第3話

 終業式を終えた学校は誰もいないかと思って戻ったけれど、なんのことはない部活をしている生徒がいっぱいだ。そりゃそうだ。自分はもうとっくに引退しているからそんなことすっかり抜け落ちてた。

 だけど。となるとその部屋は使用中じゃないのか?

 CORNERROOM――文字列の四隅に書いてある部屋。


『      か よ 

      ん い く か

      し ぎ う よ

       し ち      』


 ――音楽室。

 吹奏楽部とか合唱部とかが使っているなら入りにくいなと思い耳を澄ましてみる。……練習している音は聞こえてこない。

 まぁいいか、行ってみよう。

 一段飛ばしで階段を上がる。音楽室は三階の一番奥にある。グランドの方から運動部の掛け声が聞こえる他は物音がしない。廊下を真っ直ぐ突き進み音楽室のドアを開けた。

 なんとなく思ってたけど、そこにはやっぱり人影はない。


『  IN CORNERROOM GP  』


 GPは……グランドピアノかな。

 くるりと一周まわってみる。他の人に見つかったら処分なり移動なりされるかもしれないことを考えると……下を覗きこんでみると。

 あったあった、三枚目のカード。誰もいないってことはこういうことなんだろうなと思ったよ。……っていうか、カード探しなんてやってていいのか俺? 

 溜息一つ吐いてカードの文字に目をやる。


『    Please ask southern uncles from left.


    10-1、5-2、9-1、4-6

    1-4、8-3、14-3、11-2

    15-5、3-3、7-1           』

           

 ……おーい。俺一応受験生なんだけどなぁ。こんなことさせてていいのか? 

 差出人候補者の中には俺が受験生なのを知らない奴はいない。まぁ、ランクを上げたことは誰にも言ってないから、余裕だと思ってるんだろうか。


 南のおじさんたち、ね。俺は南側の壁面上方にずらりと並ぶおじさんたちを見上げた。


 ヘンデル バッハ ハイドン モーツァルト ベートーベン シューベルト

 メンデルスゾーン ショパン シューマン ワーグナー ブラームス

 ムソルグスキー チャイコフスキー ドヴォルザーク グリーク


 15人のおじさんたちが思い思いの方を向いてポーズをとっている。

 今回のはちょっと頭を捻らないとだめか?

 メモが欲しいな。

 書くものを探して教卓の方へ歩きながら考える。


 それにしても母さんは一体なんだってこんなカードを作ったんだ?


 あ? ちょっとまて、何かひっかかった。

 うん、そうだ。差出人はカードを受け取るだけじゃなく、問題も一緒に作ってる。母さんにはここのおじさんたちの並びは知りようがなかったはずだから。

 それなら姉二人が一番あやしいのか? 三年以上前にここの音楽室に出入りできたのは二人だ。中学生だった里奈や克己、それから親父には知りえない情報。

 いや、そもそも差出人と問題作成者と情報提供者は同じなのか?

 う~ん、こんがらがってきたぞ?


 あれ、教卓にも書くものがない。……っと、ここにでっかいのがあるじゃないか。とりあえずこっちの問題を解いてしまおう。

 俺は黒板におじさんたちの名前を書き連ねた。

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