第15話 ディナークルーズ
それから一週間後。
私と本宮君は、再び、あのクルーズのある埠頭に来ていた。事前に、三谷船長に話をして、今夜クイーンメリー号のディナークルーズに乗せてもらうことになっている。
あれから調査を進めていくうちに、新たに分かったことがあった。
それは、何と芸能人の男女がひそかに乗船するということ。本名で、乗船者リストに載っていたから、最初は分からなかった。
一人は、女優の渡部エリカ、22歳。本名、
この二人だ。
二人は、週刊紙で何度か噂になっていたけど、交際は否定していた。
だけど、密かに、このクルーズの予約をしているところを見れば、やっぱり付き合ってたんだって分かる。
「もうすぐ乗船時刻ね」
隣の本宮君の言葉に、スマホの画面を見ると6時50分になっていた。
「そだね!そろそろ乗ろっか」
私達は、乗船を始めた他の乗客達に続いて、クイーンメリー号へと進んでいく。
「わぁ、綺麗~!」
船内に足を踏み入れると、まず青と白の美しいエントランスロビーが広がっていて、そこから螺旋階段が上階へと続いていた。天井には十二星座が描かれ、シャンデリアが昼間のような輝きを注いでいる。
「あの、もしかして、本宮さんと桜井さんですか?」
不意に後ろから呼び掛けられて振り返ると、20代前半くらいの、茶色の短髮にピアスをした紺色の制服の男性が立っていた。
「あなたは?」
本宮君が聞き返すと、彼は爽やかな微笑みを浮かべながら答える。
「オレは、クイーンメリー号のクルーの
「そうでしたか。宜しくお願いします」
本宮君が挨拶すると、こちらこそと芹沢さんも返した。
芹沢さんと話しているうちに、クイーンメリーの出航時刻になる。船内アナウンスが流れると、クイーンメリー号は、大きく旋回して方向を変えた後、白い波を立てながら埠頭を離れていく。
「では、船内の説明をしますね」
微かに揺れ始めたエントランスで、芹沢さんが話し始めた。
「このクイーンメリー号は、最上階からA、B、C、D の四つのデッキで成り立ってます。今、オレ達のいるエントランスは、上から三層目のCデッキになります」
「へぇ、四階建ての客船なんですね!」
「はい。そういうことになります」
芹沢さんは頷くと、エントランス右手を指して言う。
「このCデッキは、向かって右側がバーになっていて」
そして、今度はエントランス左側を指す。
「左側がレストランになってます」
芹沢さんが指した方に視線を向けると、廊下の奥にレストラン名の書かれたドアが見えた。
「船の出入り口にあたるCデッキには、バーとレストランがあるということですね」
「そうです」
本宮君の確認に、芹沢さんが答える。
「じゃあ、上のBデッキに行きましょうか」
そう言うと、芹沢さんは螺旋階段を上り始めた。私達も、芹沢さんの後に続く。
「ここがBデッキです。このデッキには、左右両側に、それぞれレストランがあります」
芹沢さんの説明に、まず右側を見ると、細長い廊下の向こうにレストランのドアが見えた。
そして、左側を見ても、同じようにレストランのドアが見える。
「いろんなレストランがあるんですね~!」
私が言うと、芹沢さんは微笑んだ。
「このクルーズは、船上からの美しい景色はもちろん、様々なお料理を楽しめるのも売りなんですよ」
そして、今度は、さらに上へと続く階段を指しながら言う。
「では、最上階のAデッキに行きましょうか」
再び、芹沢さんの後に続いて、私と本宮君は階段を上がった。
「ここがAデッキになります」
彼に言われてデッキを見回すと、階段を上ってすぐの所に広いスペースがあり、奥に見える部屋のドアの前にはロープが張られ、通行止めになっている。
「ここから先は、何があるのですか?」
本宮君がロープの張られた向こう側を見ながら聞くと、芹沢さんが答えた。
「この先は、特別室があります。特別な時にしか解放されません。予告のあった日にも、解放予定はなく通行止めにしているはずです」
そうなんだ。じゃあ、ロープの向こうは乗客の出入りはないわけね。
そう思ってると、芹沢さんが横にあるドアを開けた。
「その代わり、ここから外に出て景色を眺める事が出来ます。どうぞ」
開けられたドアの向こうから、潮風がふわっと船内に入ってくる。本宮君と私は、芹沢さんに続いて外のデッキに出てみた。
「わぁ~、いい眺め!」
外に一歩出た私は、思わず歓声を上げる。
夕暮れが次第に濃くなっていく中、海の向こうに広がる神戸の街並みに明かりが灯り始めていた。
「後30分程すれば、完全な夜景になって、もっと綺麗な景色になりますよ」
芹沢さんの言葉に、これが依頼調査のための乗船だということも忘れて、夜の船上からの風景に胸が高鳴る。
「オレは、お客様の接客があるので、いったん戻りますね。ロープが掛かっていない所だったら、どこでも自由に見てください。もしも立ち入り禁止区域に入りたい場合は、一声掛けてください。では、また後で」
そう言うと、芹沢さんは船内に戻って行った。
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