ってないような気がしたから…。


 何が解らない…。

 何を知りたい…。


 彼女の気持ちが知りたい。


 風俗嬢を愛するためには?

 それは、心を分けること。

 頭では解っている…心が言う事を聞かないだけ…。

「風俗嬢と付き合いたい」

 そんなことを考えてる奴は、ただSEXしたいだけ、金を払わずにSEXしたいだけ。

 僕もそうなのだろうか…違うと言えるか…。

 抱きたいだろう…彼女が食事代からホテル代まで出してくれたら楽だろう。

 その金が、他の男に抱かれて得た金であっても…。


 心を分離できるかい…。

『K』と『N』を区別しつつ、彼女の全てを愛せるのかい…。

 今も…彼女は他の男に抱かれているんだよ。


 それに耐えられるのは…耐えられるとしたら…きっと彼女の愛を感じられるから。

 僕は…きっと、その愛を感じたいだけ…。

 それが解らないから…僕は、彼女の言葉の裏を考えてしまう。

 きっと…当たり前に、悪い方へ…。


「食事付タクシーかな」

 送信したメールの返信は、まだない…。

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