僕の彼女？は風俗嬢

第49話 今日は…

　歯医者行くんだよ。

　彼女は、さりげなく自分の予定をメールで送ってくる。

　きっと、僕が気にするから。

　年末、彼女を実家に送ったとき、ストーカーの事を、あんまり話さなくなったのは、僕が気にするからだと言っていた。

　ちゃんと、僕のことを気にかけてくれている。

　他人が言う様に、それが風俗嬢の手口なのだろうか…。

　あなただけが特別…そう言いつつ、誰にでも…。

　先輩は、そう言いたいのだろう…そして僕が、それに騙されて逆上（のぼ）せていると…。

　でも…僕は、そういう彼女の言葉を、目を疑うことができない。

　彼女が、今、求めているものは、きっと恋人じゃない。

　誰にも頼れずに、独りで生きてきた彼女が欲しいのは…ウソを吐かなくてもいい相手。

　自然でいられる時間。

　そんなものではないかと思う。

　色んな嘘に触れ…幾度も嘘を吐き…そんな仕事だから…。

　たぶん、今までも、そんな相手を見つけては心を寄せていたのだろう…。

　だけど…上手くいかなかった。

　そうやって、少しずつ…少しずつ…歪んできたのだ。

　きっと、自分の全てを受け止めてほしいだけ。

　風俗嬢としての自分…見せたくても見せれない本音…そんな歪（いびつ）な自分を抱きしめてくれる人を求めているような気がする。

　僕だって同じだ…だから、彼女の全てを包みこめるような器量はない。

　同じように歪んで、上手く生きれなくて…傷ついて…傷つけて…後悔しかない人生。

　そうやって生きてきて…今、彼女と僕は出会った。

　桜雪ちゃんとこんなふうな関係になると思わなかった。

　時々、そんなことを言う。

　僕も、そう思う。

　こうなる前も…こうなってからも…ずっと悩んでいる、きっと彼女も…。

「付き合って…」

　そんな言葉から始まったわけじゃないし、これはきっと恋愛とも違う。

　これは…きっと僕たちの物語。

　誰の眼にも触れない物語。

　作り物のドラマなら、不器用な主人公は、つまずきながらも恋を成就させるのだろう。

　でも、現実を生きるには、不器用は損しかしない…。

　上手く生きれるって才能なのだと思う。

　僕は、彼女の心を包み込むことはできない。

　だけど、歪な凸凹の窪（くぼ）みは、彼女の窪（くぼ）みを埋めることはできるかもしれない。

　それは、彼女も同じこと…。

　彼女によって、僕の心も埋められていく。

　たぶん…そんな関係。

　上手くはハマらないから、擦（こす）れながら、互いに形を変えてカチリとハマる。

　そんな時間を必要とする、ひどく効率の悪い絆。

　だけど…一度ハマれば簡単には抜けない絆。

　削られていくのは、痛くて…苦しくて…でも、その奥の互いに触れたいから…。

　きっと、僕達はこの手を伸ばす…這うように…這うように…。