第20話 クリスマス

 なにもすることがない…。

 家にも居場所がないような気がして、夕方家を出た。

 100Km離れた市へ移動する。

 彼女を幾度も送り迎えした街。

 何をするためだろう…ただの時間潰しだ。


 高速道路、慣れた道のはずなのだが、なぜか違う道を走っているような感覚に陥る。

 初めて走る道のような景色。

 こんな感じだったっけ…。

 少し…不安になる。

 間違えようのない道…何度も通った道…迷っているような感覚が襲ってくる。


 迷ってるのは…僕の心だ…。

 逢えない…何処にいるかも解らない…。


 クリスマスになると掲示板が荒れる。

 彼女の…『K』の話題で盛り上がっていた。

「今日は彼氏とデートだ」

「店外客とデートだ」

「俺とSEXする日だ」

 まぁ…どれもハズレだろう…。

 馬鹿らしいと笑い飛ばす余裕がない…真に受ける気もないが…やりきれないような気持ちになる。

 こんなところに書き込みしている連中と、僕に大差は無い。

 彼女に逢えないという点と、掲示板に踊らされているという点では同じだ。


 パソコンの前にいると…掲示板に目がいく…家を出たのはそんな理由からかもしれない。


 結局…僕は毎日、彼女のことを考えている…想っている…。


 行くあてもない…何度か訪れたソープ街に足が向かう。

 入る気もないのだが…何度か訪れた、洋食屋に入り、ハンバーグを食べた。

(何をやってるんだろうか…)

 自分は、街から疎外されているような感覚に陥る。


 逢いたい…もしかしたら…こっちのアパートに来ているのかも…。

 そんなことを考えたりもする。

 もちろん訪れはしない。


 街はクリスマス一色だ…。

 そんなイベントに踊らされて…バカみたいだと思いながら…それに置いて行かれている自分の惨めさを、独りで歩く街が煽るようだ。


 すれ違う人と肩がぶつかる…自然と目が凄む…サッと目を逸らす男…。

(遊んでくれないのか…)


 僕の足は自然と彼女と行った場所へ向かった。

 ここで食事をした…ここで服を見た…そんな思い出が、僕の目を覆うように視界が霞む。

 閉店間際の百貨店。

 僕はGODIVAでチョコを買った。

 カップルが何組が並んでいる…独りで買うのは僕だけだ。


 チョコを1箱購入して、街を後にする。

 結局、僕は一人では行くところすらない…。

 せっかく来たのだからと考えてみるが…一人で歩く気にもならない。

 隣にいてほしいよ『N』…。


 僕は…まっすぐに自分が住む町に戻ってきた。

 この町にもある彼女のアパートの玄関にGODIVAのチョコを掛ける。

 あるいは居たのかもしれない…。


 僕は、ノブにチョコを掛けて小さく呟いた…。

「メリークリスマス…『N』…愛しているよ…」

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