第62話 Close your Eye's

眠っていていいよ…。

仕事終わりの彼女をアパートへ送るとき、そんな風に声を掛ける。

彼女は眠らない…。

悪いと思っているのだろう…きっと眠いだろうに起きている。


悪いと思っている…でも…時々、彼女の話を聞くのがツライときもあるから…。

客の事…スタッフの事…友達の事…。

それは、僕が知らない他人の事。

彼女の周りいる、僕の知らない彼女を知っている人達の事。


知りたいようで…知りたくないような…こと…。


僕の世界は、きっと狭い。


人には、生きていく場所フィールドが決められている。

自宅から出ない人もいれば…世界を飛び回る人もいる。

地球を飛び出す人もいるのだ。


僕の世界は狭い。


住まう世界の広さは、現実的な行動範囲。

この大小を比べるのは簡単だ。

だが…無意味だ。


比べる術がなく、価値を見出すべきは深さ。

生きている意味は、この深さで計るべきだと思う。


部屋から出なくても、金を稼ぐことは出来る。

そういう人間から見れば、世界を飛び回って金を得ているなんて、非効率と感じるかもしれない。

逆の立場では、広い世界で人脈を築くことをしない人を卑下するのかもしれない。


僕は…どちらでもない…どちらにも憧れは無い。

あるには…どちらも、僕より遥かに有意義に生きているのだろうという認識だけ。


僕の世界は…狭く…浅い…。


もし…彼女が僕の前から消えたなら?

僕の世界は更に狭くなる。


そう…昔から僕の世界は、恋人と呼んだ人達をフィルターにして覗いてきた世界だから。

恋人と呼んだ人達は、僕に色々な世界を見せてくれた。

その繋がりから、僕の手を引いて自分の住まう世界へ導いてくれた。

あるいは、2人なら行ける世界を一緒に歩いてくれた。


それは、僕の好奇心を満たし、時には見たくないモノも見て、僕に何かを残した。


僕の世界は…狭いのか…?


たぶん…ぼくの世界は、この車の中で彼女と過ごす時間だけ…。

今、この時間だけが、僕の世界の9割。

狭く…短く…それでも深い。


彼女は他人との敷居が低いのは、彼女が他人と触れ合うときは裸だから。

衣を纏わない状態で接するから、その人の上っ面を知らないから。

たとえば、社長でもヒラ社員でも、彼女の前では関係ない人なのだ。


だから…僕のような男にも…。


素顔の自分を見せれるから…彼女のような仕事に依存する男もいる。

それは、現実逃避かもしれない。

たぶん、彼女は普通の人より、ズレた世界にいる。

そこから、普通を俯瞰的ふかんてきに観ている。


その大きな目に、僕はどう映っている?


それを知りたくて、彼女の目を見つめる。


口づけを交わすときヒトは、なぜ目を閉じるのだろう…。

それは、きっと心で恋人を見ているから…。


だから…Close Your Eys's目を閉じて…。

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