第28話 知りたいと思う…想い

 毎年…誕生日からクリスマスが嫌いだった。

 子供の頃から…。

 子供心に、自身の家庭の貧しさを実感するからだ。


 大人になったら…楽しくなるのかな…そんな風に思っていたのだが、大人になっても嫌いなままだった…今も…。

 何も起こらない…今年も何も無かった…。

 それが当たり前なのだが、イベント日に何も無いと、マイナスに気持ちが傾く…。


 独りでいることが悪いような気持ちになる。


 なんで…こんな気分になるんだろう。

 期待してないのに…。

 期待できない自分が嫌になるからだろうか。


 子供の頃は、比較してしまうから嫌だった。

 欲しいモノを買ってもらえるクラスメートが妬ましかった。

 僕には縁のない日だから…。


 学年が上がるたびに、僕はクラスメートと距離を置く様になった。

 友達と遊ばないとかいうことはないのだが、学芸会とかが嫌だったのだ。

 週末になると、班の自宅を持ち回りで、劇の小道具をつくったりする。

 本当に粗末な家で、ソレを知られるのが嫌で、嫌で仕方なかった。

 だから…クラスメートから嫌われているくらいで丁度良かった。

 大人になっても、なんだかそういう距離感を自然と作っている。

 関わらない…タイムカードを押して、次に押すまでの付き合い。

 それで充分だ。


 特に、他人のことを知りたいと思うことは無い…無かった…。


 なのになぜ…。


 僕は、彼女のことを知りたいと思う。

 なぜだろう…自分のことを知ってほしいとも思う。


「桜雪ちゃんの話は面白いし好きだよ。大概の人の話は、面白いだろ?俺、スゲーだろ?みたいな感じで話してくるから聞いててもつまらない、桜雪ちゃんは真顔で話すから面白いよ」


 別に笑わそうと思ってない…。


 このサイトで最初に書いた小説『お湯ラーメン』正直、PVが伸びるとは思えなかった。

 こんなヤツが好かれるはずがない、むしろ不愉快なんじゃないかと思いながら書いた。

 以外にも、『面白かった』というレビューが貰えて嬉しかった。


 いや…見ず知らずの画面の向こう側の他人に、自分を知ってもらえて嬉しかったのかもしれない。

 僕は、嫌われて当然の人間。

 それが…面白いのか?


 彼女の言葉も以外だった。

 もっと知ってほしいと思った。

 逢う度に、僕は自分のことを話した。

 笑ってくれる彼女の顔が好きだ。


「呼ばれるたびに、楽しみだったよ、今日は何の話してくれるんだろうって」


 気づけば、僕は信じられないくらいに自分のことを彼女に話した。

 彼女のことも、少しずつ知ることになった。

 本名や過去付き合った人の事など…。


 でも…僕は、もっと彼女を知りたい…これは欲なのか…。

 今日も僕は、彼女が何処で何をしてるか知らない。

 それが悲しいことなのか…あるいは幸せなのか…。


 何処で、何をしていようとも…僕は、彼女に逢えば、抱きしめる。

 知りたいから…知ってほしいから…この身を彼女に近づける。

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