第7話 曝される

 付き物なのかもしれない…。

 掲示板で彼女のことは、よく書き込まれる。

 あまりいい話は書かれない。

 ときに、真実もある。

 私と食事しているところを見られて早速書き込まれていた。


「可愛いだって…そこは嬉しいよね」

 平気なふりして笑っているが…いい気分ではないだろう。

 私のことも、店のスタッフだ、店外デートだ、彼氏だ、と好き勝手に書かれている。

 どれもハズレだ…。

 当たりは…僕ですら解らないのだから…。


 僕はキミの何なんだろう…。


 ストーカーに付きまとわれることもある。


 正直…羨ましいとさえ思う。

 感情だけで、突っ走れるストーカーという存在にだ。

 ネガティブ思考の僕にはなれない存在。


 プライベートでも逢っていたようだし、まぁ勘違いするのも解らないでもない。


 そこに疑問を感じる僕と、疑問を持たないストーカーに差は無い。

 少なくとも、彼女には明確な線引きはないのだろう。

 同じことをしたら…片方がストーカーになった…それだけのことだ。


 ストーカーとまえでは行かなくても、好意と勘違いする男は多いと思う。


 以前、彼女から聞いたことがある。

「ドーナツを買ってきてくれる男を、口で性処理していた」と。

 でもドーナツはそんなに好きじゃないらしい。


 だから、そんな書き込みを見ると…にわかに信じてしまう。

「私をちゃんと見て!」

 彼女は僕にそういうのだが…僕はどう受け取ればいいのか解らない。

 それが嫌なら、毎日送って、迎えに来てよ。

 そう言われているような気もする…。

 できればそうしたいよ…。

 いや…できれば、こんな仕事させたくないよ。


「来年には結婚して…子供も1人は産みたいよ」

 そんなことを言う彼女…。

(相手は誰なんだい…)

 聞きたいが聞けない…。


 僕は…たぶん、何かの次だから…。

 優先順位が、仕事の次・友達の次・客の次…僕は常に誰かの後ろだ。


 それが酷く悲しいと感じる…僕は…比べるものがない…仕事もどうでもいい…友達ともめったに会わない…携帯から音が鳴るのは、彼女からのメールだけ。

 彼女がいなければ、携帯なんて必要ないとさえ思う。


 僕は誰…教えておくれよ…。

「大事な人だよ…」

 そう言われても…よく解らない。

 いっそ…便利な人だよ…そう言われた方が楽なのかもしれない…。


 愛されたいと願ったしまった…それが、きっと僕の罪。

 愛されない…それは、僕への罰。


 ときおり思う…。


 街ですれ違う恋人たちは幸せそうだ。

 たとえどんなに容姿が醜くても…。

 彼女は美しいと思う。

 おそらく…人目を惹く…僕の隣は歩かない…少し離れて歩く。

 僕もそれでいいと思っている。


 僕は、彼女の隣で歩くには…相応しくないのだから…。


 なにがあればいい…金?地位?


 それすら解らない…。

 ラビリンスとは…己の内にあるのかもしれない…。

 それは深く…出口などない…迷宮とは僕の心の内にある。


 タナトス…僕にとっての彼女は、まさにソレだ…。


 タルタロスに住まうタナトスを探す…。

 いつか…触れられるだろうか…その代償は…。

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