第36話 負のMode

 なぜ、こんなに心が乱れるのだろう。


 指定された薬局では、彼女が欲しがった薬は売ってなかった。

 何件か回ってみたが、置いてない。

 仕方なく、別のメーカーの塗り薬を購入した。


 そのまま、彼女のアパートの郵便受けに押し込んだ。


「何をしてるのだろう…」

 膣カンジタの薬を探して届ける。

 それが嫌なのか…。

 違うように思う。

 それでも仕事に行く彼女に呆れているのか…。

 それも違う…。


 具体的にコレといったわけなどない…。

 なぜだろう…ただ…空しい…。


 油の付いた作業服、僕はソレが大嫌いだ。

 油の匂いも…作業服というものも…自分が奴隷であるかのように思える。

 僕にとって、ソレは絶対に誰にも見られたくない姿。

 そんな姿のまま、何件も店を回る、それだけで憂鬱になってくる。


 サラリーマンのくせに、会社に従わない。

 レポートにも、批判しか書かない。

 間違っても、会社を褒めない。

 飲み会でも誰にも注ぎに行かない。

 さっさと会場を離れ、別のフロアで時間を潰す。


 くだらないプライドが幾つになっても抜けない…ただの子供だ…。

 上手く立ち回れない…そういう人間を羨ましいとも思う反面、見下してもいる。


 買って、彼女が喜ぶ…それだけでいいじゃないかと思う。

 でも…僕は、そのことに何か理由を付けて自分をイラつかせる。

 性器に薬を塗って、性器を晒しに行く…そんな彼女が理解できないから、きっとイラつくんだ。

 その薬を買ったのは僕だ…それなのに…。


 彼女を他の男に差し出しているような気持ちになる。


 彼女の行動・言動を、どう受け止めていいか解らない…。

 逢いたいというが…逢わない。

 便利屋だなんて思ってないというが…使いパシリにする。

 裏で笑われてるんじゃないか…そんな考えが頭を過る。

 彼氏と馬鹿で便利なおっさんがいると、笑っているんじゃないか…そんなことを考える。

 他人が聞けば、笑うだろう。

 僕ですら笑える。


「わがまま」よく掲示板に書かれている。

 僕のような男が他にもいるのだろう、いたのだろう。

 そして愛想を尽かした…きっと現実に気づいたから。


 きっと、そんな連中にも同じことをしている、していた。

 今日は、僕の番…それだけのことかもしれない。


「便利屋だよ」

 そう言われた方が楽になれる気がする。


 彼女の気持ちが解らない…。

 いや…そんなことすら気にする必要もないのかもしれない。


 僕は今…何処にいるんだろう…。

 彼女が欲しいのは、僕じゃない…そんな気がする。

 お金と便利な男がいれば満足なんじゃないだろうか。


 掲示板に書き込む連中も、僕と同じ…。

 そこに差は無い…。

 僕も、また特別じゃない…。

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