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脚本家目指してます

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すてるは暇だった。

フリーターで自分の人生の進む先を悩みに 悩んで何をすればいいのかを考えて、ついには考えるのを放棄し、PCやスマホで時間を潰していた。すてるは高卒認定を高校在学中に取得し、入学してから半年ほどで高校を中退してしまった、すてるが通った高校は第一希望ではなく、適当に選んだ家から一番近く偏差値が県内随一で低い私立男子高だった、要は滑り止めの高校に入学したのである。すてるが狙っていた高校は自分の学力では到底行くことのできない高校だった、だがすてるの鈍くくすんだ心、感情、世界、プライドが適正学力の高校を受験するのを拒んだ、心のどこかでは落ちるのをわかっていながら受験勉強を頑張ってるふりをし、予備校の先生もすてるを応援するふりをしていた。

そして案の受験に落ち、滑り止めの高校に入学した、その高校は底辺高校の特徴である不良とオタクと頭の少し弱い子が集まっている高校だった。最初は嫌々入ったが住めば都なんて言葉もあるわけで不思議と不良ともオタクとも頭の弱い優しい子とも仲良くできた、そのどこにも属することはできなかったが。

だがその高校を半年ほどで辞めてしまったのは色々な理由がある、自分の居場所はここじゃないという自惚れもあっただろうしなにより不良やオタクにやさしく接せられる違和感があった。中学のすてるは人気者の部類だった、だからこそ下に見てる頭の悪い不良やオタクにやさしくされるのがものすごく嫌った。かといって不良の上に立つほどの度胸などもちあわせていなかった。何かを辞めるという事はたくさんの理由が汚く交じり合い、何かのきっかけがあって始まる行為だと思う。

すてるの場合は学校の教育方針がとてもつらかった。偏差値がものすごく低いこの高校には悪い奴がたくさん入学している、それを正すためにほとんどの教師が叫び、怒鳴り散らすのだ、シャツがズボンに入っていなかったら「シャツを中に入れろ!」と大声で怒鳴り、宿題をやってこなかった生徒がいれば授業を何十分も潰して怒鳴り散らし、踏ん反り返って授業を聞いてるものがいればその授業をすべてを潰して生徒を叱るのだ。今思えば少しやりすぎの指導でそれらのおかげで公正していった生徒もたくさんいたが当時のすてるには大の大人が唾を飛ばしながら発狂している姿を見るのが耐えられなかった、そしてその行為によって態度を改める生徒を見るのがすさまじく許せなかった、まるで自分が凌辱されてるかのようなとてつもない屈辱の感情がそのたびに沸いた。

 そして決定的な出来事があった。あまり記憶力がよくないので詳細には覚えていないのだが体育が雨で中止になり保健の教室授業になったときお調子者の生徒が出席確認の点呼の際にふざけて後ろの生徒の名前を言った、後ろの生徒が「オイ、ふざけんなよー」と半笑いで言い返し、でクラス全体が少し笑っていたら急に先生(先生というのが嫌なので以下屑)が「ふざけんじゃねーよ!」と発狂仕出しお調子者の生徒を目の敵にした、屑は柔道をやってたらしくお前なんか簡単に殺せるんだよなんてことすら言い放っていた、若干16歳の高校一年生に180cm以上の巨漢柔道家が殺すと叫んでいるのだ、もちろん殺すつもりなんてないのだろう、舐められたと思いその生徒を目の敵にすることでこの屑は自分の威厳を保とうとしてるのだ、そんな物を守るためのオナニーにお調子者とこのクラスの生徒は40分以上付き合わされたのである。すてるはそのお調子者と中学の自分を重ねていた、すてるは知っている、そのポジションにいる人間はそういうふざけたことをしなければいけないのだ、ふざけていないともう自分じゃなくなっていく、まるで自分が二人に裂けていく感覚に陥っていく。このお調子者は世界で生きていくのにその立ち回りしか知らないのだ、そんなにも弱く脆い人間を自分の威厳を保つために脅し続ける屑、すてるは何も反抗できず40分屑が叫んでる中自分の机の傷を見続けていた。

