第18話 在るべき場所

 大切にしていたチェスピースがあった。

 キングのピースひとつで8万するピースだ。


 アクリルケースに保存し、大切に飾っていたのだが、地震で棚からアクリルケースごと落ちた……。

 僕は、床に転がったチェスピースを、しばし眺めた…その後、チェスピースは燃えないゴミとして捨てた……。


 僕にとって、大事だったのは、ソコに飾られたチェスピースであり、床に転がったチェスピースでは無かったということだ。


 こんな話を友人にすると、

「バカじゃないの」

 と返してくる…。


 僕にはリセット癖がある。

 人間関係も…仕事も…すべてを捨てる癖がある。

 大切なものが、ゴミに変わる瞬間がある。

 チェスピースは、床に転がった瞬間…僕にはゴミに視えた…。


 あんなに大切だったのに…地震が無ければ、きっとまだ僕の部屋…リビングに飾られていただろう…。

 でも…床に転がったりするから…。

「ソコはキミの場所じゃないだろ…」


 子供の頃から、ヒトの死は身近にあった…。

 事故現場によく出くわしたのだ。

 隣をスッとすり抜けた人が、次の瞬間道路に横たわる、ソレはもうヒトじゃない…。

(脳みそって…湯気がたつんだ…)

 冬の夜、目の前で女性がトラックに轢かれた。

 頭から流れる血は咽かえるような臭いを放ち、頭からは湯気がたつ…血は薄く凍った路面をゆっくりと下水に向かって流れる、氷を溶かしながら…。

 最初に来たのは消防車、死体をどけて路面の血を洗い流す。

 救急車は最後に到着した。

 何も感じなかった…ただ興味で事故現場で淡々と行われる作業を見ていた。

 そして、飽きるとレンタルビデオを返却しに向かった。


 対向車が居眠り運転で蛇行をしながら僕の車に向かってくる。

 ブレーキは踏まなかった。

 居眠り運転だと自分の目で認識できる距離まで来ても、僕は真っ直ぐ走り続けた。

 減速もしない…ハンドルも切らない…。

(僕は間違ってない…なぜ、僕が避けるんだ…)

 ぶつかる寸前で、対向車はハンドルを切った…幸いぶつからなかったのだが…。


 僕の感情こころは壊れている。

 ずっと前から…子供の頃から…。


 それでいい…。


 泣くことはできる。

 映画を観ても泣くし、本を読んでも泣く。

 感情は働いているのだ。

 ただ…動き出すと、普段動いてないせいか振れ幅が大きいように思う。

 だから…捨てれるのだ。


 自分でそう解釈している。


 それでいい…壊したのは僕じゃない…だから僕は悪くない…。


 でも…心に穴が空くような空虚感は、この先埋まるのだろうか…。

 今までの穴は埋まってるのだろうか…。


 それが解らない…。

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