第46話 第二の犠牲者

「菖蒲さんまで……!?」


お巡りさんの言葉に、思わず声をあげる。


「本宮君!」


私が言うと、本宮君は頷き走り出す。


「ちょっと待て」


走り出した本宮君の腕を村岡刑事がつかんだ。


「事件現場に行くんだろ?俺の車に乗っていけ」


その言葉に、私達は彼の車に乗り、菖蒲さんの死体が発見された鬼塚へと向かう。


「ひどい……!」


観光スポットの一つである鬼塚に着くと、そこには、変わり果てた姿の菖蒲さんの遺体があった。石が積まれた塚のすぐ側に、菖蒲さんは横たわっている。雅明君の時と同様に、背中に白羽の矢が突き刺さり、その矢には、また黒墨で文字の書かれた和紙が打ち付けられていた。


『鬼を二つ討ち取ったり 神の御使い』


全く同じだ、雅明君の時と……!


「本宮」


後ろから、村岡刑事が声をかけてくる。


「県警は、吉備義明を重要参考人として捜査することにしたそうだ」


重要参考人……つまり、義明さんを犯人と思ってるってことだよね。


「本宮君……本当に、義明さんが犯人なのかな?」


「……」


本宮君は黙ったまま、何かを考えている。


「菖蒲様……!」


震える声に、視線を向けると、いつの間にか駆けつけてきたウメさんが両手で顔を覆い、泣いていた。


「雅明坊っちゃんに続き、菖蒲様まで……!」


「ウメさん」


泣いているウメさんに、本宮君が声をかける。


「お聞きしたいことがあります。今日、菖蒲さんと麻子さんが言い争っているのを見かけました。菖蒲さんは、麻子さんと義明さんが男女関係にあると疑っているようでした。本当に、この二人は、そのような関係なのですか?」


ウメさんは、首を横に振った。


「それは、菖蒲様の思い違いだ……。菖蒲様は、過去のことに囚われていなさった」


「過去のこととは、もしかして、吉備家と温羅家の間にあった、何らかのトラブルでは?」


ウメさんは、少しだけ躊躇った後、口を開く。


「義明様が22歳の時のことだ。義明様は、温羅の女と恋仲になったのさ」


「……!」


「そして、義明様は、その女と一緒に島を出るとまで言い出した。当時の当主は、それはもう怒り狂ってな……。義明様には、すでに菖蒲様という許嫁もいたし、何より、吉備の人間と温羅の人間が結ばれるなどということは、この島では許されなかった……」


ウメさんは、涙を流しながら続ける。


「それで、無理矢理二人の仲は引き裂かれ……温羅の女は、島を追放されたよ。その後、その女がどうなったのかは、誰も知らない……」


「その女性の名前は?」


温羅香奈江うら かなえだよ……」


「ありがとうございました」


本宮君がお礼を言うと、私達はウメさんから、そっと離れた。


「本宮君……今の話と今回の事件って、関係あるのかな?」


「……」


本宮君は、また何かを考えている。


「いくつか引っ掛かってることがあるの。それを繋げていくと、たどり着けるような気がする。この事件の真相に」


事件の真相……。本宮君の中では、きっと何かが見え始めてるんだ。


「それにしても、義明さんは一体どこに行っちゃたんだろう?」


私の呟きに、本宮君が言う。


「桜井。県警も探しているはずだけど、アタシ達も、義明さんを探しましょ!」


「うん!」


そして、私と本宮君は、行方不明の義明さんの捜索を始めた。

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