僕の彼女?は風俗嬢

桜雪

第1話 冬に出会った嬢

 不倫をしていた…もう5年以上になる。

 私は独身だが…彼女には家庭があり、夫もいた。

 私より10歳上の人妻との関係は、徐々に冷めていき…心には大きな隙間が空き、僕は、その心の隙間を風俗で誤魔化していた。


 稼ぎは良かった…週に3日、4日は仕事の帰りにホテルへ向かう。

 誰でも良かった…。

 ただ、話し相手が欲しかった…できれば自分に興味が無く、2度と会わなくてもいい他人。

 そんな気楽な関係で2時間ほど付き合ってくれる、都合のいい女性達。


 そこそこ利用していた。

 金払いもいい。

 いつしか店から、電話が来るようになっていた。

「新人が入ったんですよ…安心できるお客様に最初に付けたいんですが…どうでしょうか?」

 僕はキレイに遊んでいた。

 本番交渉を持ちかけてくる娘もいる。

 それは断らない…でも自分からは求めない。

 そんな感じで、デリヘルを利用し始めて2年ほど経っていた。


 そんなある日…。

 隣の市で、よく使う店の系列店を利用したときだった。

「いつもありがとうございます…これからですと…『K』ちゃんが伺えます」

「あ~じゃあお願いします」

 正直…『K』という娘の名前は知っていた。

 なんとなく…呼んでみようという気になれなかった娘だ。

 それなりに経歴も長い娘らしい…名前も古風で、あまり期待していなかった。

 風俗擦れた娘だろうと期待はしていない。


 ホテルでシャワーを浴び、くつろいでいると携帯が非通知で鳴る。

「桜雪さんの携帯ですか~『K』ですけどお部屋何号室でしょうか?」

 なんだか間延びしてヤル気の無さそうなしゃべりかた…ハズレだ…。


「こんばんわ~」

 大きな紙鞄を持って、彼女は部屋に入ってきた。

 華奢な身体…身長があるぶん、なおさら痩せて見える。

 顔は可愛い…正直、なんでこんな娘が風俗やってるんだ?と思うほどに可愛い。

(何が入ってるんだ…)

「シャワー浴びたんですか?お風呂入ってもらっていいですか?」

「いいよ」

 彼女に促されるまま、もう一度風呂場へ向かい、身体を洗ってもらう。

 湯船に浸かると…彼女も入ってきた。

「テーブルにお菓子置いといたんで…食べて待っててください。アタシ指入れNGですけど、お願いします」

(なんだか注文の多い娘だな…)


 先にあがって、テーブルを見るとグミが置いてあった。

 外国のグミ。

 硬くて顎が痛くなるグミだ…昔、よく食べてたな…。

 2・3粒食べて、案の定、顎が痛くなる…。

 しかし、長風呂だな…やる気ない娘というか時間稼ぎだろう…慣れてくるとコレだから嫌なんだ。


 やっとあがってきたと思ったら…

「もっと食べて」

 私にグミを薦める…。

「いや…もういいよ」

「グミ嫌い?」

「いや…そういうわけじゃないけど…そんなに食えないよ」

「そう…帰りまでに全部食べてね」

(強制するんだ…どんな娘なんだ?)


 まぁ…身体を預けて、彼女に任せる。


 風呂場でも気になったが…背中のカサブタが気になる。

 なんでこんなとこ怪我するんだろう…。


 軽くシャワーを浴びると、グミを食べた。

 食いたくもないグミ…。


「ホントに全部食べてくれたの?ありがと…部屋から出てきて…賞味期限切れそうだから皆に食べてもらってるの…全部食べてくれたヒト初めて」

 そういって笑った。


 彼女は先に部屋を出ていった…。

 僕も少し遅れて部屋を出る、車をホテルの出口に向けると…彼女が立っていた。

(迎えが来ないんだな…この雪で寒いのに…可哀想だな)

「ねぇ…迎え来ないの?良ければ乗って待ってるかい?」

 冗談のつもりだった。

 乗るわけないと思っていた。

 ニコリと笑って、彼女は頷いた。

 タタタタッと助手席に乗り込んできた。

「寒かったの…ありがと…」

「うん…いいけど…怖くないの?」

「なにが?」

「知らない男の車に乗って」

「…うん…べつに…すぐ迎え来ると思うし…」

「何もしないけどね…」

「うん…あっ!グミ食べる?」

「また?まだあるの?」

「うん…いっぱいある…」


 動物のカタチをしたグミをポツリ・ポツリと食べる。

 何を話したか…あまり覚えてない。

 ただ…窓の外の雪を眺めながら…彼女の送迎車を待っていた。

 随分と送迎車が来なかったことを覚えている。


 彼女の横顔は…とても可愛らしかった。

 雪の降る夜、ラブホテルの前に車を停車して風俗嬢を隣に乗せて…何やってるんだろう。

 そんなことを考えていた。

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