第4話 謎の尾行
翌日。恵さんの以前の職場に聞き込みに行っていたんだけど。
「三年前?」
そう聞き返す、恵さんの元同僚の彼女に私は頷く。
「確かに、沢城恵っていう女がいたわ 」
「彼女の身の回りで、何か変わったことってなかった?」
「変わったことね……」
そう言って、口にしていた煙草を外した彼女がふと思い出したように呟いた。
「そう言えば、三年前に事件があったわ」
「え……事件?」
「沢城恵とは全然関係ないんだけどね。三年前に、うちの社員が二人、通り魔に刺されたのよ」
「通り魔に!?で、その二人って無事なの!?」
衝撃的な情報に驚いて、さらに聞いた。
「無事よ。二人ともコートの上からだったから、たいした怪我じゃなかったの」
「そうなのね。で、その通り魔にあった社員の名前は?」
「金子勝と課長の桐谷龍一」
「……えっ」
金子勝と桐谷龍一って……。恵さんに好意を持ってた人物じゃない!これって偶然?いや、それにしてはあまりにも……。
「ありがとう!」
私は彼女にお礼を言うと、その場を離れた。
そして、今までの情報を整理してみる。
「あの職場で、恵さんに好意を持っていたのが、同じ職場の金子勝、杉田裕也、桐谷龍一。で、そのうち、金子と桐谷が通り魔にあった……」
これって偶然にしては出来すぎてるよね。恵さんのストーカーと何か関係があるんじゃ?
「もっと情報集めよう」
そう呟いた後、スマホを見てみる。
「もう、お昼か。何か食べようかな?」
そう思った私は、スマホをまた仕舞うと歩き出した。大通りにファミレスが見えてきたので入ることにする。日替わりランチを注文して、本宮君にラインを送ったけど、忙しいのか返信は返って来ない。
その後、食事を済ませてアイスティーを飲みながら、ふと窓の向こうを見て驚く。
「え?」
ファミレスのある道路の向かい側に、昨日事務所のビルの側で見たのと同じ黒い車が停まっていた。
「うそ……!」
こんな偶然あるだろうか?いや、ありえない!
「まさか……付けられてる?」
昨日、事務所の道路の向かい側に停まっていたのは事務所を見張ってたから?
恵さんを付けているというストーカーと、恵さんの元同僚を切りつけた通り魔が頭の中で重なる。
「と、とりあえず、お店を出よっ」
私は飲みかけのアイスティーもそのままに、伝票をつかむと急いでレジに向かった。
そして、会計を済ませ、店外に出る。
道路の向かい側を見ると、やっぱり黒い車が停まっていた。遠目に見ると、運転席にサングラスを掛けた男性と思える人物が乗っているのが見える。
「逃げなきゃ」
そう思って、私が足早に移動しかけると、道路の向かい側からエンジン音が響いてくる。
「……!」
私が走り出すと、その黒い車も動き出した。
やっぱり、私のこと付けてる!
もう間違いなかった。
(どうしよう!)
高校時代、私のファンだという女の子達に追われたことはあるが、男に追われるのはこれが初めてだ。
(どうやったら、あの車から逃げれる?)
走りながら考えて、すぐに思い付く。
(車の入って来れない細い道に入ればいい!)
私は大通りから左折して、入り組んだ小路に入って行った。息を切らしながら走り続ける。
数分走って。
(もう大丈夫かな?)
そう思って、振り返ると。
「……!?」
サングラスを掛け、黒いコートを着た長身の男が、数メートル後ろから私のことを追っていた。その執拗さに、背筋が寒くなる。
(私をどうするつもり!?)
まさか……金子勝や桐谷龍一のように、私のことも切りつけるつもりなんじゃ!?
革靴の音が、さらに近づいて来る。
(本宮君……!)
私はバッグの中からスマホを取り出した。
そして、ぶれる指先で本宮君の番号に電話をかける。数秒間呼び出し音が鳴った後、電話が繋がった。
「桜井お疲れ……て、何でアンタ、そんなに息が切れてるの?」
「今、走ってるの!追われてて……!」
「追われてる?誰に?」
「さっき送ったラインは見た!?」
「見たわ」
「それでね、昨日、事務所の前の道路に停まってた黒い車に乗った男に、今私追われてるの……!」
そうやって本宮君に説明してる間も、黒いコートの男は、私との距離をさらに縮めてくる。もっとスピードをあげなきゃと思ってると。
「きゃ……!」
最悪なことに、私は転がってた空き缶につまづき、転倒してしまった。
「痛……っ」
転んだ拍子に、変な風に足首を曲げてしまい、座りこんだまま足首に手を当てる。
そうしてるうちに、黒いコートを着た男が私に追い付き、すぐ背後に立ったのが分かった。
恐る恐る振り返り、その男を見上げる。男も少し息が切れていて、肩が上下していた。
「アンタ、私をどうするつもりよ!?」
どう考えても勝ち目のない状況だけど、威勢だけは張って聞いてやった。
すると、男は掛けていたサングラスをゆっくり外す。切れ長の冷たい両目が、私を射抜くように見下ろしていた。
「お前。本宮探偵事務所の人間だろ?」
その瞳と同じくらい冷たい声で、男が聞いてくる。
「だったら何なのよ!?」
沸き上がる恐怖を消すように、私は凄んだ。
「アンタ、恵さんのストーカーじゃないの!?」
核心に迫る私に、男は薄い唇を開く。
「俺は……」
続く言葉に、私は驚いて目を見開いた。
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