第45話 過去の因縁

「昨日は何時に、どこで義明さんと会われたのですか?」


50代くらいの氏子の男性に、本宮君が尋ねる。


「集合は7時。この村のコミュニティーセンターで、15人くらいで集まったよ。義明様は確か、6時40分くらいには来てたな」


「義明さんが、集会所を出られたのは何時頃ですか?」


「今年の神事のことで話し合って、酒を飲んで……10時くらいに、義明様は出られたと思う」


そこまで言って、島民は訝しげに聞いた。


「どうして、義明様のことをそんなに聞くんだ?雅明様の事件と、何か関係あるのか?」


「実は、義明さんが夕べから戻って来ていないんです」


「な……何だって!?」


島民は叫んだ後、両手で頭を抱える。


「何てことだ……!雅明様に続いて、義明様まで!祟りだ!温羅の祟りだ……!」


「吉備家と温羅家の関係をご存じなんですね?」


「ああ……島の古い者なら、皆知っている!」


「祟りとは、何か過去に、吉備家と温羅家でトラブルがあったのですか?」


本宮君の言葉に、島民は険しい顔をした。


「もう何年も前だが、吉備家の当主と温羅の女が揉めてな。それはもう、当時の当主はお怒りだったよ!」


「そのことをもっと詳しくお聞きできませんか?」


「……いいや。吉備家の中で固く口止めされていて、わしら一般の島民は、詳しいことは分からなかった」


「そうですか。ありがとうございました」


本宮君がお礼を言うと、私達は、その場を後にした。


「今の島の人の話って、もしかしてウメさんが話しかけたのと同じなんじゃ?」


「ええ、そうかもしれない。そして、それが、もしかしたら、今回の事件に関係あるかもしれない」


本宮君がそう言った時、激しい潮風が吹き抜ける。


周辺で聞き込みをして、私達が吉備家に戻ったのは、夕方の5時を回っていた。入り口から入り、渡り廊下を歩いていると。


「本宮」


不意に、誰かに呼ばれる。


呼ばれた方に視線を向けると、何と、沢城恵さんの依頼の時に、私達を助けてくれた、秀ちゃんこと、村岡秀一刑事が立っていた。


「秀ちゃん。やだ、何でここにいるの?秀ちゃんの管轄じゃないでしょ?」


本宮君が言うと、村岡刑事がため息をつく。


「今捜査している事件の関係で、こっちの県警に、たまたま来てたんだよ。それで、この島の殺人事件のことを聞いて。お前の名前が出てきたから、立ち寄ってみた」


「アタシにわざわざ会いに来てくれるなんて嬉しいわぁ」


「……お前、何で、こんなやっかいな事件に巻き込まれてるんだ?刑事でもないのに」


「知らないわよ。ねぇ、それより捜査は進んでるの?」


本宮君の言葉に、秀ちゃんは首を横に振った。


「犯人に直接結び付く情報には、まだ、たどり着いていない。ただ県警は、現在行方不明の吉備義明を一番疑っているようだ」


……え?義明さんを?


「息子の雅明と、ずいぶん折り合いが悪かったらしいからな。カッときて殺したのかもしれないな」


村岡刑事が、そう言った、その時だった。


「た、大変です……っ!!」


声の方を見ると、昼間、雅明君が殺されていた吉備神社で会ったお巡りさんが、息を切らせながら駆け込んでくる。


「どうしたんですか!?」


私が聞くと、お巡りさんは青ざめた顔で答えた。


「『鬼塚』の所で、今度は、菖蒲様の遺体が見つかった……!!」

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