第8話 それでも逢いたい

 数少ない友人は…私らしくない…という。

「なんでそこまでするんだ?」

「昔のお前だったら、絶対しないだろ?」

「そんな女、ロクなもんじゃねぇ…すぐ嫌になるんじゃない」

「普通は金貰ってるからやることでしょ?なんで金払ってまで尽くすの?」


 そんな意見ばかりだ。


 解っている…。

 僕は、彼女を甘やかしている。

 望むことすべてを叶えてやれない、だから出来ることはしてあげたいのだ。


「なんで風俗嬢なんかのアタシに、そんなに優しいの?」

 いつだったか、彼女に聞かれたことがある。

 別に、僕は風俗嬢だからとか考えたことが無い…。

 その時間だけ、一人の女性として扱うことが普通だと思っていた。


 彼女に限らず、風俗嬢のなかにはプライベートで逢うような人もいたし、僕の前で本名や昼間の職業などを話す嬢もいた…ときには泣きだす嬢もいた。


「紳士的なんですね…優しいし…」

 そんなことを良く言われるのだが…

「そんなことはないよ…本当の紳士や…優しい男は風俗なんて利用しないさ…だから僕のことも信用しちゃいけない」

 必ず、僕はそう返す。


 本当にそう思っている。


 僕なら僕に心など許さない。


 だから…風俗に群がる男など虫唾が走るほどに軽蔑している…もちろん自分も含めてだ。

 彼女に、そんな輩を近づけたくない…そんな矛盾を孕んだ屈折した想いが彼女を甘やかせるのだ。


 いや…愛おしいのだ…ただただ…愛おしい…。


 太陽の下を歩けぬような脛に傷持つゆえに…互いを解る部分もある。


 心の醜さも含めて…僕は彼女を抱きしめる…。

 子供のように純真な部分もある…だが夜を生きる強かさもある…。

 それを使い分ける術を持たないから、我儘に見えるのだ。


「桜雪ちゃんもことを情けないなんて思ったことないよ…ヒーローみたいに思ってるよ…つい頼っちゃうけど…便利に使おうなんて考えたことないよ…」


 ヒーローはね…無償で奉仕する馬鹿のことを指すんだよ…。

 馬鹿か…金持ちしかなれないものなんだよ。


 僕はね…その資格がない。

 小賢しく…貧しく…卑しく…すべてを上目づかいにしか視れない人間。


「それでも…愛していいですか…あなたの幸せを願っていいですか…」


 どれほどの他人を傷つけ…貶めてきただろう…1度だけでいい…彼女の幸せを願わせてください。

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