第44話 複雑な人間関係

部屋に戻る途中、不意に廊下の向こうから争うような声が聞こえてくる。


「麻子、あんたじゃないの!?雅明を殺したのは!!」


(え……!?麻子さんが雅明君を殺した……!?)


思わぬ言葉に驚く。


本宮君と柱の陰から、こっそり伺ってみると、麻子さんと菖蒲さんが向かい合って立っているのが見えた。


「麻子、あんた、義明さんとデキてるんでしょ!?」


……えぇぇ~~!?義明さんと麻子さんが不倫してるってこと!?


「誤解です、奥様!私と義明様は、決してそのような関係では……!」


否定する麻子さんを菖蒲さんはさらに問い詰める。


「義明さんの居場所、あんた本当は知っているんじゃないの?もしかして、このまま二人で島を出るのかしら?邪魔な雅明を殺し、私を一人、この島に置いて……!!」


「奥様……っ」


「この泥棒!」


菖蒲さんは言いたいことだけ言うと、麻子さんを残して、立ち去っていった。


残された麻子さんは、その場でうつ向きたっていたけど、少ししてから、その場を去っていく。


な……何だか、みんな複雑で、それぞれ動機があるようだ……。


私達は、周辺から聞き込みをするため、再び吉備家を出た。


「ねぇ、本宮君」


「なあに?」


「私、ちょっと思ったんだけど。吉備家の庭木で見つかったものや、雅明君の遺体にあった、あの紙に書かれた文章って、おかしくない?」


私は、矢で打ち付けられていた和紙を頭に浮かべる。


「鬼を討つって書かれてたけど……殺されたのは、雅明君じゃない?雅明君は、吉備家の人間だから、鬼じゃない。むしろ、犯人が名前に使っている『神の御使い』っていう方が合ってる気がするんだけど」


「確かに、そうね。それはアタシも思ってたわ」


本宮君が言った。


「雅明君が鬼だと言うなら、犯人は一体、何者……?」


私がそう言った時。向こうの小高い丘のようになっている所から人影が降りてくる。


「上原さん」


その人影は、上原樹だった。白シャツにジーンズ、背中には登山リュックを背負っている。


「こんな所で、何を?」


聞いた後、よく見てみると、上原樹の側に鳥居が見えた。


「これは、本宮さん、桜井さん。気分を変えようと、何となく散歩していたら、この鳥居が見えたので、ちょっとお参りして来たんです」


「吉備神社以外にも、こんな小さな神社があったんですね」


そう言って、私は石造りの鳥居を見上げる。


「ところで……吉備家の雅明君。殺されたんですよね。まだ若いのに可哀想に……」


上原樹は、そう言うと悲しげに目を細めた。そんな彼を見つめた後、本宮君が彼に聞く。


「そう言えば、上原さんは、この鬼無島に来るのは初めてですか?」


「ええ。初めてです」


「フリーライターとお聞きしましたが、ここへは仕事で?」


「いいえ。仕事ではなく、オフで来ています。あまり観光化されてなく、のんびり出来そうな島だと思い、この鬼無島に来てみたんです」


「そうですか」


「では、僕はそろそろ行きますね」


そう言うと、上原樹は去って行った。


「他も回って見ましょうか」


本宮君に言われて、私は頷くと、二人でまた歩き出す。


少し行くと、大きな岩で出来た大洞窟が見えてきた。ここには、昨日本宮君と入っている。


何でも伝説によると、昔ここに鬼が住んでいたらしい。中は迷路のようになっていて、複雑な造りになっている。ちゃんと観光用に標識が出て、順路が示されているからいいけど、もし無かったら迷ってしまうかもしれない。危険だからかロープの張られた、その先も洞窟が続いているのが見えた。洞窟内は、外と温度差があり、夏なのにひんやりと涼しい。


私達は、一通り見て回ってから、大洞窟を後にすると、義明さんの行方を聞くために、昨日、彼が会ったはずの氏子の島民のところを訪ねることにした。


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