見えない監視者
第2話 見えない監視者
「あと30分くらいで来る予定よ。依頼人が来たら、お茶出しお願いね」
「分かった」
本宮君に言われて、私は棚の中にあるお茶を確認した。
昨日の面接で即雇用となった私は、今日からもう、この探偵事務所で働いている。事務所と言っても、本宮君と私の二人だけ。今日、早速依頼者が事務所に来る予定だというので、その準備をしていた。
本宮君のオネエ発言から、まだ立ち直れてない私だけど、何とか新しい仕事へ意識を集中させようと頑張っている。
それから数10分後。事務所のインターフォンが鳴った。
「出てくれる?」
本宮君に言われ、私は事務所のドアを開ける。
「あの……今日予約をしている
ドアの向こうには、20代半ばくらいの小柄で、ふわりとした茶色の髪が可愛い女性が立っていた。
「どうぞ、こちらに」
私が言うと、彼女はペコリとお辞儀して、事務所の中へと入っていく。
「初めまして。本宮探偵事務所の本宮忍と申します」
オネエキャラを封印した本宮君が挨拶し、沢城さんにソファに座るよう勧めた。
「あ、はい、失礼します」
彼女は礼儀正しく、黒革のソファに座る。
「コーヒー、紅茶、緑茶がありますが、どれにされますか?」
向かい側に座った本宮君に聞かれ、彼女が答えた。
「あの……緑茶をお願いします」
それを聞いた私は、事務所のキッチンへ向かう。
「緑茶の葉っぱは、ここだよね」
小さなキッチンの棚を開け、緑茶を取り出した。
「そう言えば、緑茶の葉っぱって……どれくらい入れるんだっけ?」
ずっと営業で外ばっかり行ってたから、こういうのに慣れてない。
「ま、いっか。だいたいで」
私は適当に急須に茶葉を入れると、沸かしてあったお湯を注いだ。
お茶を運んでいくと、ちょうど沢城さんが本宮君に依頼の相談を始めてるところだった。
「実は最近、妙な視線を感じるんです……」
彼女は声を震わせながら、そう切り出す。
「視線?」
聞き返した本宮君に、沢城さんは小さく頷いた。
「私は三年前に結婚して、それを機に仕事を辞めて専業主婦だったんですが……。二ヶ月前に久しぶりに仕事を始めたんです。その頃から、誰かに見られてるような、付けられてるような……そんな気がして怖いんです」
そう言って、彼女は膝の上に置いていた両手をきゅっと握る。
「具体的に、何かされていませんか?例えば、職場の帰りに待ち伏せされて、強引に連れて行かれそうになったとか。電話やメールがしつこく来るとか」
本宮君の質問に、彼女は首を横に振った。
「そういうのはないです……。ただ見られているような……そんな感じがするだけで……」
「そうですか……。では、今までにも同じようなことは、ありませんでしたか?」
本宮君の質問に、沢城さんは首を縦に振る。
「実は……結婚する前に仕事をしていた頃も、同じようなことがあったんです」
思い出したのか、彼女の膝の上に置いた手が震えていた。
「その時も、今と同じでした。出勤の時や退社した後なんかに……誰かに付けられてるような」
「以前そう感じた時、警察には相談しなかったんですか?」
「一度だけしました。でも、ただ付けられているような気がするってだけじゃ、どうにも出来ない、気のせいじゃないかと言われて……。それからは相談してません」
沢城さんはそこまで言うと、私の入れたお茶を手に取り飲む。
その直後。
「うっ……!」
急に呻いて、口元に手を当てた。
「どうしましたか!?」
突然の彼女の様子に、私は彼女に駆け寄る。
「ごほ……っ!」
大きく咳込んだ後、彼女が予想外の一言。
「このお茶、濃っ!」
……え、何?私の入れたお茶に蒸せたの?
「あぁ、もうっ!ごめんなさぁ~い!この子まだ新人で慣れてないんですぅ」
とっさのためか、本宮君がオネエ言葉になっている。
「ちょっとぉ!アンタ、お茶一つ上手く入れらんないの!?」
本宮君に、オネエ全開で怒られた。
「す、すみません!すぐに入れ直して来ます!」
私は謝ると、慌ててテーブルに置いてあった急須や湯飲みを回収する。
でも。
「きゃ……っ!」
慌てたせいで湯飲みを倒し、彼女のスカートにお茶を溢してしまった。
「……ア・ン・タ・ねぇ~!」
本宮君の怒りが沸点に達する。
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