第2話 グミをお土産に

 海外出張で香港空港にいた。

 お土産を物色していると…大きなグミの袋を見つけた。

 あれから…コンビニに行っても…グミを見ると彼女を思い出していた。

 可愛いというだけではない。

 なんというか…しゃべりかた…しぐさ…なども含めて、印象に残っていた。


 外国でも思い出すとは…。

 僕は、彼女に渡そうと大きなグミを買った。

 日本では売ってない、毒々しい色のグミ。

「好きなんだろうなグミ」


 帰国して、店の出勤予定を確認する。

 よく働く娘だ…系列の、どこかの店に出勤予定が上がっている。

 週末、彼女を予約した…初めてのことだと思う。

 予約したのは…。


 彼女に逢うと…「覚えてる?」と確認してみた。

「覚えてるよ~」

 嬉しそうに彼女は笑った。

「これ、お土産」

「えっ?なに?」

「開けてごらん」

「うん……えっ?グミ?」

「好きなんだろ?グミ。空港で日本に無さそうなヤツを選んだんだ」

「……グミ…あんまり好きじゃない……」

「嫌いなの?」

「……ん?嫌いじゃないけど…好きでもない…」

「なんで…あんなに大量に持ってたの?この前」

「だから…好きじゃないから…食べないまま賞味期限が切れそうになったの」

「そうなの…」

「でも…空港でアタシのこと思い出してくれたんだ…嬉しいよ…そういうの」

「そんなもんかね?」

「これからも…グミ見ると、アタシのこと思い出すね、きっと」

(そのとおりだよ…グミ=『K』になってるよ…)


 それから、僕は彼女をよく呼ぶようになっていった。

 一緒にいると退屈しない。

 もちろん接客だと割り切っていた。

 少なくとも…好きだとは思っていたが、『恋』や『愛』ではない。

 もっと浅い好意だと思う。

 きっと、彼女もそうだったのだと思う。

 呼ばれて嫌な気がしない客、そんな程度のものだったのだろう。


 別の娘も呼んでみるものの、どうにも面白みがない。

 接客がどうのこうのではなく、なんというのか…なにも感じないのだ。

 それが普通なのだと思うが、『K』の声が聞きたくなる…いまでもそうだ。

 どちらかといえば癇に障る声、しゃべり方なのだと思うのだが…聞けないと寂しいと思う。


 彼女とは色んな話をした。


 彼女に本名というか、個人的に作っていた名刺を渡したのは逢ってどのくらい経ってからだろう…自分の事なんて興味が無いかもしれないし…そもそも知られて困るのは僕の方だ。

 なぜ?渡したのだろう…本名や住所、連絡先なんて知られても迷惑なだけ。


 たぶん…知ってもらいたかったのだろう…。

 自分のことを…。

 そんな気持ちになったのは初めてかもしれない。


 まぁ…彼女からの連絡など期待はしていなかった。

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