第27話 言えない思い

「逢いたい」

「明日の朝、無理なら…いつ休みなの?」


 僕は…今日(12月25日)逢いたかった。

 そう言えればいいのだが…言い出せない。

 クリスマスだから逢いたい…。

 クリスマスだから言えない…。


 困らせたくない…。

 きっと今日は逢ってくれないから…解っているから。


「傍にいたいよ…ごめんね…」

 信じていいの?

 今日も逢いたいよ…。

 遠回しに拒まれた…。

 僕は、やっぱり…こういう日に逢うことなど、望んではいけないのだと理解できた。

 客か…恋人か…僕は、そのどちらでもないのだから…。


 彼女にとって、逢うメリットはない。


 本来なら…とうに連絡を絶たれていても不思議はない。

 あるいは同情なのかもしれない。

 僕が、それにしがみついているだけ…。


 もう逢わない方がいい。

 本当は解っている。

 それが一番いい。


 なにがしたいんだろう…。

 掲示板の書き込みをみれば、

 金払ってでもSEXしたい。

 クリスマスに逢いたい。

 そんな書き込みも多い。


 それだけ彼女は、人気もあるということだ。

 僕と逢っても彼女にメリットはない。

 稼げそうな日に、僕に逢えば、それは損だと判断されてもしょうがない…。


 常に病んでるような僕に…。

 たまに逢ってくれるだけでも充分過ぎるほどの同情なんだ。


 なんで…僕は願うのだろう…それ以上を…。


 かならず毎日、メールをくれる。

 僕が返さなくても…メールを送り続けてくれる。

 今度は、いつ逢おうか…僕を誘ってくれる。

 お金が無ければ、安い食事で充分だと言う。

 色んなものを僕に食べさせる。


 なまじ近くに住んでいるから…逢えないことに違和感を覚える…。

 時間は正反対だけど…。


 解っている…けど・・・勘違いしそうになるんだ…。


「今日、逢いたかったよ」

 つい送ってしまった。

 色んな意味を持たせた…。

 他の人と逢わないで。

 今日だけは僕を見てほしい。

 特別な人だと思わせて。


「私も逢いたかったよ…土日だったから…ごめんね」

 週末でなければ逢ってくれたのだろうか…。


 自分で「逢いたい」に色んな想いを乗せたから…彼女の「ごめんね」にも色んな意味を感じてしまう。

 他の人と逢ってるの。

 今日だけはアナタを見れない。

 特別な人じゃないの。


 だから…ごめんね。


 迎えに行くことすら拒まれてるんだ…。

 クリスマスだから…特別な人と過ごす日なのだから…。


 今年も、独りの聖夜が終わろうとしている…。

 早く終われ…終わってくれ…。

 何もない…ツライだけの夜…ウソを吐かなければならない夜。

「彼女と過ごすよ…」

 今年も僕は、ウソを吐く…。


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