第34話 約束

「せっかく選ぶからには、ちゃんと買ってよね」


 買うさ…キミが選んでくれるのならば…。

 僕のために選んでくれるということは、その時間は、僕のことを考えてくれるということだろう。

 それだけでも嬉しい。


 その時間は、僕のためだから…。


 その笑顔を、僕だけに向けてくれたら…どんなに幸せだろう。


 でも…それは叶わぬ願い。

 僕は、よく知っている。


 それでも願う…だから願いなのかもしれない。

 叶わぬと知っているけど、それでも想い続ける、捨てることも…諦めることもできない、だから、ただ…願う…。


 そっと祈るように…呟くのだ…I…Wish…その後は…きっと言葉にならない…。


『約束』とは…拘束でもある。

 自らの未来を確定させること。

 だから…破るためにあるという考え方も理解できる。

 破られることが無いのであれば…未来を束縛する必要はない。

 なぜなら、それは訪れる必然だからだ。


 起こりえないことを確定するのだから…それは覆ることが多いのだ。

 だから…約束は破棄されることが多い…そして無意識に、誰もがソレを知っている。

 だから…世には誓約書があり、契約書がある。

 無ければ無効…法がソレを証明しているのだ、肯定しているのだ。

 証拠が無ければ約束など存在しなかったことになる。

 約束とは浅い関係では成り立たない…訪れない未来。


 僕は、だから何日に行こうかとは言わない。

 すべては彼女の都合に任せる。

 なぜなら、僕には予定などないから…他人との関係を築くことが苦手な僕に、予定なんて、ほとんどない、だから何日でもかまわない。

「いつでもいいよ」

 とは…彼女に合わせるという意味ではない。

 キミ以外ナニモナイという意味だ。

 悲しいと…寂しいと…思うだろうか?

 悲しくも…寂しくもない…彼女がいてくれれば…それ以外はいらない。

 僕は、約束された未来が欲しい…それは、穏やかに過ぎる時間…大きな悩みも無く、大きすぎる幸せもいらない、そんな未来が欲しい。


『約束』できるのであれば…誰と、ソレを約束すればいいのだろう…。


 彼女と約束できるのか…ソレは僕に穏やかなる時間を与えてくれるのだろうか。


 僕は壊れている。

 そして壊れていく…僕の今には不安しかない。

 だから欲しいんだ…平穏な生活が…。

 だから、僕を不安にさせないで…愛していると言ってほしい…。

 今の僕は、それだけが幸せで…僕の平穏。


 彼女は…僕に『平穏』と『不安』を与える。

 不安の理由は摘み切れないほどに、僕の心に湧いてくる。

 平穏だけは…彼女からしか注がれない。


 だから、僕は彼女を求める…ただ、ただ、彼女へ手を伸ばす。

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