第6話

「はい、予約のケーキです」


 店に入るなりにっこり笑って可愛らしい店員さんがケーキの箱の入った袋を差し出してきた。

 俺はカードの暗号に従ってここに来ただけなんだけど。


『 ケタゲ、―カッ、キラト、ヤモセ、デノヨ


      並べて変換してみてね      』








  ケタゲ

  ―カッ

  キラト

  ヤモセ

  デノヨ







 

 五つの言葉を書き連ねて縦読みに変換すると『ケーキヤデ タカラモノ ゲットセヨ』となる。

 その解答に従い店に入ったらケーキを差し出されたのだ。


「……えっと、あの?」

「どうぞ」


 店員はケーキをずいっと俺の前に差し出してくる。

 さっきの本屋と違い店はさほど混んでいない。……こっちの店の方が混みそうなのに。という疑問は置いておき、聞いてみることにする。


「俺、予約なんてしてませんよ? 間違いじゃないですか?」

「いいえ、メモが貼ってあったから間違えてないと思いますよ」

「メモ?」

「はい」


 それを見れば誰の差し金かわかる!


「見せてもらえませんか?」

「いいですよ。……こちらです」


 店員が見せてくれたのは……。


 B6の紙に貼られた俺の写真と印刷された『取りに伺います』の文字。


「……え?」

「他のお客様のは全部名前が貼ってあるんですけどね」


 と一つ持ち上げて見せてくれる。ケーキの箱にセロハンテープで貼ってあるのは確かに名字の書いた紙。


「交代したとき引き継ぎなかったし、さっきこの写真に気づいたんだけど、わからなかったらどうしようかと思ってたんですよ。すぐわかってよかったです」


 にっこりと微笑んで言う。

 アルバイトだろうか。注文者を聞いても知らないんだろうなぁ。

 とりあえずケーキを受け取ると、半透明の手提げ袋に入ったケーキの箱の上にまたしても例のカードが……。一体何枚目だよ。



『    結婚しても花屋の三人娘の頭とお尻が好き♡    』



 花屋の三人娘。

 ちっちゃい頃よく遊んでもらったなぁ。下の二人が姉貴たちと同級生だったはずだ。ももえちゃんとすみれちゃん。上のお姉さんは知らないなぁ。

 花屋は三軒斜め先だ。直接行って聞いた方がはやいな。


 ケーキ屋を出て花屋に向かう。


 だけどケーキを受けとったことで、沙織は消去になった。

 沙織は甘いものが嫌いだ。クリスマスをワインとチーズで祝うことはあっても絶対にケーキなんて買わない。

 残るは里奈の単独か、里奈と克己の共謀か。


 それにしても腹が減ってきた。昼飯食ってから出かけりゃよかった。


「あら、いらっしゃい。珍しいわね。あんたが来るなんて。彼女でもできたの?」


 花屋に入ると先月結婚したばかりのすみれちゃんが白とピンクの可愛らしい花束を器用にリボンで飾り結びをしながら声をかけてきた。


「すみれちゃんこそ、もうはや出戻り? 旦那とケンカでもしたのか?」

「なに言ってんのよ。そんなわけないでしょ。手伝いにかりだされてるのよ。で、あんたはプレゼント?」

「いや、そういうわけじゃなくてさ。すみれちゃんたち三人のフルネームを教えてもらおうと思って」

「なにそれ~。変なことに使うんじゃないの?」


 そう露骨に嫌そうな顔されると傷つくな。


「このカードの謎解きに必要なんだよ」


 すみれちゃんは手を止めず次々と仕事をこなしながらちらっとカードに目をやる。


「なんなの、そのカード」

「わかんないんだけどさ。母さんの字なんだよ、これ。で、今謎解きしてる最中」

「へえ? おばさんの字なの? なんで今頃?」

「わからないからとりあえずやってみてるところなんだよ」


 ポケットから残りのカードも出して見せるとすみれちゃんは、「ふうん。ま、いいわよ」と三人の名前を紙に書いてくれた。


 石田柚香 江角桃恵、新田すみれ


「あー、なるほど。サンキュー、すみれちゃん」

「それであんたは何か買っていかないの?」


 そのまま帰ろうとした俺に商売っ気を出して言う。


 そうだな、何か買ってもいいかもしれない。

 俺はちょこっとスマホで調べてから花束を作ってもらった。真っ白な薔薇にも似た花のラナンキュラスと可愛らしい星のような水色の小花、ブルースター。

 すみれちゃんは意味ありげに笑っていたが、何も言わなかった。


 さて、帰ろうか。

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