すてるは高校一年生の夏に高卒認定の参考書を買った、高卒認定とはその資格を持っていると高校卒業と同等に扱うと言ったものだ、ここからのすてるの行動は早かった、定期試験もほとんど勉強せず赤点ぎりぎりの点数で乗り越え、その年の冬にある高卒認定試験のための勉強をし続けた、今思えばこの時が人生で一番頑張っていた頃だった。一日5時間ほど勉強し、9科目の試験勉強を3か月間やり続け、合格した。

合格通知が来て2日後には親を説得し、3日後には高校に退学届を提出した、無遅刻無欠席の真面目な生徒で通っていたため教師たちは目を見開いて驚いていた、ただ一人担任は「こんな学校にいて勉強するより高認とれる学力があるなら自分で勉強した方がいい」と言って後押ししてくれた、この担任はただ人を引き留めたりするのがめんどくさいのだ、

すてるはどこか冷めてるこの大人がそんなに嫌ではなかった。

 すてるは高校を辞めてすぐに予備校に籍を置いた、親がそのまま無職の16才になるのを許さなかった、本当は予備校になんて行きたくはなかった、今となっては昔の自分が何をしたかったのか覚えていない、すてるは昔のことを思い出すのが苦手だ。

 その予備校は高卒認定を取った人が大学へ受験するための予備校だ、そんな施設すらあるのだ、世界は広い、しかし何より人が大変少ない、10~20人で部屋で授業を受ける小規模な体系だった。すてるはこの施設がすごく嫌だった。高認を取る人達は理由がどうあれほぼ高校を中退した人達だ、中には中卒で働いている人や、中卒のおじいさん、なんて人もいるにはいるが、少なくともこの予備校に通っているひとは高校を中退した奴しかいなかった。だから予備校と謳っておきながら元不登校のどうしようもない奴らの預かり場みたいな面白い場所だった、誰も問題なんて起こさないが、内面にえげつない闇を抱えてそうな奴、元いじめられっこであろう奴、一見普通だがどことなく変な奴、底辺高校を頑張って脱出してきた先は敷地に入るだけで体に鉛を流し込まれるような重い感覚に襲われるとんでもない施設だった、入ったことはないが、刑務所も同じような雰囲気を出しているのではないだろうか。

すてるは努力ができない人間だ、本当に努力ができない、宿題もできなければ家に帰ったら特にやることもなくぼーっとしているだけ、予備校では宿題がたくさん出た、なのに宿題をやらなかった、なぜかやれなかった、宿題を取り組めない後ろめたさからあまり通わなくなった。暇すぎてこの頃パチンコとゲーセンを覚えた。

すてるの人格はここで完全形成された、毎日暇をつぶすためにパチンコ、ゲーセン、本屋とカフェが合併している店でコーヒーを飲みながら本を手に取って読んでいたり、散歩してみたり、色々な時間つぶしをしていた、すてるはギャンブルの才能がなくパチンコは全く勝てず自然と行かなくなった。すてるは大体カフェで本を読んでいた、自己啓発本だ。もし人生で一回タイムスリップできるならここに戻ってくだらない自己啓発本なんぞ読まずに面白そうな小説を読む、すてるの人生で本当に後悔してるのは後にも先にもここだけだ。

 すてるは人の迷惑になることを一番に嫌った、なのに高校をやめて大学にもいかなかった、すてるは人を見るとまず迷惑になってないかを極端に気にする、人を見るのが嫌で学校をやめてしまったのかもしれない。

前にバイト先の女の子に「なんでそんなに顔色うかがうの?」と聞かれたことがある。すてるは小学生のころから人の顔色を窺って生きてきた、そのくせなぜか約束を守れず、遅刻や宿題を出さないことが多かった。そしてその事態から引き起こされる事で一番嫌なになるのか自分が叱られるよりも、相手を怒らせて不快な思いにさせてしまうのがとてもつらかった、だから嘘をたくさんついた、沢山、持病のせいにしてみたり、親のせいにしてみたり、他人には自分を守るためにうそをついてる人に見えていただろうが、すてるは人を怒らせないために嘘をついていた。もしかすると自分のために嘘をついていたのかもしれない、今となっては嘘をついた理由など曖昧で嘘を付いたという事実がすてるの心をぎりぎりと音を立ててつぶしている。

