第63話 軒下で雨宿り

 黒い猫と軒下で雨宿りしている…そんな関係なのかもしれない。

 雨を避けた軒下にいた、黒い猫。

 微妙な距離を置きつつ、互いに意識しあっている。

 雨が止めば、互いに別々の方向へ歩き出す…。


 でも…雨が止むまでは…。


 ポケットの駄菓子を黒猫に差し出す。

 警戒しながらも、そろり…そろりと近寄って、サッとお菓子を咥えて、元の位置で食べ始める。

 ちらり…ちらりとこちらを警戒しながら。

 食べ終わると、その位置より少しだけ…僕の方へ近づいて身体を丸める。


 手を差し出すと、ビクッと驚きながらも…僕の手の方へ、おそる…おそると寄ってきて前足でシタッと軽く僕の手を叩いて、サッと1歩後方へ飛びのく。


 それでも、手を差し伸べたままに黒猫を見つめると、僕から視線を逸らさずに見返す。

 僕が手を差し出したまま、黒猫から目を離し空を見上げていると…指先に鼻を鳴らしながら近づく気配を感じる。


 にじり…にじりと寄ってきて、指先に鼻がチョンと触れる。

 指先を、ハタハタと軽く動かすと小首を傾げながら、大きな金色の目で指先を追う。

 時折、前足をピクリ…ピクリと動かして、ついつい僕の指先をシャッと軽く引っ掻いてみる。


 今度は指を大きく動かすと、身体は大きく縦横に震わして、前足をサワサワと動かす。

 時折、僕の指にシタッ…シタッとアタックしながら目は僕の指先を追う。


 ハッと目が合うと、我に返ったように、1歩後方へ飛び退る。

 何かを誤魔化すように、毛づくろいを始め、自分を落ち着かせる。

 チラッ…チラッと僕を意識しながら…。


 視線を外すと、僕の足元に寄ってきて、スリッと身体をすり寄せる。

 じっと下から僕の顔色を伺って、もう一度スリッと身体をすり寄せる。

 そっと、手を伸ばし黒猫に触れる。

 黒猫の緊張が手を伝わるようで…。


 そっと…やさしく…身体を撫でる。

 顎の下に掌を返して、指先でツツツッと撫でると、ゴロゴロと喉が鳴る。

 濡れてない地面に、柔らかい身体をゴロゴロとくねらせて、悦に入る。


「遊びに飽いたら…」


 僕の足元から、膝に上って身体を丸める。

 大きなあくびをひとつ…薄い目を開け、柔い身体が僕の足に沈み込む。


 雨降る午後の軒下で、降りやまぬ夕立の空を見つめる1人と1匹の目。

 いつしか視線は重なって…。

 身体3つも空いてた距離は、指先が振れるまで近づいて…触れられたら、少し離れて…またくっついて…幾度か触れて…離れて…擦り寄って…。


 今は…離れず、くっついて…。

 雨まだ止まず…と沈んだ心は、雨まだ止むな…と…。

 雨より先に、心は晴れて…。


 きっと…晴れたら…行先同じ。

 そんな雨が、紡いだえにしを運命と呼べるなら…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る