第35話 それでも仕事…

「カンジタになった酷いんだけど…」

「デリ休めば…」


 それからメールは途絶えた。

 今日も、僕の地元の店に出勤しているはずだ。

 客に呼ばれているのか…機嫌を損ねたか…。


 毎日のように、働く…コンパにデリを掛け持ち金を稼ぐ。

 当然、感染症のリスクは高い。

 カンジタは性交渉での感染力は低いとはいえ…無いわけではない。

 性行為で感染したのではなくても、体内バランスを崩していることは間違いない。


 それでも医者に行かず、薬局で済まそうとしている。

 まぁ…店にも出続けるだろうと思う。


 なぜ…そこまでするのだろう…。


 僕とはSEXはしないだろう…だけど…僕は複雑な気持ちになる。

 風俗には付き物だとは思うが…いつか手遅れになりそうで…僕はそれが怖い…。

 抗生物質を飲み続けているからだろうと思うが、抵抗力が落ちている状態。

 自分の未来を語りながら…その未来を一番軽んじているのは彼女自身だ。

 僕のように、隣に死を抱えながら生きているわけではないだろうに…。


 感染症になりやすいのだ。

 カビだから…他人より洗う機会も多い…不特定多数との性交渉…生活習慣…。

 考えれば、ならないほうが不思議だ。


 本当に自分が嫌になる…何もできないのだから…。

 掲示板に彼女の名前が晒されている…本名だ。


 なんで…こんなところに書き込むような男に…本名を教えるのだろう…。

 嫌だと言いながら…なぜ…教えるのだろう…。

 彼女の言動と行動は矛盾だらけだ。


 ある意味、他人を信用しているのかもしれない…。

 風俗を利用している男なんて信用するものじゃない。

 僕は、何人もの嬢にそう言ってきた。

 それは自分を含めてだ。


 僕は、自分が嫌いだ。

 僕なら、僕を信用しない。


「いい人そうだから…」

 そんなことを言って、僕にプライベートを教えてくる嬢もいた。

 いい人は風俗なんて利用しないよ…きっと。


 客が嬢にプライベートを話しても大してリスクはない。

 変なことをしない以上は…。

 嬢が客に教えるのはリスクしかないと思うのだが…。


 彼女は、なぜ僕に自分の名前なんて教えたのだろう…。

 聞いてもないのに…。


 それに本名をなぜ、簡単に話すのだろう…他の客にもそうなのだろうし、そうだったのだろう。

 色んな人に何かを求めたんだろうと思う。

 僕も、その一人だ…特別なことじゃない…。


「薬買ってきて」

 彼女からメールが届いた。


 だから…笑われるのだ…便利屋だと…。

 他の男もそうなのだろうか?

 見返りも求めずに、彼女に尽くすのだろうか…。


 やはり、僕には彼女の真実が視えない。


 キミにとって僕は何なんだい…。

 無料のネットショッピングみたいなものなんだろう…。


 性器に薬を塗って、キミは男に抱かれに行く…。

 どんな気持ちなんだろう…。

 僕には想像できない。


 キミが僕の想いを想像できないように…。

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