 すてるは優しい人だ、という評価をしてくれる人もいる、すてるはそれがすごく嫌だった、自分が最低な人間だということを知っているからだ。

予備校に行かなくなりすてるは適当なバイトをし始め、本格的に大学へ行くことから、受験勉強から逃げた。


自分が何をすればいいかわからなくなった。

 元々わかってなかったが、到頭取り返しの付かない所まで来てしまった。自暴自棄なんて生温い言葉では表現できないくらいもう何もかもどうでも良くなってきた。嘘だらけの自分、何か怖いものから逃げ続けた自分、教師が大っ嫌いだった自分、今となってはそんな記憶もまるで空白だったかのように何も感じない。


フリーターになり時間が有り余ってネットの交流サイトをよく使うようになった。ネット上で見ず知らずの人間とチャットをして時間を潰すのがすてるの日課になった。そこで同い年の女の子と仲良くなった。

彼女は加奈という女の子で16の時に高校を辞めて引きこもっている子だ。

同級生が一人いじめにあっていたらしい、その子は仲良くもなくただのクラスメイトの一人、いじめもクラス全員でやっていたわけではなくその子のグループ6、7人がその子を輪から出そうと無視したり拒絶を始めたそうだ。俺から言わせればそんなのはいじめでも何でもないような気もするが、いじめというのはそんなものなのかもしれない。

その光景が目に入る度に彼女は黒く歪んでしまう。こんな世界に一秒だっていたくない、

と彼女は逃げてしまった。

 

そして彼女は今自分の先が見えない恐怖でおびえている。「親は引きこもってることになにも言わないの?」とチャットで書く。

「なにも言わないの、多分昔不安定で暴れちゃったから怖くて何も言えないんだと思う」

と帰ってきた。

うちの親も何も言わない。それこそ高校を辞めるときは色々言われたが今は何も言ってこない。俺抜きで家族で何か話し合いをしているのはこの家の暗い雰囲気でわかるが。

 多分彼女の家もその暗い雰囲気がむせ返っているのだろう、その強力ななにかで彼女も押しつぶされそうなのだ、だがそれは家族も一緒なのだろう。

「私が全部悪いのにもう私一人じゃ何もできないの、どうすることもできないの、誰かに助けてほしい、世界が無くなればいいのにって毎日考えてる」


「どうすればいいのか僕にもわからないけど一緒に頑張ろうよ」そんなことをたくさん書いた。


 彼女をどこか自分と照らし合わせていた。

優しいこの子と汚い自分、どこか似ているきがして色んな事を話した。初めて自分と人の時間を共有している気がして僕は楽になれた。


でもこの不安定な楽しさはふいに終わった。


 「私、家から追い出されるの。」とバイトから帰ってきたら書いてあった、

「何があったのか教えてほしい。」

「親がこのままじゃいけないって部屋を借りてきてくれて、職業訓練所ってところに通うことになったの、どうなっちゃうんだろう」

 「加奈ならできるよ、この世界から見放されてなかったんだ、親が助けてくれたんだよ。

加奈は素敵な女の子だ、君ならきっとうまくいくよ」僕はこう書いた。

返信はすぐきたがろくに読まずそのサイトを閉じでしまった。

僕は許せなかった、俺だって助けて欲しい、

俺だって加奈なのになんで自分は助けてくれないんだろう、ずるい、羨ましい、そんな大人はなんで僕の周りにはいないんだろう。


 自分は誰かに怒って欲しかった。違うよって言って欲しかった、こんなことになったのも誰かに正してほしかった、嘘を付いた時誰かにダメだよって言って欲しかった、


優しい子だねなんていって欲しくなかった。


 もう交流サイトもやめよう、家から出よう、

世界から極力関わらなくていい仕事につこう。

そんなことは無理なのはわかっているが、そうでも思わないと何かよくわからないものに絶望してしまう。左の首筋があつい、息がしずらくなってきた。もう寝てしまおう。

 

すてるはバイトを辞め、遠い場所に行くことにした。


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