第22話 騒ぎ
「何か起きた……!?」
私は、再び階段を駆け上る。Bデッキに上がると、右手のレストランの方から、人が争う声が聞こえてきた。
「まさか、田所賢也が何か起こしてる!?」
予告通り、爆弾なんか仕掛けた訳じゃないよね!?
私は廊下を走り抜けると、騒ぎの起きているレストランの扉を勢いよく開けた。
すると、奥にあるテーブルをたくさんの乗客が取り囲んでいる。近づいてよく見ると、サングラスをかけたロングの茶髪の女が叫んでいた。
「ちょっと、アンタ達!これはプライベートなんだから、止めてって言ってるでしょ!?」
サングラスを掛けてて、目元が見えないけど。あのウェーブのかかった茶髪の感じと、華奢な体付き、そして甲高い声……。
それは、女優の渡部エリカだった。
そして、渡部エリカの隣で、彼女と同じくサングラスを掛けてて、どうしたらいいのか分からないといった感じで立ち尽くしている長身の男は。
俳優の黒木祐二だわ。
どうでもいいけど、彼女が、あんな絡まれてるんだから、何か一言くらい言えばいいのに、ただ困惑してる様子だ。
ドラマとかでは、いつもヒロインが困ってるところに、颯爽と現れて助けるような役やってるのに。実際は全然違うんだなと、どうでもいい分析をしてしまう。
「いいじゃないですか、ちょっと写真をインスタに載せるだけですからー」
「ちょっと、勝手に載せないでよ!」
スマホを向けてくる乗客に、渡辺エリカが反論した。
「そっちの男性って、誰なんですか?」
一人の男性客が、黒木祐二の方を指差して言う。渡辺エリカが焦った。
「こ、これは……っ」
「もしかして、彼氏ですか?」
「はぁ?そ、そんな訳な……!」
「あれ?そっちの人って、もしかして……」
必死に否定する渡辺エリカの声を遮った男性客が、黒木祐二の方へ顔を近づける。
「やっぱり、あっちは黒木祐二じゃないか!」
「えっ!?じゃあ、二人が付き合ってる噂って、ほんとだったんだ!」
その言葉に、テーブルを取り囲むギャラリーの熱が一層沸騰した。二人に、たくさんのスマホが向けられる。
どうしようと思っていると……。
「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので!」
そう言って騒ぎに割って入ったクルーは……本宮君だった。
でも、本宮君が呼び掛けてるのに、まだ乗客達は渡辺エリカ達の写真を撮ったりしている。
こっちは爆破予告のことで手一杯なのに、こんな騒ぎ勘弁してよね!
その時、ふと思った。
(そう言えば、芹沢さんがいないな)
本職の芹沢さんなら、こんな騒ぎがあったら、真っ先に駆けつけそうなのに。
あらためてレストラン内を見回してみたけど、彼の姿はない。
(他で接客していて、手が離せないのかな?)
そう思ってると、渡部エリカがまた大声を上げた。
「アンタ達、バカのおかげで、せっかくのデートが台無しよ!」
芸能人の苦労に、ちょっぴり同情した、その時。
「ちょっと、すみません!通してください!」
レストランの入り口からする声に振り返ると、芹沢さんが人込みを掻き分けながら、奥のテーブルの方に移動していくのが見える。
「他のお客様のご迷惑になりますので、お止めください!」
奥のテーブルまで行き着いた芹沢さんが、渡辺エリカ達のテーブルを囲む乗客達に言った。
「どうか席に、お戻りください!」
そう言って、芹沢さんは、みんなに元の席に戻るよう促す。
芹沢さんと本宮君が何とか騒ぎを収拾してくれたおかげで、やっとレストラン内は落ち着きを取り戻した。
「お騒がせして、大変申し訳ありませんでした!どうぞ、ゆっくりとお食事をお楽しみください」
私も今はクルーなので、騒ぎを起こしていない、それ以外のお客様達に、そう伝える。
私はため息をついた後、大事なことを忘れていることに気づいた。
「そう言えば、田所賢也をまだ見つけてない!」
渡部エリカ達の騒動に気を取られて、田所のこと、すっかり忘れてた!
私はレストランを出ると、また彼を探し始める。Cデッキには、やっぱりいなくて、もう一度螺旋階段を上ってB デッキに行ってみると。
(いた!)
Bデッキの窓際のソファの側に、田所 賢也が立っているのを見つけた。
(でも、今まで、どこに行ってたんだろう?)
AデッキからCデッキまで探したはずなのに……。
そう思いながらも、もう彼を見失うまいと見張り始める。彼は険しい顔つきで、窓の外の景色を睨むように見ていた。
(あれ?そう言えば……)
私は、ふと彼の変わったところに気づく。
最初に持ってた紙袋がない!
あの紙袋は、どうしたんだろう?
まさか、あの袋に……爆弾が入っていたとか!?
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