第46話 逢いたいの裏側

「逢いたい」

 その言葉の裏側は…。

 きっと、他の誰かの所へ行かないで…だろう。


 理屈を付ければ、きっとそうなってしまう。


 正しいのだ。

 理由を言え、そう言われたら、こう答えるしかない。

「自分のところにいてほしい、他の誰かのところに行かないでほしい」

 そう…正しいのだ。


 でも…それだけじゃない。


 彼女と行きたいところ、やりたいこと、そんな思いもある。

 だから、仕事に送ることが憂鬱になる。

 今日は、僕のために…そんな起こりえない奇跡を期待してしまう…。

 愚かにも…。

 でも…期待するだけなら…妄想するだけなら…自由だ。

 それに資格がいることも忘れて、僕は、起こりえない日を妄想して…望んでしまう。


 望むから…絶望もする。

 どうしても逢いたければ、金を払えばいい…昨年の誕生日にそうしたように。

 僕は客じゃない…それはプライド。

 くだらないプライド。

 でも、捨てれないプライド。


 そもそも、『恋に落ちる』というくらいだから…『恋』はきっと下にあるのだろう。

 気持ちのずっと下…普段は視えない底にあるものが『恋』。

 高揚する要素なんて、きっとないんだ。

 苦しくて…ツラくて…それでも手を伸ばす、それが『恋』。


 手さぐりで探す、漆黒の闇の中で掴むものは望むものとは限らない。

 間違って…沈殿した見たくないモノまで掴んでしまう。


 滅茶苦茶に散らかして、傷つけてしまうこともある。


 そう…全ては自分のせい…自業自得なのだ。


 痛みの無い『恋』なんて、きっと『恋』じゃない。


「逢いたい」

 それは…叶わないと知っている願い。

 それでも僕は…それを願う。

 たとえ、送迎だけでも…。

 他の誰かの隣に座るくらいならば…。


「逢いたい」

 僕は、きっと様々な感情を込めて伝える。

 けして綺麗な思いだけではない。

 いや、むしろ…汚らわしい思い。

 でも、汚らわしくも純粋な思い。


 どうすれば…彼女に愛してもらえるのだろう…。


 僕は紳士じゃない。

 ただ臆病なだけ…。

 ときどき、すべてを壊したくなる、きっと、そのほうが僕らしい。


 そのときに最後に残るモノ…それは、きっと彼女。


 彼女が何処で何をしていても…僕の心にいる。


 きっと…ずっと…。


 僕の『恋』の輪郭だけでも、伝えたい。

 その中には何が入っているのか…僕自身解らないから…。

 どんな形をしているのか…。

 彼女の心に触れたい…。

 心を包む壁が厚すぎて…心に届かないから…。


『恋』へ落ちる…。

 それは、ゆっくりと…ゆっくりと…沈んでいくように。

 それは、冷たい底へ引きずり込まれるように…。


 苦しくて…もがいても…足掻いても…それは、僕の身体を蝕むように…。

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